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平家蟹の巣へ――神剣の借り受けを頼む

 捜索隊の編成と準備が整えられた。翌日、庭先にフウカとカイト、護衛兵十人が顔を揃えた。フウカは、フウランのような姫装束を着せられていた。

(動きにくいのに……。カイトは、何を考えてるのだろう?)

 不満が募る。あまり乗り気でないところに、この衣装だ。

「みんな揃ったようだな。出発の間に、同行者を紹介しておこう」

 カイトは、元軍を迎え撃ったときの「勇者」のかっこうをしている。

 笑みを浮かべながら、介添え役らしい若者に手を引かれたお坊さんを横に立たせた。琵琶を抱えている。どうやら目が見えないようだ。それに両耳がない。

(あれ? ひょっとして……)

 フウカは、ハッとした。会ったことはないが、物語に出てくる有名人が思い浮かんだ。

「皆も知っていると思うが、『耳なし芳一』さんだ」

 ニヤニヤしながら、フウカの方を向いた。

(……やっぱりね)

 「耳なし芳一」の話は、語り物として広く知られている。

 おそらく鎌倉時代のことであろう。下関(現在の山口県)の赤間関の阿弥陀寺で琵琶法師の芳一が練習をしていると、武士らしい男の声で語り掛けてきた。

 男は、貴人の前で六日間「平家物語」語って欲しいと依頼した。三日目の夜、不審に思った寺の住職が後を付けると安徳天皇の墓の前で、琵琶を弾いている芳一を見つけた。

 寺に連れ帰った重職は、芳一の全身に魔除けの経文を書きつけた。五日目の朝、住職が様子を見に行くと、両耳をもがれた芳一が倒れていた。住職は、うっかりして耳に経文を書くのを忘れてしまっていたのだ。

――こんな話だった。

 赤間関は海に面しており、「壇ノ浦の戦い」で安徳天皇が入水した場所に近い。平家方の御霊が芳一の琵琶上手を知って迎えにきたのであろう。

(なんでまた幸いにも難を逃れた芳一さんを連れて行くのよ!)

 カイトの意図を測りかねた。怒りが湧いてくる。

「この訪問は、法師も承諾なさっている。むろん警護は怠らないよ」

 カイトは、淡々と答えた。

 本人が承諾している以上、フウカが言い募ることはできなかった。


 およその目的地は、事前調査で目途がたっていた。一行は護衛兵を含め14人。7匹の亀に分譲して向かった。全員、「光の繭」をまとっているので、溺れることはない。

 三十分ほどして、目的地が見えてきた。平家蟹の巣だ。岩石が積み重なった場所で、周囲を蟹たちが囲んでいる。岩の間からも、姿をのぞかせていた。

 少し離れた所で亀から降り、近づていく。一斉に威嚇してきた。(はさみ)をガチガチさせながら、襲う構えを見せている。

 やがてひときわ大きな蟹が両手の鋏を振り上げながら、前に出てきた。ボワッと姿が揺れかすむと、鎧兜の武士が現れた。腰の刀に手を掛けている。背後の蟹たちも同様に変身していた。警戒心がみなぎっている。

「何者だ!」

 先の武士が、語気鋭く誰何(すいか)した。

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