平家蟹が剣を持ち去ったわけは
「ちょっと待って。探索に出かける前に聴きたいことがあるの」
フウカは、カイトが話を進めるのを遮った。
「何だい?」
「いくつかわからないことがある。まず何で平家蟹が、剣を持ち去ったの?」
理由が不可解だった。警戒が厳重な宝物庫に忍び込んで持ち出すなんで、まさに命がけ(霊界であっても存在を賭けた)行動であろう。それなりの理由があるはずだった。
「確かにね。理由はあるよ。とても重要なね」
「……?」
「知っての通り平家蟹たちは、『壇ノ浦の戦い』で敗れた平家方の武将や侍従たちの御霊だ。彼らが守っていた安徳天皇に従ってね」
フウカも、それくらいは歴史の授業で習って知っていた。
戦いに敗れることが決定的になった時、幼い安徳天皇は祖母や側仕えの女官たちと共に入水した。その際、「三種の神器」の一つである剣を伴っていた。なぜなら剣は、「天皇である証拠」そのものであるからだった。
伝えに依れば、「どこへ連れていくの?」と仰ぎ見て尋ねる安徳天皇に対して母方の祖母である「二位の尼」(平時子、平清盛の継妻)は、「弥陀の浄土へ参りましょう。波の下にも都がございますよ」と答えたという。
「海の底の都に住むことになった安徳天皇にとって神剣は、絶対に必要であった。それで天皇の霊に仕える平家蟹たちは入水の途中で見失った剣を必死で探した。やっと見つけて取り戻した……というところなんだろうな」
カイトは、しれッとした顔で推測を述べる。
「だったら、平家蟹たちの行動に正当性があるんじゃないの! 取り戻す必要なんてないんじゃない?」
「まぁ、そうなんだけどね。でも、今は自分たちも必要なんだ。理由は、前に話たどろう?」
「……」
――そうだった。火竜の突進を防ぐためには、欠かせないアイテムだった。
「後ろめたいなら、『一時的に借りておく』と考えたらいいんじゃないかな。事が終わったら返せばいい。今の天皇家に必要はないからな」
現在、宮中に在る剣、熱田神宮に祀られている剣、」そして、海底に眠る剣は、「霊的に同体」である。不都合はない。
「納得できたなら、ちょっとお借りしに行こうじゃないか」
フウカも準備のため、しぶしぶ腰を上げた。




