第7話 令嬢の嗜み? ほぉ
次の日、難なく午前中の講義も終り
「ルナディ様、質問があります」
「はい、どうしました?」
「街に出ることはできますか?」
「それはちょっと難しいですね。大事なお嬢様方をお預かりしている手前きちんと保護しないとなりませんので。どうしてもということであれば護衛を何人も手配するということになります。そうなりますと此処の大元の管理をしている王宮に許可を得ないとなりません」
わーめんどくせーです。
「そうですか、わかりました諦めます」
「それがよろしいかと」
うーん、調味料とかハーブとか食材とか見て回りたかったんだけど~。
どうしようかなぁ。 ここじゃ決まりきった安全なものしかないっぽいしなぁ。
昼食後は取りあえず図書室にでも行ってみよう……。
暇つぶしに図書室にやってきた。
本は重いのと貴重な為持ち出しは禁止だ。
結構広い室内に正面、両側を布で仕切られた幅一メートル位の机が並んでいる。
ほぉほぉ、この世界でも図書室というのは静かにしなさいということか。
あ、地図っぽいものハッケーン。
ふ~ん、地図はこのユーテリア大陸しかないのか。
大きく5つの国にわかれているのは家で知った。地図は無かったけどね。
他の大陸は未開の地なのか未踏の地なのかそもそもあるのかも不明。
他の種族がいたりしたら、ちょっと会ってみたい。
しかし地図が大雑把すぎでしょ、これ。ホントにこの形で合っているのかもあやしいレベルだ。
この地に伊能忠敬的な人が生まれるのはまだらしい。
魔法についての本も少ないがあった。読み進めていくと何やら気になる項目が
魔石の作成
は? 魔石って採掘するだけじゃなくて作れるの?
魔石の種類は色によって区分けられる。
封じられた魔力の方向性で色が現れる。
魔石を作るには魔力を多大に使う為、魔力が少ない場合は作れない。
素材は透明な魔石。
そんな簡単な説明かいっ!
ワクワクが一気に急降下。ここでも魔法についてはあまり勉強になりそうにないか。
図書室を後にし厨房へ顔を出す
「こんにちはー」
「はっ、ラヴィアン様、いらっしゃいませっ」
最初の頃の訝しげな顔つきは無くなり歓迎モード一色になったらしい。
「モウの乳の手配はしてあります。 あとコッコの卵も注文しておきました。届くにはもう数日かかると思います」
「どうもありがとう。今日はまたお願いがあってきました。 捨てるような残り野菜があればいただきたいのですが~、それと干し肉を少し分けていただけますか?」
みんなの期待が膨れ上がっているようですけど、これはお持ち帰りですよ?
残り野菜やら干し肉の欠片やら干した魚の欠片やらを分けてもらい、カゴに詰めた。
周りの残念そうな視線がちょっと痛い。
「お嬢様、どちらへいかれてたんです?」
「図書室経由で厨房へ」
「なんかよくわからない経路ですけど……、そのゴミは?」
抱えていたカゴをみて眉を寄せるカリサ。
ゴミってなによゴミって、まぁゴミっぽいけど。
「なんか街には行けなみたいだから午後はここで色々しようかと思って」
「今度はなんでしょうか?」
「残り野菜と干し肉と干した魚でちょっとしたものを、ね」
野菜類はカリサによく洗ってもらいすべて薄切りにしてもらう。
それを防虫の大きな網を広げその上に並べる。
この世界はそこかしこに森や林、草原があり虫が沢山いる。遅れている文化でも虫に対しては頭を捻ったらしい。
防虫の網はローズの倉庫から拝借してきた。食べ物乗せるからと頼み込んで新しめのを。
「お嬢様、これは何をするんですか?」
「ん~まぁ、上手くできるかわかんないし、出来てからのお楽しみ」
「はぁ、しかし、これでは誰もこの部屋へお通しできなくなりますが?」
「誰が来るというのよ?」
「お嬢様……、普通、ご令嬢方はお茶会を開いて部屋へ招きあうと思うのですけど」
「招いてないから誰も来ないわよ」
こんなんでいいのか辺境伯ご令嬢。 カリサは遠い目になった。
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ローズガーデンでは五日毎に一日休日というか休養日がある。午前中だけのお勉強会しかやってないんだから休養日って必要?と思うのだがお嬢様方には必要らしい。
さて今日は一日休みなのでいろいろやりたいことがある。
「さぁカリサ、今日もいろいろがんばるわよ!」
「きょ、今日は何を……」
「その野菜の処理」 ビシィ!
部屋中に薄切りの野菜がところせましと網に広げてある。毎日残り野菜を貰ってきては薄切りにして乾燥させていた。
網の上にはゴミのような物が干からびているし様々な匂いも漂っている。
ご令嬢の部屋とかけ離れている現状にカリサは毎日溜息をついていた。
「カラカラに干からびた野菜を細かく粉砕しまーす」
この世界の塩は岩塩が多く塩を粉砕する為の道具がある。
「粉砕機を厨房から借りてきて~ カリサ」
「はいぃ~」 諦めた顔で部屋を後にするカリサ
暫くするとワゴンに粉砕機を載せて戻ってきた。
「借りてきました~」
カラカラに干からびた数々の野菜を次々と粉砕していく。
ガリガリガリガリ ゴリゴリゴリゴリ ガリガリガリガリ
ふー ガリゴリガリゴリ ふー
ふーふー言いながら全ての野菜と干し肉干した魚を粉砕した。
「お、お嬢様、腕に力が入りません……」
「そ、そうね。少し休もう……」
カリサがやっとのことお茶を入れてくれてソファーにダラ~っと体を横たえていると、ドアをノックする音がした。
「はい」
「ルナディですわ。少しよろしいですか?」
部屋の現状を見せられないので慌ててドアへ行った。
「ごきげんよう、ルナディ様」
「少しお話しがあるのですけど、よろしいですか?」
「はい、かまいませんが、……では、サロンでよろしいでしょうか?」
「まぁ、いいでしょう。まいりましょうか」
連れだってサロンへ行くと休養日だからか午前中だからか誰もいなかった。
給仕の侍女がお茶を持ってきた。
「休養日にお時間をいただき申し訳ありません」
「いえ、それでお話しとは」
「ええ、ラヴィアン様はこちらへ来てそろそろ一週間位になられるかと思いますが、その間、他のお嬢様方とは友好にお付き合いされているのかと」
「特に問題は起きていないかと思いますが?」
「問題も起きないほど関わっておられないという事とも言えませんかしら?」
むむむ、ほとんど話したりしてないからなぁ。お茶会も開いてないし、呼ばれてもいないしなぁ。
「あのー、つまりどういうことでしょうか?」
「いえ、まだこちらへ来て日が浅いのでということかもしれませんが、他のお嬢様方は頻繁にお茶会を開いて友好を育んでいらっしゃるようですわ。 ラヴィアン様はほとんど会話もなさっていらっしゃらない様子ですが」
あれ? 仲良くなることが必須なの? 自己紹介もされてないんだけど?
? 小首をかしげていると
「令嬢の嗜みとして社交は必須ですわ。このままですと社交界から取り残されてしまいますわ」
「えーと、取り残されたとして、何か問題でも?」
あら、ちょっと目を見開いてびっくりしている。
「コホン、社交界での色々なやり取りも貴族としての重要な嗜み、そこからいろいろな情勢が垣間見えたり婚姻等が発生します。 ラヴィアン様もこれから社交界デヴューもなさるわけですから、その前にいろいろと情報交換なさるのもお家の為、ご自分の為にも必要かと」
「そうなんですか」
えー、社交界とかデビューしたくないんだけどなぁ。
やっぱり、ここに来たのは失敗だったかなぁ?
他人事のように返事をしちゃったけどー
「特に王太子様のお妃候補として、現在ローズガーデンにお集まりのお嬢様方は、年齢が丁度いいこともありそれぞれがライバルでもあるのですわ。王太子様のお妃選定はそうそう発生することでもないので、国中が注目していることでもありますわ」
「はぁ? あー、え?」
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
はっきり言って興味がない。候補と言われても拒否したい。
「あの……、このローズガーデンは王太子妃候補選定の場でもあるんですか?」
「は? あたり前ですわ!」
あたり前ときたかっ。 知らなかったぞー、父上達~~(怒)
「え~と、候補から外れることは?」
「何を言ってるんです! これは拒否できるできないの問題ではありませんわ!」
やー 怒られちった~
「それでは是非、私を居ないものと判断していただいて……」
目が点になったよ、今度は。
しかしまかり間違って候補とかになっちゃったら非常に困るなぁ。
「な! 何を言ってるんです! 王太子妃候補となられる方は大変名誉な事なんですよ? 私だってもう少し遅く生まれていれば……ぶつぶつぶつ」
あら?あらあら? うらやましいの? ちょっと意地悪しちゃおー
「それならルナディ様立候補されたらいかがです?」
「はっ?! 私がですか? 王太子様とは年齢的に不可能です!」
「誰が決めたんです?」
「だ……、特に年齢制限はありませんが。 とっとにかくっ、無理ですっ」
「わかりませんよ~? 年上が好みの方もいらっしゃいますからねぇ~」
「え…………、はっ!いえいえいえいえ! それに私はすでに結婚しておりますわっ」
「あ、そうなんですか、それはそれは残念でした」 棒読み
「な、なんなんですのあなたはっ。こ、このように失礼なご令嬢は初めてですわっ。そのような方では王太子様、下の第二王子様の婚約者候補としてご推挙できませんわ!」
「まぁ! それは願ったり敵ったりです。ありがとうございます。絶対推薦しないでくださいね? なんならここにいることも隠していただいて結構ですよ」
フフフ~
ルナディ様は青くなったり赤くなったりの後、現在再起不能状態に陥る。
おーい 戻ってこーい
「なっんて……、と、とにかくっ、社交については重々お考えくださいませ!」
「それなんですが、そもそも自己紹介は私だけ、他のご令嬢がどこのどなたか存じませんが? 周りも私には興味がなさそうですし」
興味があれば話しかけてくるよねー。お茶会にも呼ばれてないし。
(中庭で一度話しかけられているが都合の悪いことは忘れるラヴィアン)
自分で開くお茶会もめんどくさい。気を使うのいやだし。
「ラヴィアン様は今までどこにもご出席なされていませんでしたので、他の方に顔を繋ぐ為に自己紹介をしていただきました。 他の方はそれぞれ一度や二度は顔を合わせておいでです。あとはラヴィアン様の行動力次第で丸く収まりますわ」
知らないのは自分のせいってか! いや別に知りたいわけじゃない。
「それでは、考えるだけ考えておきます」
つまり考えることだけはしておきます。考えた結果は…ご想像に。
しかし、たった一週間程度でこんなこと言われるとは思わなかったよ……。
しかも王太子妃候補に丁度いい年齢だったのかっ。 ――ガッテム!!
さてさてちょっとした状況がわかってきました。
でもこの話、恋愛キーワード入れてないんですよね・・・さて、どうするか・・・。