プロローグ・黒(1−2)
「ゲコゲーコ、ゲコ、ゲコゲーコゲーコゲコゲコゲーコ。
(フログよ、私は、あなたに話しておかなくてはならないことがあります。)
ゲコゲコーゲコゲゲココ、ゲコゲココゲゲゲココゲコ
(辛い話になるかもしれませんので、心して聞いてください)」
「いつものことだけど、お父さんが何を言っているのかはよくわかんないけど、わかったんだぞ☆」
それは、私が多分10歳ぐらいになる頃のことだったんだぞ☆
私を育ててくれたお父さんがシリアスな顔をして私を呼び出したから何かと思って来てみたけど、相変わらずお父さんは何を言っているのかよくわかんないんだぞ☆
ただ、私も伊達に10年間もカエル社会で生きてきたわけじゃないんだぞ☆
最近では、カエル語も半分ぐらいはわかるようになってきたんだぞ☆
「ゲコゲコ、ゲーコゲコゲ、コゲーコゲゲゲゲコゲココ『ゲコゲコ』コゲゲゲゲコゲコゲコ。
(フログよ、人類は、10歳の誕生日に『固有能力』が両目に宿るそうです)
ゲコゲコゲゲココゲゲゲコ『ゲコゲコ』ゲコゲココ、ゲコゲ。
(おそらくあなたにもあと数時間したら『固有能力』が発現するのですが、フログ)
ゲコゲコゲーコ、ゲココゲコゲコゲーコゲコゲコ。
(どうしてもその前に、お前には話しておかなくてはならないことがあるのです)」
確かに、私と同じような姿をした人間の大人たちは瞳に『固有能力』を持っているんだぞ☆
ずっと、「なんで私にはないんだろう」「私以外にも『固有能力』がない人がいるけど、ある人とない人の違いはなんなんだろう」ってずっと思っていたんだけど、その違いはどうやら単純に『年齢の違い』だったみたいなんだぞ☆
ということは、私ももうすぐこの『固有能力』が手に入るってことらしいんだぞ☆
「ゲコゲコ、ゲコゲコゲーコ。
(いいですか、落ち着いて聞いてくださいね)
ゲコゲコ、ゲコー、ゲコ”ゲコゲーコゲ”ゲコゲコゲ。
(フログ、あなたは、私の”本当の子供”ではないのです。)」
「え? そんなこと知ってるんだぞ☆
というか、お父さんはカエルで、私は人間なんだぞ☆
カエルの子はオタマジャクシで、人間の私がお父さんの子供なわけが、ないんだぞ☆」
「ゲコゲ・・・、コ。 ゲコゲーコゲコゲコゲーコゲコゲコゲコゲコ『ゲコゲーコ』ゲコゲコ、ゲコゲコゲーコゲコーゲコゲーコ。
(そう・・・、でしたか。 いつまでも貴方が私のことを『お父さん』と呼ぶので、気づいていないかと心配になっていましたが)
ゲコゲコ、ゲーコゲコゲコゲーコゲコ。 ゲコーゲコ、ゲコゲコーゲコゲコー。
(そういうことなら、話は早いですね。 貴方には、そろそろ親離れをしてもらいます)
ゲーコゲーコゲーコゲーコゲーコ、ゲコ『ゲーコゲコ』ゲコゲコ、『ゲコゲーコ』ゲコゲコゲーコ!
(一人では不安なこともあるかと思いますが、これからは『カエル社会』ではなく、『人間社会』で生きて行ってください)」
まあ、お父さんはことあるごとに「私たちだけでなく、『人間』とのコミュニケーションを取る努力もしてください」と言っていたから、こうなることは何と無く想像できていたんだぞ☆
それに人間社会では、10歳になって『固有能力』が発現すると同時に独り立ちをすることも珍しくはないんだぞ☆
だから、10歳を超えて『固有能力』さえあれば、基本的に仕事を与えてもらえるし、なんだったら今まで何度か年齢をごまかして仕事を受けたこともあるんだぞ☆
だから、今は不安というよりはむしろ、「今まで誤魔化しながら受けていた仕事を堂々と受けられる」という楽しみの方が大きいんだぞ☆
「ゲコゲコ、ゲコゲコゲーコゲコゲコゲーコゲコゲコゲーコ、ゲコゲコゲコーゲコゲーコゲコゲコ。
(フログよ、これから先お前は人間社会で生きて行くことになるのだが、辛くなったらいつでも戻ってきても構わない)
ゲコ、ゲコゲーコゲコゲーコ、ゲコゲーコゲコゲコゲーコゲコゲコ、ゲーコゲコゲコゲコゲーコゲコゲコ。
(ですが、私たちが本当に望むのは、貴方が人間社会で活躍して、カエル社会のことなど忘れてしまうことです)
ゲコゲコゲーコゲコゲーコゲコココココ。
(私が最後に言いたいのはそれだけです)」
「(半分ぐらいは)わかったんだぞ☆ お父さん!」