第6話 試食 なにそれ 美味しいの?
今回少し短めです
ラヴィアンが部屋へ戻る為の挨拶をしたが周りの視線が痛かった。
「ん?」
「あ、いいえ……、あの、見たこともないような料理だったもので」
「あー、試食して貰えるんですか? 古い卵ですよ? 大丈夫ですか?」
「あの、ラヴィアン様はそれらを食べるのですよね?」
「――その為に作りましたから」
なにやらガヤガヤしてきた。これはこのまま帰れない雰囲気だ。
しょうがないか……。いや、ある意味これはいいのか?
この世界で通用するかどうか。
「それではまずこの巻き巻き卵から(出汁入ってないし)」
ま、巻き巻き卵って…。自分のネーミングセンスに脱力した。
まず自分が味見をしてみる。干し肉がやや硬いが噛むとほんのり肉の香りが広がる。
ベーコンほど旨みはないけど現状こんなもんか。
切り分けた物を更に半分に切り分け
「どうぞ」
周りを伺いながらおずおずと近づいて木匙に乗せ、何層にも焼かれた断面を興味深く見たあとそれぞれが口に入れた。
「お、おいしい…」 カリサがまずつぶやいた。
隠し味にマヨネーズ入れてるから多少深みのある味わいになっているハズ。
あ、マヨネーズ余ってる。生野菜をちょっと貰おうかな。
「この野菜少しいただいても?」
「ど、どうぞっ」
きゅうりのような形状で薄緑のそれを水で洗い、半分に切ったあと縦切りにしスティック状にしてマヨネーズの皿の横に置いた。
「どうぞ、その野菜に黄色い物を付けて食べてみてください」
「「「「「!!!!!!」」」」」」
「な、なんて不思議な味。でも凄くおいしい……」
「野菜がおいしく食べられるわ!」
「卵一つでこんなにおいしいものが……?」
「巻き巻き卵も美味しかったけど、これは――」
ちょっと放心状態になりながら、それぞれの視線が冷ましているあの物体、たぶんシフォンケーキになっているはずの物を見つめだした。
まだちょっと熱いと思うんだけどなぁ
一瞬魔法をかけちゃうか?
「ちょっとだけ冷温室で冷やしますね」
まだちょっと熱いシフォンをカリサに持ってもらい、先ほど冷やしていたなんちゃってアイスクリームをかわりに運んできた。木匙を滑らせ削ぐように上から掬いそれぞれの器に移す。
「これは冷たいので驚かないでくださいね」
食べてみると乳製品が入ってないのであっさりなアイスだ。バニラっぽい香りもちゃんと出ている。
あー、生クリーム入れたいっ。ハー○ン○ッツ食べたい!
私の感想とは裏腹に、周りはもう冷たくて甘いお菓子(アイスクリームの概念がない)に目を白黒させている。
「つ、つめたっ! ……こ、こんな冷たいお菓子が」
「こ、これは……口の中に入れた瞬間溶けてしまったわ」
「た、卵でこんな美味しいお菓子ができるなんて!」
「足らないですぅ~」
とはいっても卵一つ分しか作ってないし、2つにすればよかったか。
「それはアイスクリームと言います。本来は動物の乳を入れるものなんですが、今日はなかったので完成品とはほど遠いものですけど……」
「こ、これで完成品ではないとっ!」
「え、えぇ」
サンディさんに凄い顔で見られた。ちょっと怖い。
それじゃそろそろシフォンいきますかね。
冷暗室に取りにきたついでに少し冷気をまとわせて更に冷ましてから持ちだした。
「本当はもう少し冷まして落ち着いてからがいいんですが」
器の内側の縁にナイフを差し込みぐるっと一回りさせる。クッキングペーパーを敷いてないから底が少しボロボロになってしまったが、なんとかシフォンの形状は保てた。
これは大きく作れたから満足してもらえる量が渡るかな?
あぁ、紅茶のいい香りがする。
ナイフを入れている手元をみんな凝視している。大丈夫みんな食べられるからっ。
切り分けたものを皿に移し
「どうぞ」
すでに最初の頃の躊躇もなく、われ先に皿を手にする。木匙をシフォンに刺すとそのやわらかさに
「「「「「 !!!! 」」」」」
またみんな驚いている。大げさだなぁ クス
「なっなんてやわらかさなの!」
「お茶にこのような使い道があるなんてっ」
「たったまご? え? これがたまごで?」
ふわふわでしょう? いい香りでしょう?
この世界はまだお菓子が豊富ではない。糖類も高価だし、そもそもバターとか生クリームとか牛乳が出回ってないから発展しようがないよね。
ちびちびと大事そうに食べている者、口にほおばり奇声を上げている者、なんで?なんで?卵でなんでこんなものが? とぶつぶつと言っている者。
「お、お嬢様……、これはなんていう食べ物なんでしょうか?」
「お菓子の一種ね。シフォンケーキという名前はどうかしら?」
私がつけた名前じゃないけどっ!
「ふんわりとした、っていう意味で」
「「「「 まさしく 」」」」
すべて食べ終わった後は幸せな顔でトロンとしている。
よかったですね~貴方たちがこの世界で初めてのシフォンケーキを食べたのですよ~。
喜んでいる顔を見るのは悪くない。
「そうだ、サンディさん。仕入れの方に搾りたての乳が手に入るが聞いて貰えませんか?」
「こっこれ以上の美味しい物ができるということであれば喜んでっ」
勢い込んで言われた。 こ、怖いから。ちょっと、まじで。
「他の貴族の方々は召し上がらないということですので個人的に購入しますから」
「………………」
みなさんの眉が八の字になり、そんなぁ~という顔になった。
え?だって食べないんでしょ? 忌避していた獣の乳ですよ?
ちょっと卵だけで披露しすぎたかな……。
やばい、調子に乗り過ぎた感がいなめない。
ていうか私は貴方たちの料理人じゃないんだけどっ。
人には好き嫌いがあると思いますがその辺はスルーの方向で
今後も生暖かく見守っていただけたら嬉しいです