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永遠の十六歳、ゼンこと「善女竜王」との再会

 カイトは、再び熱田神宮にいた。

 滝子たちに、何らかの手掛かりを提供しなければならない。残りの夏休みを使って、探すことにした。

 しかし、当てがあるわけでもなく、原点である神宮の杜に足を運ぶしかなかった。

 暑さは収まっていないが杜を渡る風には、秋の気配が、わずかに感じられた。

(どうしたものかなぁ――)

 身体の感覚だけを頼りに歩き回っているが、手掛かりとなりそうなものは、まったくない。

 「タイムトラベル」の可能性は、物理学会で否定されている。とくに過去へは、絶望的だ。

 時間の流れに早い遅いはあっても、不可逆性は変わらない。

 疲れたので、木陰のベンチに腰を下ろす。

 もう陽は、傾きかけている。

 ――眠気が、襲ってくる。

「元気? 久しぶり!」

 目の前で、かわいい声がした。

 ビクッとして、顔を上げる。

 少女が、笑顔で立っていた。手を後ろに組み、笑顔を浮かべていた。

 かなりの美少女だ。高校生くらいか?

 海老茶色のアーミーベレー帽を被り、髪は、肩で切りそろえていた。

 服装は白のブラウスに赤い紐リボン、帽子と色合わせした(がら)スカートといった格好だ。

 「アイドルグループのセンターか?」と、ツッコミたくなる。

 親しげに声を掛けられたが、見覚えがない。

「あっ、こんにちは……。

――あのう、どちら様でしたかね?」

 ギクシャクした変な問い掛けとなった。

「やだなぁ――、ボクを忘れたのかい?」

「へっ?」

 やはり記憶にない。

「ゼンだよ。

 この美少女を忘れたのかい?」

 気を悪くした様子はない。からかい気味の言い方だ。

 顔を寄せて、ジィーと見つめてくる。

「……」

 ドキマギしてしまった。言葉が出ない。

「まっ、当たり前か――。

 さっき適当に憑依したばかりだからね。それに、フタをしたままだった」

 カイトの頭の上に手を載せる。

「うわっ!」

 脳が、かき回された……感じがした。

 激しい眩暈(めまい)――。

 身体の奥底から様々な記憶が、あふれ出てきた。

「ゼン、ゼンなのか?

 顔を見て、わかるはずがないじゃないか」

 カイトは、かつての友の姿を重ねていた。

 長い冒険の旅を共にした仲間であり、命の恩人でもある。

 あれから、もう三年たった。

 嬉しさが、こみ上げてきた。

「まぁ、座れよ。

 今回は、ブリブリの女の子の姿で現れたな」

「ボクとしは、『サバサバ女子』のつもりなんですけど――」

 横へピョンと、跳ねるように座る。

 両手をベンチにつき、脚を数度バタバタさせなから、言い返した。

「ゼンって、そんなキャラだったか?」

「ボクって、変幻自在さ。

 『女子、三日会わざれば、刮目(かつもく)して見よ!』ってね」

 ニヤッと笑う。

 ゼンこと「善女竜王」は八大龍王の一人「沙竭(シャカツ)()(リュウ)(オウ)」の三女で、ヒマラヤの北、ガンジス川の源流域にある「無熱(ムネッ)()」で生まれ育った。

 縁あって空海が唐での留学を終えて帰国するとき、一緒に日本へやってきた。

 長さ八寸(二四センチ)の小さなヘビの姿であることが多い。色は、クリーム色だ。

 ときとして巨大な金色(こんじき)の竜となり、空を舞う。

 日本では降雨をもたらしてくれる神として、信仰されてきた。

 平安時代においては、主に天皇の住居である大内裏(だいだいり)に南接した「神泉(しんせん)(えん)」に棲んでいた。

 高野山金剛峰寺の他、各地に社がある。

 昭和に入ってからは、日本を代表する電気機器メーカーの創始者の家にも祀られ、相談相手になっていた。その企業は、竜を守護神とし、今でも各事業所で祀っている。

 現在は、皇居の池をメインの住居としているという。

 自称「永遠の一六歳」だ。

 霊感体質の少女を見つけては憑依し、あっちこっち歩き回っているらしい。

「カイト、ちょっと見ないうちにイケメンになったね。見違えちゃった」

 かわいらしい声だ。妹キャラで「おニイちゃん」とでも、言い出しそうな感じである。

「……」

 高校二年生になる前の春休みにカイトは、時空を超える「旅」に出た。

 その途中でゼンと出会い、共に妖異や怪物と闘った……いや、助けられたといった方が、正しい。 

 頼りになる仲間であった。

 ときには、春の上野公園で満開の桜並木の下を歩いたり、秋葉原で遊んだりした。

 最後は、ラスボス級の怪物に挑んだ。

 金竜と変じたゼンに騎乗し、生死を賭けた激烈な闘いを繰り広げたのだ。

 ――それらの記憶が、鮮明に(よみがえ)っていた。

 当時は少女の姿であっても、けっこう威厳ある言動をしていたので、そのギャップに戸惑ってしまっていた。

「カイトぉ――、パフェ、食べたい!」

 ゼンは、声を上げた。

「……じゃあ、喫茶店へ行こうか?」

 物思いにふけっていたカイトは、ハッと我に返って答えた。

 ――近くの喫茶店へ向かう。

「ねぇ、ねぇ、カイト、『お兄ちゃん』と呼んでいい?」

 店に入って席に着くと、小声でささやいてきた。

「な、なに言ってんだ! ダメに決まってるだろ」

 あわてて否定する。

「……だってぇ――、私たちって、たぶん不審なカップルだと思うよ」

 ゼンが、そっと言う。

「……?」

 言っている意味がわからなかった。

 周囲に視線を走らせる。

 確かに店員や客がチラッチラッと、こちらを見ているような気もする。

 改めて自分の服装を点検する。

 Tシャツに、ジーンズの短パンだ。

(別におかしくは、ないだろう?)

 (すそ)を引っ張って、Tシャツの前を見る。

 ユウヤから貰ったものを、何気なく着てきた。

 黒の布地にゾンビのような顔と(地獄の)炎のイラスト……ヘビメタの「布教活動」用グッズとのことだった。

 おまけに陽射(ひざ)しが(まぶ)しいのでサングラスを、持っている。

 服装だけ見れば、「かわいい女の子を見つけて声を掛け、強引に引っ張ってきた軽薄なアンちゃん」と見られてもしかたがない。

「……しかたがないだろ。

 あなた様と会うなんて、考えてもいなかったんだからな」

 ボソボソッと、言い訳をする。

「まぁ、いいわ。許してあ・げ・る」

「何だよ、それ。

 僕が、悪いのか?」

 アタフタしたのを隠そうとしているような言い方になった。

 ――そんなやり取りをしているうちに注文していたフルーツパフェと、アイスコーヒーがやってきた。

 ゼンは、うれしそうに専用スプーンを手に取る。

(かわいい――。

 美少女にフルーツパフェは、定番だな)

 ふと思ってしまった。

 ゼンは手を留めて、ジトッとした目つきで見上げる。

(見抜かれたか……)

ドキッとした。

 しかし、すぐに少女は笑顔に戻り、再びセッセと口に運び始めた。

 カイトがアイスコーヒーをすすりながら窓の外を眺めているうちに、完食したようだ。

「フゥ――、落ち着いたわ。

 おいしかった」

 満足そうな顔だ。

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