千竈氏の「私領」となった奄美群島――徳之島は「姫」へ
「最初の話に戻るけど、私の御先祖と徳之島は、どんな関係があるの?」
「それなんですけど、徳之島は千竈氏の娘に譲られちゃっているんですよ」
「その娘が、領主になったの?」
「まぁ、形の上だけのことでしょうがね。
それでも、何らかの思惑はあったんじゃないかと考えているんです。
娘は、『ヒメクマ』とニックネームで呼ばれていた少女みたいですね」
『千竈時家処分状(千竈家文書)』には、家長であった時家の子どもたちや家人に与えた土地や財産が克明に記されている。
対象者は、時家の嫡子、貞泰を筆頭とする兄弟三人と娘二人、それに二人の女性で、計七人である。女性は、一代限りの所有権となっている。
千竈氏の「私領郡」とされている奄美群島も、島ごとに分配されているのだ。
徳之島は、「ひめくま(姫熊?)」と呼ばれていた少女に与えられた。
当時は、女性を実名で呼んだり記したりはしなかったので、愛称もしくは幼名であったことだろう。
「その子が、千竈氏の『剣の守り人』と関係するの?」
「そこまでは、わかりません。
でも、徳之島がヒメクマに与えられたのは、千竈氏にとって政治的に有利になるような『宗教上の理由があったのか?』とは考えています。
当時の南西諸島は、『女性の祭祀者が、神権を持っていた』と思われるからです。
神事と政治は、密接関係にありましたからね」
「つまり『祝女』と王様との関係みたいな?」
「よくご存じですね。
ただ、まだ奄美群島に琉球王朝の力は及んでいなかったので、その影響があったかどうかはわかりませんが、機能としては、似たようなものだったんじゃないですか」
滝子は、スラスラッと歴史を解説するカイトに驚嘆した。いくら関心があって勉強したといっても、とても大学二年生の知識量ではない。
ふと気が付くと、フウカの姿が消えている。
周囲を探すと下の拝殿、板の間に横たわっていた。
(何だ、寝ていたのか――)
近づいてみると、うなされているようだ。
額に汗をかいている。
「フウカ、フウカ――。
どうしたの?」
あわてて揺り起こす。
すると、ゆっくりと目を開けた。
瞬きをして、滝子の顔を見た。
「あっ、ママ……。
夢だったんだ」
目をこすりながら、つぶやいた。
「悪い夢でも、見ていたの?」
冷たい麦茶が入っている水筒を差し出す。
「うん、……おかしな夢」
受け取った水筒に口を付け、ノドをうるおした。
側に寄ってきたカイトも、フウカの顔を心配そうに見ている。
「――どんな?」
落ち着いた頃を見計らって滝子は、尋ねた。




