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告白…4

 ◇ ◇ ◇


 告白から数日後、リンデンは演習で長く城を出ていた。


 現在は周辺国との諍いもなく、平和なガルデニア国。しかし、いついかなる状況で争いが起こるか分からない。その驚異を想定し自国の武力を備えておくため、定期的に遠地での演習が行われていた。


 リンデンがいない数日。フィーネの中には寂しさもありながら、どこか安堵もあった。そして、それらを覆いつくしてしまうほどの不安も、日を追うごとに強まっていた。

 告白の返事に対し、少しの猶予を求めたフィーネ。その際、フィーネもだがリンデンも特に期日については言及しなかった。だが、くこの演習が終わり帰還した際に、おそらく返答を求めてくるだろう。そんな気がしていた。

 本当なら、考え悩む必要もないこと。しかし、彼の気持ちが本心から来るものなのか、自身の魔力で創られた偽りのものなのか計りかね、答えが出せない。

 鬱々とした気持ちの中、フィーネはあることを考えてしまう。それは、下手をすれば自身だけでなく、蒼竜魔導団の存在さえ危ぶんでしまう考えだった。



 ◇ ◇ ◇


「フィーネさん! お久し振りです」


 いつものように、昼の休憩時間を中庭の長椅子で本を読みながら過ごしていると、遠くから鎧姿のリンデンが満面の笑みで駆け寄ってきた。彼の声が聞こえるなり、フィーネは読んでいた本を乱暴に閉じ、その勢いままに立ち上がった。


「リンデンさん! おかえりなさい。演習、お疲れさまでした」


 数日ぶりのリンデンの姿に、嬉しさが表立ってしまう。

 あれから数日経ち、思い悩む部分があっても多少は気持ちの整理もつき平静を取り戻していた。フィーネは以前と変わらない微笑みでリンデンを迎えた。自分に向けられた微笑みに安堵したのか、リンデンも演習帰りの疲労を見せない笑顔を返す。


 長椅子に並んで座り、ここ数日の出来事を揚々と語るリンデン。それをフィーネも楽しそうに聞いている。二人で過ごす久し振りの時間。会話も弾み、時間はあっという間に過ぎていく。


「……あ、もう戻らないと」


 休憩の時間が終わっても戻らないとフィーネを探し、魔導棟の一角から名を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。一度、その声に返事をし、名残惜しそうに傍らに置いていた本に手を伸ばす。しかし、ここを離れたくない気持ちがあるからか、腰は重く、椅子から離れていかない。そんなささやかな抵抗をしていると、だんだん自分を呼ぶ声の言葉尻も強くなってくる。「はぁ」と、小さなため息を溢したフィーネは、渋々腰をあげた。


「すみません。呼ばれているので、失礼します」


 小さくお辞儀をし、寂しそうに背を向ける。


「あの、フィーネさん」


 歩き出そうとした時、急に呼び止められドキリとしてしまう。楽しかった分、寂しさも大きい。だが、緊張感を伴わせた彼の声に、それらが一気に不安へと変わってしまう。……返事を求められる。彼の声を無視したかったが、それもできずにゆっくりと振り返った。


「……はい。何ですか?」


 内にある不安を表に出さないよう、できうる限り笑顔をつくる。


「フィーネさん。俺、今週末に休暇を頂いたんです。……だから、その……俺の家に遊びに来ませんか?」


 不安が大きかった分、予想外の誘いにキョトンとしてしまう。


「お家……ですか?」


 休暇を先日のように外出しようというのではなく、家で過ごそうという誘い。これまでとは趣の異なる休暇の過ごし方ではあるが、改まって言うほどのことではないように思える。フィーネは彼の言葉の意図が理解できず、今度は怪訝そうな表情を浮かべてしまう。その表情の変化を違った意味でとってしまったリンデンは、慌てた様子で詳細を伝えてきた。


「あっ、違うんです。別に変な意味じゃなくてっ!」


 リンデンの言う「変な意味」の意味も理解できず、フィーネはますます困惑し首を傾げる。そして、その仕草でリンデンはますます慌ててしまう。


「あのっ、療養中だったり先日の遠出の時だったり、フィーネさんの手料理をご馳走になってばかりだったから。……今度は、俺がフィーネさんに手料理をご馳走にしたいなって思って」


「手料理ですか? でも、どうして突然そんなことを?」


 自分がリンデンにしてきたことに対する礼は、すでに十分すぎるほどに受けていた。それ以上のものを与えられているとも感じていた。だからこそ、急な提案の理由が分からず困惑してしまう。しかし、リンデンははっきりとした答えは言わず、笑顔を向けてくるだけだ。


 そうは言っても黙ってはいられないのか、恥ずかしそうにゆっくりと理由を告げた。


「実は一度くらいは自分の手で作った物で、フィーネさんをおもてなししたいなって思ったんです。何か他の形にしようとも思ったんですけど、これといって考えつくものもなくて。料理の恩は料理で返そうかなって」


 自分の安直な考えが恥ずかしいのか、ぎこちなく笑い、指先が無造作に忙しなく鼻の頭や首筋などを掻いている。そんな彼の姿に、フィーネの胸がチリッと痛む。彼が自分を想ってくれる優しさが大きければ大きいほどに、フィーネの胸にある猜疑心は強まり、彼の気持ちを疑ってしまう自分に嫌悪も覚えてしまう。

 フィーネはリンデンの優しさを前にし、ある決意を固めていった。


「お誘いありがとうございます。是非、伺わせてください」


「は、はいっ! ありがとうございます。俺、頑張って料理するんで、楽しみにしててくださいね」


 自宅への誘いの承諾を得て、リンデンは表情だけでなく声も弾ませる。


「リンデンさんの手料理、楽しみにしてますね。それでは同僚に怒られてしまうので、これで失礼しますね」


「あっ、すみません。お忙しいのに引き止めてしまって。じゃあ、今週末、昼の鐘が鳴る頃に中央の噴水の側で」


「はい、いつもの場所と時間ですね。分かりました。それでは今週末に」


 フィーネは笑顔をつくり会釈をすると、少しだけ逃げるような素振りでリンデンの前から去った。

 きっと満面の笑みで自分を見送っているであろう彼の姿を振り返り見たい衝動に駆られ、足が僅かに速度を緩める。しかし、それをグッと堪え、一度も振り返ることなくフィーネは魔導棟に戻っていった。


 中庭から遠ざかったことで、しだいに遅くなっていく歩み。ついには廊下の真ん中で足は完全に止まってしまった。


「……もう、終わりにしなくては」


 立ち止まり寂しげに窓の外を見つめる彼女の口から、悲しげな言葉がこぼれ落ちた。



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