表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/48

「時渡り」の旅へ――「剣姫」としての使命

「ママ、ウサギが話した!」

 身をこわばらせたまま、叫んだ。

「えっ、何?」

 カイトと向き合っていた滝子には、ヌイグルミの動きは見えなかったようだ。

 落ち着いた様子から見て、声も聴こえてないようである。

「動いたのよ。これが――」

 ウサギを指さしながら、訴え掛ける。

「――どうしたの?」

 ますます疑問そうな顔になった。

 カイトは、平然とした態度でコーヒーを口に運んでいる。

 フウカは、カイトをキッと(にら)んだ。

「この人形、ロボットなんですか?

 急に話したり動いたりしたら、驚くじゃないですか」

 声に怒りが、こもっていた。

「吾は、人形ではないでござる」

 また、頭の中にアニメ声が響いた。

 フウカは、混乱した。

「驚かせてしまって、申し訳ありません。

 改めて紹介します。

 親友のクンダルです。

 小さいけれど、人間なんですよ」

 カイトが、ヌイグルミを両手で持ち上げた。

「クンダルと申す」

 頭部を外し、素顔を見せた。

 念話ではなく、普通の声で挨拶した。

「……!」

 今度は滝子も、目を見開いた。

 驚きで、絶句してしまったようだ。

 手を口に当てている。

「こうでもしないと、信じていただけないと思って――」

 クンダルの着ぐるみを脱がせながらカイトは、弁明した。

 フウカは小人の丸っこい顔を、正面から見つめた。

 ちょうど目の高さにある。

 クンダルは両掌(てのひら)の中に収まり、ニカッと笑った。

「――カイト君、これは、いったいどういうことなの?」

 動揺を抑えながら滝子が、尋ねた。

「『御先祖様を援けに行く方法』があるということを示したかったのです。

 クンダルは、約一千年前の世界から時を超えてやってきました。

 友人のカミが、連れてきてくれたんですけどね」

「カミって、神様?」

「ええ、三年前、平安時代末期の奄美や沖縄に跳んだことがありまして、その時の『旅』でお世話になったカミ様、竜神様なんですけどね。

 今回も、手助けしてくださることになったんです。

 クンダルは、その時に知り合った仲間なんです」

 カイトは、人間の友人を紹介するように語った。

「……カイト君、あなた、何者?

 先日と、雰囲気が違うんだけど――」

 不信感が、ぶつけられた。

「つい最近まで、『旅の記憶』が封じられていました。

 カミ様が、それを解いてくださったんですよ」

 静かな笑顔を保ちながら、カイトは語った。

「この世が、終わりを告げるかどうかの瀬戸際(せとぎわ)でござる。

 当代の『剣姫』であらせられるフウカ殿のお力が、必要なのでござる。

 どうか御理解を(たまわ)りたい」

 クンダルも胡坐(あぐら)をかき両手を膝に付いた状態で、深々と頭を下げた。

「……」

 落ち着きを取り戻した滝子は、二人の言葉に(うそ)はないことを感じた。

 とても信じられないことではあるが、目の前に小人がいる。

 御剣様に仕える身としてカミの存在も、否定することはできない。

 それに「この世の終わり」についても源造から、さんざん聴かされてきた。フウカが見たという「予知夢」のこともある。

(やはりフウカは、『剣姫』なのか。

 千竈一族の末裔として与えられた使命なのか――)

 源造との会話が、一挙に思い出された。

 「有り得ない」と思っていた「時空を超える方法」もあるという。

 「そんなバカなこと」と笑い飛ばしたくても、目の前のテーブルに平安時代からやって来たという小人が、チョコンと座っている。

(こま)が全部、出揃(でそろ)ってしまった。

 もう避けられない)

 観念するしかなかった。

 後は、フウカの意思だけである。

 隣のフウカを見た。

 身を固くして、うつむいている。

「……フウカ」

 そっと声を掛けた。

「私――、どうしたらいいんですか?

 学校は、休みたくないですよ!」

 顔を上げ、唇を引き結び、キッとした口調で言った。

「――ありがとう。助かる。

 無理言ってゴメンね」

 カイトとクンダルが、頭を下げた。

「でも、私、何の力もないですよ?」

 心もとなげな様子だ。

 ファタジー小説の主人公である「勇者」は体力や剣技に優れ、魔法も使えたりする。でも、フウカは、どれも持っていない。

 いちおう弓道部なので基礎体力はあるつもりだが、人並み以上と言うことはない。大人の男性と互角に闘えるはずもなかった。ましてや怪物となんて、想像もできない。

「ご安心召()され。

 剣姫としての知恵と技は、身体が受け継いでいらっしゃる。

 完全に覚醒なされたなら、自然と(よみがえ)ってくるでござる」

 クンダルが、自信たっぷりに答えた。

(えっ?

 何を根拠に、そんなこと言えるんだ)

 カイトは剣姫が必要であることはわかっていたが、その具体的な能力については知らなかった。だが、クンダルは承知しているようだ。

「わかりました。

 信頼することにします」

 クンダルを見つめていたフウカも、きっぱりと言い切った。

「有り難い」

 小人は立ち上がって、カイトのショルダーバックの中から取り出した。自分の身長ほどの細長い物だ。錦織の袋で包まれている。

 家を出る前にクンダルに頼まれて入れておいたが、中身については知らなかった。

 クンダルは袋から取り出し、フウカの前に高々と差し上げた。

 緻密(ちみつ)細工(さいく)(ほどこ)された銀装飾の懐剣(かいけん)(全長十五センチ)であった。

(あれは、ミーカナの懐剣!)

 一千年前、徳之島から()()()()(沖縄)へ船旅に立つ際、「トカム」の国王で父親の徳義王から(さず)けられた物だ。島生まれの大伯母(おおおば)が、先祖から受け継いだ宝剣だと聞かされていた。

 大伯母は、北九州一帯の島々と沿岸の海人族「アヅミ」を統括していた大巫女(オオミコ)の血を引いているという。島の神女団の(おさ)であった。そんな大伯母からの伝承物である。ただの懐剣であるはずもなかった。

『いいのかい?』

 カイトは、クンダルに念話で問うた。

『ああ。ミーカナの了解はとってござる。

 本来、フウカ殿が受け継ぐべきもの――』

 振り向いて、軽くうなずいた。

 その間、フウカと滝子は、古色(こしょく)蒼然(そうぜん)としてはいるが神秘的な気配を放つ懐剣を見つめていた。目が吸い寄せられて離れられないといった感じだった。

「受け取ってくだされ。

 フウカ殿の身分を示す(あかし)となるものでござる。

 後で、必要となりまする」

 真剣な眼差しであった。

 小人のクンダルにとっては、とても重そうだ。

 フウカは、そっと手に取る。

 その瞬間――、懐剣から光が、放たれた。

 滝子は、思わず目を(そむ)けた。

 再び視線を戻すと、フウカの様子が変だ。

 両手で、縦にギュッと握りしめている。

 満面の笑みを浮かべていた。

「カイト、息災であったか。

 良かった。気になっていた」

 親し気に話し掛けた。

「えっ?」

 カイトは戸惑いの様相を見せたが、すぐに我を取り戻した。

「ひょっとして、……ミーカナか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ