第9話 人見知りと書いてKYと読む、その心は……。
ついに王国の名が出てきます
「カリサ、ちょっと図書室へ寄っていくから先戻ってて」
カリサと別れて他の国の本でもないかと本の題目を巡っていた時、誰かが入室してきた。
「ご、ごきげんよう」
中に誰も居ないと思ったのだろう。人が居たことにちょっとびっくりしたという顔をされた。
「ごきげんよう」
そのご令嬢は控えめで大人しい(たぶん)感じのヘレナ・ベルジック子爵令嬢だった。
ブラウンの髪にブラウンの瞳で少々ふくよかな方だ。笑顔になると小さなえくぼが可愛らしい方だった。
特に話すこともないのでそのまま本を探し続け≪各国要覧≫を手に取り席に着く。
どこかの国でチーズやヨーグルトを作ってないかパラパラと捲っていく。
元が食べ物についてあまり興味を持っていない人々なので、各国についても食べ物の事についてはあまりページを割いていないか……。
こうなると食材を納入する商人にでも聞いてみるしかないかな?
とブツブツ一人思案していると
「・・・アン様」
「ラヴィアン様?」
「え? あ、ヘレナ様、どうしました?」
「あの、突然話かけてしまってすみません。少しお話ししても?」
「ええ、かまいませんけれど」
正面に座りお互い見つめあった。
「・・・・」
「・・・・?」
「はぁぁ……。まじかで見ると、とてもお綺麗なんですねぇ、ラヴィアン様」
「え? そうですか?――ありがとうございます」
「えと……、 ラヴィアン様はおいくつなんでしょうか?」
「年? 一二歳ですけど」
「え? 年上かと思ってました…。随分落ち着かれているので」
そりゃ中身 み そ じ ですから。 なんてことは言えず
「ヘレナ様はおいくつなんです?」
「一四なんです……」
「そうなんですか」
幼いから同い年位かと思ってたら私よりおねーさんでしたか
「それで……、あの、ルナディ様から部屋に引き籠ってないできちんと社交術も学ぶように諭されてしまって」
おなじこと注意されたのね
「はぁ」
「来年社交界にデビューするんですけど……、人見知りといいますか、上手く話せないといいますか、どうすれば色々な人と仲良くすることができるんでしょうか?」
はぁ? 私にそれ聞く?
「えーと、なぜ私に相談を?」
「え? えーと…、いつも堂々としてて人見知りとかないのかなぁ、と」
堂々としてる=人見知り無し。 これ成立するんだろうか?
「いえ、思いっきり人見知りありますけど?寧ろ極端な人見知りかも? ここでも令嬢方とほとんど話してませんよ?今日初めて長く話してます、あなたと」
「…………し、失礼しました」
あらら、 思いっきり困った顔になっちゃったよ。
「いえ、どういたしまして」
「そ、それでは私達は同志ということになりますね!」
「??」 なぜ? 思わず眉間にしわが寄った。
「人見知りを克服しなくてはなりませんもの!」
いや、巻き込まないで。
「い、いや~、私はまだ一二なのでそこまで急いでいないのですが?」
「いいえっ! あっっっというまに時は過ぎ、気が付いたら社交界デビューという感じでしたからっ。ラヴィアン様も手遅れにならないようがんばりませんと!」
「えーと……?」
「それで、どうしましょう?」
だからなぜそれを私に聞く? 巻き込まれてんの私なんだけど?
「え~と、ではまずお茶会などを開いてどなたかお招きなさっては?」
ありきたりな返事をすれば
「ど、どなたを誘いましょう?」
いやいや、自分で考えて。
「私もよくわかりませんのでルナディ様にご相談するとか…?」
とりあえず丸投げしとこう。
「そ、そうですわね! ではご一緒に!」
まてまてまてまて、なぜ一緒に?!
「い、いえ、私はまだお茶会の予定はありませんので、それに午後はちょっと色々忙しいのです」
「え……」
シュンとした顔で見られても
そもそもほんとに人見知りなのか?このご令嬢。
KYすぎて相手が寄り付かなくなるタイプじゃ……。
「あー、それではヘレナ様の開くお茶会に時間があれば参加させていただきますので、日時が決まりましたらお声をかけてください」
「そうですか、わかりました! なんとかがんばってみます」
そんなこんなのやり取りのあと図書室を後にした。
あれ? 図書室に何しに行った、私。
欲しい情報も得られずただ疲れただけだった。主に精神的に。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
所変わって王宮の一室
広い室内は、品の良い最高級の調度品に整えられ重厚な雰囲気を醸し出している。
その室内でとりわけ細工の豪華な机に金髪に碧眼の壮年が座り、書類を受け取っていた。
「こちらが今期に探らせた各国の情勢になります」
「うむ、ごくろう」
書類に目を通し終り一息ついて
「特に危険な動きもなさそうだな」
「そのようです」
答えているのは宰相のエドヴァルト・グレンロード、黒い髪に紺碧の瞳、四十代中頃
話している相手はこのファーラス王国の国王コンラート・ヴァルグ・ファーラス 三十五歳
「平和なのは良い事だが……」
「なにか?」
「いや、なにかこう、メリハリみたいなものがなぁ」
「はぁ、平和でなによりじゃないですか。そういえばもうすぐ国王主催のパーティーがありますね」
「またあれだろう? ごきげん伺いの面々の挨拶を受けるだけの、退屈なパーティだろう? まっったく面白くもない催しなんだが」
「そう言われましても定例に沿いませんと」
「そういえば王子達の婚約者候補はどうなっておる」
「ローズガーデンにも時々探りを入れておりますが……、これといった人物も。 こちらが今回お集まりになったご令嬢方のリストです」
「王子達もまだまだ真剣に考えておらぬようだが、私もまだまだ死ぬには若い。次代の王妃、王族になるのだからじっくりと見定めないと王国が滅ぶ。十二~十五歳程度ではまだわからんな、――ん?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、サリスフォードの名があるが?」
「はい、私も少し驚きました。令嬢がいらっしゃるとは」
「いままでパーティー等に連れてきていたか?」
「私も少し気になりましたので今までの参加者リストを確認いたしましたが、一度もご出席されておりません。 毎回体調がすぐれないとのことで欠席をされてまして、そのうち招待客名にも名前が上がらなくなっておりました」
「オウエンと奥方とは度々話すが娘の話題は出たことがないな」
「なにか問題でも抱えているのでしょうか? それで隠しているということも考えられます」
「だが、現在ローズガーデンにおるのだろう?
誰もかれもが自分の娘を王太子、王子の妃にと群がっておるのに。
少し興味が湧いて来た、今回のパーティー招待客名簿にはこの者の名前を明記しておくように」
「かしこまりました」
ひっそり隠れていたいラヴィアン危うし!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ローズガーデン ダイニングフロア
それぞれが席につき侍女の配膳が終わり食べ始めている
周りをチラチラ観察しながらラヴィアンも食べ始める
ん~、懐かしい味。久しぶりだなぁ、なんか泣けてくる。一週間に一度位これ作ってくれるといいなぁ。粉チーズかけるともっと美味しいんだけど、チーズほしいなぁ。
再び周りを見てみると、いつもお上品に食べている令嬢方がこころなしか一つのお皿に集中しているようにみえる。 にまにましてる人、じーっとお皿をみて固まっている人、結構なスピードで食べてる人、ルナディ管理官もちょっと目を見開いてびっくりしている様子だ。
暫くするとそれぞれが侍女と話しだした。 侍女達が配膳口の方へと集まっている。
「カリサ、これのお替りあるか聞いてきて?」こそっと頼んだ
カリサがサンディさんと話して戻ってきた。
「お嬢様、申し訳ありません、もう無いそうです」
「あれ? 結構作ったわよね」
「他のお嬢様方からのお替りと厨房の方々の味見?で無くなるそうです」
「ふふ、味見ね~、無いならしょうがないか」
ラタテュユもどきは盛況のようで、おかわりができなかった令嬢達は残念そうな顔になっている。
(お嬢様達もまだまだ成長期だもんね。どんどん食べて大きくな~れ、特に二つの山)
子供を見守る母親のような思いで見ているけど、ラヴィアンもまだ十二歳なのである。
王様というのはなぜ金髪碧眼が多いのでしょう?
いや、自分が書いてるんですけどね・・・。