表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/48

時空を超え、妖異に奪われた聖剣を探せ!

「……」

 方法は、知っている。何度も経験したからだ。


「そこで、何を?」

「インドネシアからやってくる火竜が『オロチの巣』とぶつかるのを、阻止して欲しい。

 そのためには威力ある『竜蛇の剣』が、必要だ。しかし、熱田神宮のものは動かせない。

 なぜなら、当所を鎮護し『国土を(つな)ぎ留めている(くさび)』だからだ」

「何、それ?」

「その説明は、後でおこなう」

「……了解」

「幸いなことに別の聖剣が、ある。

 君もよく知っているやつだ」

「――あっ、わかった。

 『壇ノ浦の戦い』で、安徳天皇と共に海へ沈んだやつかな?」

「正解――。

 それを、手に入れて欲しい」

「でも、一説によると、海竜王の臣下が回収して竜宮城へ運び、そこで保管されていることになっているけど?」

「そう、事実だ。

 ボクの父の宮殿で、預かっていた。

 しかし、……」

 珍しくゼンが、言い(よど)んだ。

「失くしたのなら僕らが行くより、ゼンたちが探した方が、合理的じゃないの?」

「……できないというか、やりにくい事情があるんだ」

 顔を(くも)らせる。

「……?」

「盗み出されたんだよ……犯人はわかっている。

 『平家蟹』たちだ。

 父が、兵を(ひき)いて見回りに出ている(すき)にね」

「平家ガニって、あの――?

 リアルな生物としてのやつは、小さいぞ。

 集団でも、刀なんか運べないと思うけどな」

 船戦で源氏方に破れ、海に沈んだ平家方の貴族や武士たちの怨霊が、カニの姿で群れを成し、海底をさまよい歩いているという伝説を持つ。

 甲羅が、怒った人の顔に見える。

四角形に近く、平均サイズは縦横とも二センチくらいである。二、三十メートルくらいの深さの海底に棲む。

「むろん霊界に棲むやつらだから、人間の顔サイズもいる。

 脚を入れたら、横幅一メートル以上ある。

 運ぶだけなら、三匹で十分だ」

 大小のカニが宝物庫へ忍び込み、そっと持ち去ったらしい。

「――なるほど。

 でも、油断し過ぎじゃないか。

 竜宮城って、タイやヒラメが舞い踊っているだけなのか?」

「……面目(めんぼく)ない。

 普段から、いろんな生き物が出入りしているんで、目に留まらなかったらしい」

 カイトのイジりに反発することもなく、しょげた様子を見せていた。

 ゼンは、ほとんど陸上で暮らしているので仕方がないのかもしれない。だが、竜王の娘としての責任を感じているのだろう。

「どうして捕まえて、退治することができないんだ?」

 兵士が戻ってくれば、簡単にできるはずだ。

「相手が、怨霊(おんりょう)であっても『天皇の血を引く者』の眷属(けんぞく)たちだからだ。(あるじ)は、本来の『聖剣』の持ち主でもある。

 竜宮城は、拾って預かっていただけだ。

 また、王権をめぐる人間世界の争いごとに、巻き込まれたくないというのもある」

 竜王も、カミである。理由なく一方の味方に付くことは、避けなくてはならない。

「わかった。やってみるよ」

「助かる。

 まずは、父の宮殿、竜宮城へ来て欲しい」

「うん。……でも、フウカさんへの説明が、難しいな」

 思案が、つかなかった。

(竜宮城へ行くなんて言ったら、(あき)れられるだろう)

 ()(がお)で言っても、冗談だとしか受け取ってくれないに決まっている。

「せっかくだから、カメを迎えに寄越(よこ)すよ。

 浦島太郎の気分が味わえるぞ」

 悩むカイトを他所(よそ)に、ニヤニヤしながら言う。

(さっきの仕返しなのか?)

 ゼンを軽く(にら)む。

「竜宮城では、美しい乙姫(おとひめ)様が出迎えてくれるのかい?」

「ああ、大歓迎さ。

 ボクが顔に、(べに)白粉(おしろい)を塗りたくって出迎える。

ご希望なら、ゴスロリかメイド服を着てやってもよいぞ」

「はぁ――?」

 たぶんカイトの顔に「何をバカなことを言っているんだ」と書いてあったのだろう。

「だって、ボク、乙姫なんだもん」

 口を(とが)らせ(ほお)をプーッと(ふく)らませ、ちょっと(おこ)った口調で言った。

「ゼンが、乙姫――?」

 そう言い掛かって、ハッとした。

(――ゼンは大海竜王の三女だったよな。

 だったら確かに……)

 思い出した!

 江戸時代以前は、女性の真名を人に告げることはなかった。

 その代わりにニックネームや兄弟・姉妹関係で呼ばれたり、名乗ったりした。

 姉を「大姫(おおひめ)」、妹を「乙姫」と言った。

「どうやら、分かったようだね」

 エヘヘッと、勝ち誇ったように笑う。

「だったら、あの物語の乙姫は……?」

「ああ、ボクだよ。

 ある時、かわいがっていた()(がめ)が、迷って浜に上がってしまってね。

 人間の子どもたちにイジメられているところを、タロウって青年に助けられたんだ。

 それで、ちょっとお礼をしたわけさ」

「――あれは、ホントの話だったんだ」

「そうだよ。

 でも、ちょっと失敗してしまったな。

 ボクらの世界と現世では、時間の流れが異なる。それを、忘れていた。

 タロウには、迷惑をかけてしまった。まあ、結果オーライだったけどね」

 ゼンは、つい先ごろの出来事のように話した。

 カイトは、あらためて異世界のカミであることを実感した。

「ところで、さっきの話だけど、何か案はある?」

「あるよ。

 そうだろうと思って、こいつを連れてきた」

 ゼンは帆布製のトートバッグから、ヌイグルミのようなものを取り出した。

「あっ! これは――」

 一目見た瞬間、カイトの顔に喜色があふれた。

 黒っぽい野ウサギ、正確に言うと「アマミノクロウサギ」だ。

 奄美大島と徳之島にしか生息しない特別天然記念物である。

 テーブルの上に座った姿勢で置かれた、体長一七センチほどの仔ウサギ――。

 耳が小さく、手足も短い。

 首に赤いリボンが、結んである。

 少女が持ち歩いていても、おかしくはないものだ。

 カイトは身を乗り出して、ジッと見つめた。

 すると――。

 ウサギの目が、カイトに向かってギョロッと動いた。

「――お久しぶりでござる。

 息災(そくさい)であられたか?」

 高いアニメ声で、語り掛けてきた。

 頭の中へ、直接に……である。

「ああ、元気だよ。

 クンダル、また会えてうれしいよ」

 周囲の目を気にして、ささやくように答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ