大魔王に囚われた聖女は、忍者の様に耐え忍ぶ為におにぎりを欲する
なろうラジオ大賞2第二十四弾。テーマ『大魔王』『聖女』『忍者』『おにぎり』の欲張り四点セット。1000文字でも詰め込めるものですね。
投稿時間0時にしておいてなんですが、飯テロです。お腹空くと思いますので覚悟の上お読みください。
「聖女よ。神への信仰を捨て、我に仕えよ」
「誰が大魔王などに!」
「気丈な事だ。どこまで続くかな」
焼けた鉄板が運ばれてくる。
「……こ、こんな物で何を!」
「お楽しみはこれからだ」
鉄板に乗せられた肉の塊は、激しく脂を飛び散らせ、白煙を上げる。
「あぅ……。そ、そんなの、こ、怖くない!」
「何の事だ? これはハンバーグだ」
「はん、ばーぐ?」
「貴様の昼食だ」
「えっ拷問では?」
「えっ」
「この鉄板に顔を押し付けられるのかと」
「怖っ! 発想が怖っ! これは我に従えばこんな食事が出来るという待遇の説明の一環だ!」
「あ、はい」
「あぁ驚いた。……さぁ食せ」
「い、頂きます」
口にした聖女に衝撃が走る!
(や、柔らかくてホロリと解ける淡い食感とは裏腹に、肉の旨味と脂の甘さが口の中一杯に広がる! 美味しい!)
「気に入った様だな」
「はっ!? で、でも私はこんな、はふはふ、料理だけで、ぱくぱく、懐柔なんか、もぐもぐ」
「その強がり、いつまで持つかな?」
「何ですって!?」
「夕食はとろとろに煮込んだタンシチューだ」
「何ですって!」
一週間が経った。聖女は虚な目で虚空を眺めていた。
「美味しかったぁ……。ハンバーグ、タンシチュー、トンカツ、炒飯、唐揚げ、カレー、オムライス……」
我に返り、頭を振る。
「だめだめ! こんな事で信仰を捨てる訳には! 東方の忍者の様に耐え忍んで……!」
「強情だな」
「大魔王!」
「ならば望む物を用意してやろう。最高の美味の思い出を上書きされれば、貴様も堕ちよう」
(最高の美味の思い出……)
「おにぎりを、お願いします」
「ほう。具は」
「塩むすびで」
「……良かろう」
聖女は孤児の自分に教会が施したおにぎりを、自分の原点を思い出していた。
(あの記憶を呼び覚ませば、私はまだ立ち向かえる!)
「食せ」
「頂きます」
おにぎりを挟んで対峙する大魔王と聖女。真剣勝負の空気が場を包む。
「はむっ」
(……温かいお米が口の中で解ける! そして塩が米の甘味を最高に引き出している……!)
「我の渾身である。どうだ」
辛く褪せた記憶が、湯気立つ白い粒に蹂躙されていく。
「優しい、味……」
聖女の目から、涙が溢れた。
「あの」
「何だ」
「私の降伏を掲げて世界征服とかしないんですか?」
「せぬわ! 発想が一々物騒だな貴様!」
「では何故……?」
「教会にこき使われてた貴様を不憫に思っただけだ! 他意は無い!」
「あぁ、だからあの味……」
「何だ?」
「何でも」
聖女は満足げに微笑んだ。
読了ありがとうございました。
不遇な女の子に美味しい物を食べさせるのは人類不変のテーマではなかろうかと思う今日この頃です。私だけ?
忍者はいらなかったかなぁ。欲張り四点セット言いたいだけだったんだよなぁ。ごめん忍者。ありがとう忍者。
とりあえず締め切りまではまだ書こうと思います。何かリクエストなどありましたらコメントでどうぞ。