14話 冷戦後②:21世紀の南海
南海の経済的躍進は目を見張るものがあった。観光(カジノ、リゾート)、資源(石油、天然ガス)、投資の三本柱は堅固であり、東南アジアではシンガポール並みの経済力を有するまでになった。これらの産業は時々下がるものの基本的には右肩上がりであり、今後も資源を除いては安泰だと見られている。
20世紀末には、人口増大や新しい病気の発見、ITの急速な拡大から、医療産業やIT・情報産業への参入も行われている。競合他社が多い事から苦戦しているものの、国による新産業育成の後押しがある為、投資は続いている。
この成果は2010年頃から現れ、新薬やワクチンの研究の為に日米欧の医療機関との連携や、日米欧のIT企業からのアウトソーシングが行われている事実から窺う事が出来る。
一方で、これらを守る為の力は人口の面から弱いという欠点があった(総人口約65万人)。その為、警備ならば自国で何とかなるが、大規模な軍事力となると外国の軍に任せていた。
だが、そうであるが故に、諸外国からの侵略の危険性は非常に低かった。何せ、駐留しているのがアメリカ軍であり、攻撃すれば直ちにフィリピンやグアム、台湾に駐留しているアメリカ軍の報復が待っているのだから、おいそれと攻撃出来なかった。アメリカ軍としても、東南アジアの要衝であり資源の輸入元でもある南海を手放せない存在である為、守るに値する場所である。
兎に角、21世紀中は南海の安全はアメリカによってほぼ守られているという事になる。南シナ海に面する東南アジア諸国にしても、武力で奪うにはリターンが合わず、今までの秩序を壊す事も憚られた。また、日米台による監視の目もあり、その三国の東南アジアに対する政治的・経済的影響力を無視する事は出来ない為、東南アジア諸国が損害や報復を考えない限りは侵略されないと見られた。
ただ、南海の周辺海域に対する影響力を強めたい様で、200カイリ内部における共同開発を持ち掛けるなどしている。流石に領有まで主張する事は無く、南海としても連携を強化して少しでも警戒心を和らげたいと考えており、不利益にならなければ共同開発を認めている。
中華民国(海南島)についても、1970年代までは虎視眈々と狙っていたが、現在はアメリカの監視や経済格差から連携を望んでいる。だが、向こうの面子の問題もある為、表向きは何かしら言ってくる事が多い。
その様な中で、注意するべき存在が中華人民共和国(中国)である。東南アジア諸国と海南島はアメリカとの同盟関係にあったり南海との繋がりが深いが、中国はそのどちらでもない。中国からすれば、南海はかつての冊封国であり、つまり臣下として見ている。
近年、中国の経済発展に伴い自国内の資源だけでは賄いきれなくなった。その為、アフリカへの進出を強化しているが、その場合は資金や通商路の問題がある為、自国の近くで獲得したいという考えが強かった。その対象に選ばれたのが、石油や天然ガスを産出する南海だった(※)。
勿論、アメリカ軍という後ろ盾から、中国も軍事的冒険をする事は無い。一度、1990年代末に台湾沖と海南島沖に進出した事があったが、その時は日米両海軍の空母機動部隊が大挙して進出してきた事で撤退せざるを得なかった。しかも、その報復で資本撤退やら技術供与停止やらの経済制裁を受けた為、以後四半世紀は中国による海洋での軍事的冒険は無いと見られている。
だが、万が一の事がある為、海南島や香港と協力して中国本土の監視を続けている。
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21世紀に入って10年以上経過したが、東南アジアにおける南海の存在感は大きい。周辺諸国も製造業の拡大などで経済力が上昇しているが、長年の影響力や金融力の差からその地位を脅かされるには至っていない。寧ろ、東南アジアにおける中立地帯として各国が維持しようとしている。日米欧台もそれを望んでおり、疑似的な中立地帯となっている。
その状況を打破しようとしている筆頭が中国だが、日米台の監視や東南アジア諸国の対中不信からそれは今世紀中は不可能と見られている。それ処か、自国内の状況が不安定であり、中国が自国領と主張している満州やプリモンゴル、海南島、ウイグル、チベットと対立している状況では本格的な海洋進出はまだ先の事と見られた。
今後も、南海の状況は安定するだろう。石油の採掘量については近年減少傾向にあるが、まだ十数年間は採掘可能と見られている。また、新鉱区の発見や採掘コストの低下による採掘可能量の増加、天然ガスの利用によって、更に十数年間は採掘可能と見られている。
資源以外にも、東南アジア諸国やインドの経済発展による中間層や新興富裕層の拡大によって、これらの国からの観光客が急増している。それによって、1990年には150万人だった観光客数が2000年には200万人、2005年には250万人、2010年には350万人と年々増加している。この急増に対応する為、国内ではホテルやカジノの建設、空港や港湾施設の拡大に追われており、一時的ではあるが建設ラッシュに沸いている。
投資の方も、東南アジア諸国及びインドの発展が著しく、その方面への投資も拡大している。これにより、各国の経済建設が更に進み、南海の機嫌を損ねて資本撤退されたくないから、南海との関係を維持しようと努力を務めるという循環になった。
また、南海から海外への旅行も急増した。1980年代までは数万人だったが、1990年代から急速に伸び、21世紀初頭には50万人越えをした。これは延べ人数だが、国民の約8割が海外旅行をした計算となる。旅行先も今までは近隣の南シナ海諸国や南海系の移民がいる日本、台湾、アメリカが主流だったが、近年ではインドや満州、カナダにヨーロッパなど山や雪のある地域が多い。
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中国が台頭し、日米台から見捨てられ、東南アジアが明確な野心を持つその日が来なければ、今後も南海は安定するだろう。経済状況は外部に左右されやすく、台風の通り道というリスクこそあるものの、南シナ海の要衝という場所故に、混乱する事を誰もが望んでいない為である。
※:同様に選ばれているのが、石油・天然ガスのウイグル、カザフなどの中央アジア諸国、レアメタルのモンゴル、プリモンゴル、チベット。他に重化学工業の満州、海洋進出の台湾、海南島も対象となっている。
これにて終了となります。中途半端かと思いますが、ネタが思い浮かばなくなってしまい、これ以上書き続けるのは難しいと判断して、ここで終わらせます。短い内容でしたが、ご愛読ありがとうございました。