表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

魔族‐6

「リンデンさんっ! 大丈夫ですかっ!!」


 目に見える範囲で大きな外傷はないが、勢いよく振り落とされた衝撃で身体の内側を傷つけたようだ。仰向けに倒れるリンデンは、ひどく咳き込みながら血を吐き出している。フィーネは青ざめ、すぐさま回復魔法を施した。


 回復魔法で吐血は治まった。だが、根本的な治癒が追いつかず、リンデンの呼吸は未だ苦しそうだ。早く、早く治さなければと焦るフィーネに、背後から鋭い殺気が突き刺さってきた。


「――――っ!」


 ゾクリとした感覚に顔をあげるフィーネ。彼女の目に映ったのは、赤黒い目を細め自分を見下ろす化け物の姿。眼下にいるフィーネと目が合った化け物は唸り声をあげ、魔力を高める。目に見えない魔力の塊はは海の水を吸い上げ、人の目で捉えられる水弾となり姿を現す。


 突然の魔法攻撃に、化け物の体の上にいたレザンは、いったん化け物から離れて距離をとった。

 だが、デッキの上に居るフィーネは、ただ化け物を見上げていた。恐怖がある訳ではない。しかし、身動きがとれなかった。


 フィーネもこの化け物も魔力属性は《水》。魔力の力量に差はあれど、自身の魔力である程度は相殺することができる。

 だが、それはこの場に居るのが自分一人だった場合だ。今、自分の傍らには傷つき倒れるリンデンが居る。そして、少し離れた場所には同様に身動きのとれないシーダーも居る。広範囲に水の障壁を張ることも可能だが、範囲が広がれば広がるほど壁は薄くなり防御としての効果も弱まってしまう。


 そうやって悩んでいる間にも、水弾は数を増やしていく。そして、化け物がフィーネたちに向ける殺気も強まる。


 船内へと逃げようと、リンデンを抱え上げようとするが、彼女の華奢な身体では鎧を纏った成人男性を抱えて逃げるなど到底無理なことだった。この場から二人で逃げ出すのも無理だと判断したフィーネは、自分の身体と魔力で盾になり少しでも彼に与えるダメージを減らそうと考えリンデンに覆い被さった。

 しかし、その考えは亜人種である彼女を人間だと思っているリンデンには伝わるはずもなかった。


 リンデンは掠れる意識のなか、自分に迫る危機は察知していた。もちろん、フィーネがしようとしていることもだ。


「……だめ……だ……。フィーネさん……逃げて」


 持てる力を振り絞り、リンデンはフィーネを逃がそうと突き飛ばす。自分とリンデンを護るために、魔力の護りに意識を集中していたフィーネの身体は、リンデンの僅かな力で簡単に弾かれてしまった。


 触れるほど近かった身体が離れた瞬間、解き放たれた水弾がリンデンの身体を貫いた。


「いやあぁぁーっ! リンデンさーんっ!!」


 フィーネの悲鳴のような叫びが戦場となったデッキ響く。その声は魔力の波紋となり、同属性の水弾を打ち消す。それでも全てを消すことなどできない。元々フィーネを狙っていた水弾は、その場に横たわるリンデンの身体を容赦なく貫いていく。無防備なリンデンの身体は、攻撃を受けるたびに跳ね、血を撒き散らす。


 フィーネは半狂乱になり、消えずに残った水弾の雨から護るためにリンデンに覆い被さる。護りと回復に魔力を分け、リンデンを助けようと必死になる。


「お願い。死なないで、お願いだからっ!!」


 自身も魔法攻撃を受け血を流すが、「絶対に死なせたくない!」という一心でリンデンを護り続け、回復を施す。しかし、リンデンはぐったりとし動かない。


 想像したくないことが脳裏をよぎる。もっと回復に魔力をと、防御に使っていた魔力を放棄する。


 だが、そこで気づく。あれほど響き渡っていた咆哮が聞こえず、自分たちを攻撃していた水弾の雨も止んでいることに。


 恐る恐る振り返り様子を窺うと、化け物は船から手を離し海の上で直立不動という姿勢をとっていた。急に攻撃を止めた後の不可解な行動。水弾の攻撃を避けるために化け物から離れていたレザンも、不審に思いながらも警戒は一切弱めていない。


「……あっ」


 フィーネは化け物の体に異変を見つけた。化け物の黒い体に輝く糸状の物。それは海中から伸び、月明かりに照らされ金色に輝いている。金の糸は化け物の動きを封じ、ぐいぐいと太く硬い皮膚を締め付けていく。終いには船と変わらぬ巨体を海中へと引き沈めてしまった。


「あれは、ミディ様の……」


 意思を持つ金の糸がミディによるものだと確信したフィーネは、一つの不安が消え安堵を覚えた。ミディが海中で生きているのなら、一緒に落ちたキルシェもおそらく生きている。そして、彼なら無事に陸地に辿り着くだろうという安心感が生まれたからただ。


「何だったんだ……あれは……」


 レザンは突然の出来事に意味も分からず、静けさを取り戻した海を見つめていた。だが、これ以上の攻撃がないと判断すると、すぐさま頭を切り替え、自身も負傷しながらも負傷者の救助という行動に移った。


「おい、フィーネ。怪我人はそいつだけじゃないんだ。多くを助けることを考えろ」


「あ、……はい」


 厳しい言い方だったが、レザンの言うことは正しい。

 フィーネは涙を拭い、レザンと共にリンデンを抱きかかえ船の中に戻った。そして、彼のことを一番に考えながらも、蒼竜魔導団の魔導士として多くの負傷者を助けるために動きだした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ