プロローグ(0−0)
「う、ううぅ・・・、誰か、誰か・・・・・」
子を身籠った一人の母が、村の寂れた小屋の中で苦しい声を上げていた。
彼女は隣町から医者を尋ねてこの街にやってきていたのだが、その道中で運悪く魔物に襲われてしまったのだ。
一緒にいた夫は、母を馬小屋に隠すと自分は魔物の気を馬小屋を飛び出し、そして戻ってくることはなかった。
そして母親は、魔物に襲われたときの怪我で自分の足がすでに動かないこと、すでに出産が近いことを感じ、この馬小屋で子供を出産することを決意していた。
そして数分後。
「オギャーーーーー」
子供が大きな産声をあげ、奇跡的に出産は無事に成功した。
すると、これぞまさしく神の奇跡なのかもしれない。
子が泣く声を聞いて「一体何事か?」と、教会で祈りを捧げていた神父が様子を見にやってきたのだ。
「だ、大丈夫ですか!? ・・・ひどい怪我だ。 とにかくまず医者を・・・」
「私の命は、どうやらもう長くありません。 それよりも神父様、どうか私の子供を、どうかよろしくお願いします・・・」
「そんなことを言ってはなりません。 すぐに医者を呼んできますので、それまでなんとか耐えてください!」
そう言って神父は、母から子供を受け取ると、馬小屋を離れて街の医者の元へと走った。
「これで、あの子だけでも・・・助か・・・・・!?」
母親は、子供が神父の手に渡ったことで安心しかけたのだが、ふと違和感を感じる。
子供は確かに一人、出産したことは間違いないのだが、どうやらお腹の中にまだ子供がいるようなのだ。
つまりこの母親は、双子を身ごもっていた。
お腹の中から「早く、私も産んでほしい」とでも言いたいかのように暴れる、もう一つの強い意志が感じられる。
すでに満身創痍の母親は、最後の力を振り絞ってもう一人の子供も無事に出産するが、その瞬間、母親はふと思い出す。
この世界では、双子は『忌み子』とされており、後に生まれた子供は最悪その場で殺されてしまうことを。
もしも両親が健在であれば、双子を庇いながらともに育てることも可能であったかもしれない。
しかし、父親はおそらくすでに他界しており、母親である自分の命も、もう長くはない。
母親は、教会の神父が戻ってきて双子のことがバレるのを恐れ、一番近くにいた生物の気配に対して子供を託すことにした。
「あなたに・・・この子を託します・・・」
「ゲコ?(任せろ!) ゲコゲコゲーコ(この子は立派に育ててみせる)」
死の淵に立たされた母がとった奇行、それは、たまたまその場にいた野生のカエルに子供を託すことだった。
ちなみに、この母は『カエルと話が出来る』とかそういう特技があるわけでもないし、この世界ではカエルと人間が共存しているとかいうわけでもない。
というか、カエルの方がなぜか人間の言葉を理解できたようだが、母親の方にはおそらく「ゲコゲコ」としか聞こえていない。
カエルは母からこぼれ落ちる赤子を背負い、そのままピョンピョンと森の中に入っていく。
数時間後、急いで戻ってきた神父と医者が見たのは、満足げな顔ですでに力尽きている母親の遺体だった。