緊急の知らせ!――モンゴル帝国が来襲
「博多津の宋商人からの情報ですが、高麗を制圧したモンゴルが、次いで日本侵攻を企てているようなのです。
手段方法を、あれこれ考えているようなのですが、博多への正面攻撃の他、裏玄関の坊津から攻め入ることも検討されているとのことです。
その足掛かりとして、徳之島がねらわれているとの話でした」
「……」
カイトは、腕組みしてジッと聴いていた。理由は、すぐに理解できた。
準備を整え、万全の態勢で本土上陸するための補給基地として、必要なのだろう。船団は奄美大島と加計呂麻島の間にある瀬戸内海峡に集結させるにしても、食糧や船の調達は、隣の徳之島でおこなわなくてはならない。
この島に三つの商団があることは、すでに掌握されていた。船や食糧などを接収し、先兵となる人員も賄えると考えたのだろう。まずは小規模の船団を派遣し、島に拠点を築くことにしたらしい。その具体的なルートと時期も、伝えられてきた。
「船団は六隻で現在、済州島を経て五島列島の福江島を手始めに、九州沿岸や島々の漁村で略奪行為を繰り返し、途中から奄美へ向かうようです」
遠征には、現地での水と食料の補給が欠かせない。
「薩摩の国、坊津の周辺へは、近づかない?」
「ええ、警戒が、厳しいですからね。薩摩の河辺郡には最近、鎌倉幕府から『海の武士団』と呼ばれる水軍が配備されましたので――」
(『海の武士団』、千竈氏か。やはりな)
カイトは、これまでに調べたことを頭の中で整理した。
「敵の兵力は、どれくらいだ?」
「大型船六隻です。乗員は、一隻当たり一五〇人あまりでしょうか。
モンゴル兵が指揮していますが各三〇人くらいで後は、徴用された高麗人のようです」
(合計で約九〇〇から一〇〇〇、戦闘員は、七二〇から八〇〇といったところか――)
カイトは、思った。
前回の「旅」で何度か海戦を経験しているので、だいたいの推測はできた。 小さな街程度の拠点攻撃には、十分な数であった。
「トカム」の街を押さえて、順に村々を制圧していけば島全体を掌握するのは、けして難しくはない。取り敢えずは、拠点確保さえできればよいはずだ。
「まずは、上陸を阻止しなければなるまい。あと何日くらいで、徳之島へ到達する?」
「急ぎの遠征ではないようですから、奄美大島で最後の補給をして、やってくるでしょう。それに、奄美の手前には『七島灘』があります。 早くて一五、六日といったところでしょうか」
「七島灘」は、屋久島と奄美大島の間にある吐噶喇列島周辺の海域を指す言葉である。この海域は、「海の難所」として知られている。なぜなら黒潮が、横切っているからだ。
黒潮の流れは最大、時速七・四キロほどで、押し流す力も圧倒的だ。近代の船舶でも、難破させてしまう。帆船が、風力や人力だけを頼りにして流れを押し渡ることは、まず不可能である。
また、潮流の動きも複雑だ。季節や天候によっても変わる。よって、潮の流れを熟知し操船技術に熟達していなければ、とても奄美諸島へは到達できない。
秋には「新北の風」が吹くので南下するときは順風となり、モンゴル軍も楽に進めるだろうが、この海域でトライ&エラーを繰り返し、足踏みすることになるだろう。
(ようするに後二週間余りで、守備態勢を整えなくてはならないのか……)
「身共も、この知らせを受けて、恐れおののきました。一、二隻の海賊船でしたら撃退できますが、大陸からの軍船に対しては、なすすべもございません。
途方に暮れているとき、女王様の啓示が、ございました。祭殿で巫女修行をさせていた末娘に『美華』様の御霊が、依られたのです。
その告り言によれば、大陸の軍勢が沖縄へ押し寄せた際、勇者様が現れて味方勢力を結集させ、みごとに撃退なさったのこと。
その勇者様と美華様の霊的継承者である巫女様が、再びトカムの窮地を救うため、島に降り立ちなさると告げられました。
我ら一同、心より安堵いたし、今日と言う日を待ち望んでいたのです」
義高は期待の眼差しを、カイトへ向けた。
(ミーカナのやつ、面倒ごとを押し付けやがったな。沖縄の在地勢力を結集させ撃退したのは、お前と李船長だろう)
ペロッと舌を出す美華の姿が、想い浮かんだ。
「わかった。できるだけのことはしよう。
最初になすべきは、この巫女の身体に眠る『剣姫』を呼び醒ますことだ」
フウカの方へ、二人の視線が注がれた。
「えっ、私――?」
お客様気分でいたので急に注目を浴び、ドキッとした。
「承知いたしました。祭場は、いかがいたしましょう?」
「神殿で、よいだろう。明日には、おこないたい」
カイトに儀式の知識があるわけではない。
(神殿へ座らせておけば、美華が何とかするだろう。
それくらいは、責任を持ってやってもらわなければ困る)
確信は、あった。
神殿は、美華が巫女修行した古巣である。現在、美華の彫像が祀られているとのことだった。まるで神様扱いだ。
「かしこまりました。さっそく準備をさせましよう。
今日のところは、ゆっくりお寛ぎください」
義高はうなずき、控えていた侍女たちに指示を始めた。そうこうしているうちに扉が開き、浜で出迎えてくれた娘たちが入ってきた。




