表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
45/45

第43話 極めて失礼な思考回路――考えてるだけなら自由だよね

大変ご無沙汰しておりました。

 

 ――ローズガーデン 王族専用室


 王族が去った後、お茶を飲みながら、ラヴィアンが相談事を話し出した。


「さて、宰相様、ちょっと大げさな感じで騒がれていると伺ったので、たかだか半刻程度の出し物では、納得されない方々も出てくるかと、不安になりまして」


 貴族のお茶会などで、演劇を見ている貴族が、見ていない貴族達にあること無い事を広めたんだろう。見た者は優越感に浸り、見てない者は心の中で悔しさを募らせた。そういう場合、得てして、期待ばかりがどんどん膨らみ、実際見てみれば、期待が大きかっただけに、がっかり感を生む。ラヴィアンはそこを危惧した。それがプレッシャーになった。


 いや、別に、本職じゃないんだから、何言われても気にしなきゃいいんだけどね?でもね、引き受けた以上は、がっかりされたくないワケ。そこらへんちょっと妥協できないワケ。


「そこは、気にしなくても大丈夫だと思いますよ?ある意味、初めて見る娯楽になるわけですから」

「そうなんでしょうけれど、私が納得できないといいますか…」


 変なところで負けず嫌いの性格が、ラヴィアンを突き動かしていた。


「それでですね、王宮管轄の部署に、魔道具開発部門の魔道具研究所がありますよね?そこで、開発されている魔道具の一覧とか見る事はできますか?」

「一覧ですか。まぁ、開発部門の報告書などはありますが。しかし、それは機密書類として保存されているものですので、おいそれと開示できるものではありません」


 ですよねー。こんな小娘が見たいと言って、王宮の保管書類をホイホイ見せるわけないよねー。

 あれ?なぜ開発途中って思ったんだろ?もう、すでにあるかもしれないじゃない。私が知っている魔石や魔道具が、この世界にあるものすべてだとは言い切れない。


 こちらに転生してからのラヴィアンは、食べ物のまずさに衝撃を受け、調べる物といえば、食べ物関連に端を発したわけである。なので、魔道具や魔石に関して、それ以外の用途の物は世間知らずと言っていいレベルなのだ。


「えーと、世に出回っている魔道具とか魔石に関するものの一覧てあります?」

「それならば、王宮図書館にあります」

「あ、ローズの図書室にもあるんですか?」

「確か、あったと思いますよ」


 なんとっ、見逃していたぜ。そう言えば、食べ物系の事しか探してなかったような気がするわ。後でみてみよう。


「わかりました、後で確認してみます。それで、その一覧の中に欲しいものがあったら、貸していただけますか?」

「それは、今回の演劇に必要なものという事ですか?」

「そうなんです。先程の話に戻りますが、なんとかもう少し時間を伸ばしてみようかと思いまして、それで、もう一つ出し物を増やすことにしました。その際、出演して頂く方の人数が増えますので、その人選もお願いしたいのです」

「なるほど、わかりました。つまり、男役を増やすということですね?」

「そうですね、まだ内容まではハッキリと決まったわけではないのですが……」


 ラヴィアンは、ちょっと考えた結果、あることができるのではないかと思い当たった。それをするには、魔道具が必要と考え、相談したわけである。


 あればいいけどなぁ~、あれっぽいもの。演目が二つ、二ヶ月で同時進行は難しい。ローズのメンバーとの合同練習も、中々時間が取れないと思う。無理だ、時間的に無理だ。ならば、あれしかない。


 一人考えあぐねていると宰相から更なる申し出があった。


「時間を伸ばすのであれば、途中で休憩などを入れますよね?その休憩で、あのプリンを出して頂くわけにはまいりませんか?」

「え?プリンですか?んんん~、私は当日まで忙しいので、作れる時間が取れるかどうか…」

「バーンズに作って貰うことはできませんかね?」


 宰相は、殊の外あのプリンを気に入っていた。なんとか、王宮でも食べられる状況に持っていきたかったのだ。その為、バーンズにレシピを伝授して貰いたかった。だが、ただ教えてほしいと簡単に言えるものではない。ラヴィアンが手間暇かけて作ったレシピだと思い込んでいる為だ。今後のサリスフォード領の利害関係にかかわってくる事ぐらい、簡単に想像できる。


 まぁ、転生チートなので、ラヴィアンが作った訳ではないのだが、そんな事を知る由もない宰相は、じーっとラヴィアンを覗った。


 一方、ラヴィアンもサリスフォードの売りの一つをプリンと定めていた。なので、ローズでもプリンは自分が作っていた。


 んー、どうしようかな、ローズの厨房の面々には、何度となく見られているけど、口止めしてるしなー。バーンズさんだけに教えてもいいんだけど、少なくとも500個以上を1人で作らせるってのも、鬼だよね~。ブラックだよね~。ブラック無糖。……いや、別に1日で作ることないじゃん、2~3日なら持つし。


「構いませんよ。バーンズさんにだけ、伝授します。バーンズさんが大変でしょうけど」

「本当ですか!バーンズには、こちらから話しておきます」


 宰相、心の中でガッツポーズである。


「それと、色々なレシピ等は専売登録してますか?」

「専売登録?」

「ええ、レシピだけに関わらず、開発したものは専売登録していると、後に、さまざまないざこざを回避できますのでね」

 

 特許権みたいなものかな?


「私個人では、登録したことはありません」

「それでしたら、後で書類を渡しますので、サリスフォード伯と相談の上、登録をお勧めします」

「わかりました」


 紙とか、レシピとか、バターとか。あー、結構あるなぁ。領では登録もしてるのかな?手紙で聞いてみよう。なるほど、それだったら、コソコソしなくても、マージンとれるじゃーん? 

 あっ、プリンのレシピ! 登録の話の前に約束した!やられた!ちっ、やるな宰相さん。


 そんな感じで話が纏まり、宰相は宮殿に帰っていった。


「さーて、部屋へ戻って色々纏めるか~」


 ちなみに、本日のローズの夕食については、言わずもがな。令嬢達は、ガッカリからのビックリ体験を味わったのだった。後日談。



 次の日、早速図書室で魔道具一覧を見つけ、調べてみると

「おー、あったじゃん。これ借りよう~っと」

 早速借りる為に、ルナディ様に宰相宛の手紙を預けた。あとは届くのを待てばいい。

 自室に戻り、新たな劇の構想を練っていると、早速宰相から返事が来た。

 説明書きと共に魔道具も一緒に届いた。


「どれどれ、ふんふん……、ぶっ、ナニコレ使えね~」

「お嬢様!その言葉使いはなんでしょうか?」

 はっいけね。心の声が漏れた。

「気にしたら負け、カリサ」

「は?勝ち負けの問題ではありません。令嬢としてのなんたるかをいているのですけど?」

「そう!絡まった糸をくのは大変よね~」

「絡まった糸の話ではありません!」

「じゃあ、カリサは絡まった糸は解かないで捨てちゃうの?勿体ない。物を大事にしなきゃダメよ~?」

「うっ、あの細い糸が絡まるともう、キーっとなるのでたまには捨ててしまいますけど…、わかりました。なんとか解くよう努力します……、て、あれ?」

 毎度の如くカリサの小言をけむに巻くラヴィアン。

「――それで、お嬢様、それは何ですか?」

「魔道具なんだけど、中々使い勝手が悪い代物なのよね~。魔道具研究所、働けぇ~」


 令嬢らしからぬ言葉使いに、眉間に皺寄せたカリサからの視線を物ともせず、手の中に収まるほどの魔道具BOXを色んな角度から見分するラヴィアン。


 中には数種類の魔石が組み込まれてるっぽい。右横の金属部分に手を当てて発動。溜められる魔力、つまり動力として使える時間は2~3分程度らしい。短すぎるだろ!動力が切れたら、左横の金属部分に手を当て魔力を供給するのか。

 ふ~ん、わかった、手に持ちながら魔力供給を続ければいいわけね。ただし、要、魔力量(大)。そんじょそこらの魔力持ちが持っている魔力量では、数分が精々。生活魔石を動かせる程度の人だと、起動すらしないらしい。魔道具研究所が作っては見たものの、使える者がごく少数に限る、使えない代物だった訳である。

 ふむ、私の魔力がどれ位あるのか、2~30分位なら耐えられるだろうか?この前の講義で、魔力切れを起こすと、体力が減っていくって言ってたな。だるおも~って感じになるのかなぁ?まぁ、取り敢えず、なんとかなりそうだ。



  ――日が変わり、商人との顔合わせの時となる。



 今回、王宮と取引のある商会の会頭4人を呼んだ。その中には、ラスティも含まれている。宰相は商人達に「誰と」会って貰いたいとは、説明しなかった。同時にラヴィアンにも人物説明はしていないと言ってある。国の宰相に対しては、なんら問題の無い者達を召集したが、相手が変わればどう接するかは、計り知れない。まぁ、宰相であるから、商人達の仕事ぶりや人となりはある程度把握はしている。諜報部くらい、どの国にもいるのだ。


 王宮の1つの部屋で待機している商人達。部屋の外に人の気配が近づき、ドアから入室してきたのは、この国の宰相。その後に入室してきたのは、年端もいかぬ、少年?らしき人物。

 会頭達はすぐさま席を立ち、頭を下げた。

 大きな机に向かい合って立ったところで、着席を促し、宰相が紹介を始めた。


「こちらが今回会って貰いたかった、ラヴィアン殿だ」

 

 ラヴィアンは今回、サリスフォードは伏せて貰った。父からの手紙に、極力ラヴィアンの事は伏せてあると書かれていた為である。今後、王都の商人達と長く付き合う事になるとしても、表立ってやり取りするのは、父や兄になる。その時にラヴィアンの名が出ることはない。領で伏せているのに、本人がほいほいと「私が動いてまーす」とは言えない。言いたくない。サリスフォードの特産は、これからどんどん世に出していく計画だが、開発者がラヴィアンという事は、機密事項になっている。演劇の関係者であることも伏せた。

 新しい紙、新しい食材、新しい美容関係イコール「サリスフォード」、新しい娯楽「演劇」イコール「ラヴィアン・サリスフォード」と公にすると、すべての開発に、ラヴィアンが関わっていると連想されたら困るからだ。


「始めまして、ラヴィアンです」


 続いて会頭達が名乗った。


「お会いできて光栄です。ロダンと申します」

 シルバーグレイの短髪をきちっと撫でつけた、ガタイのいいおじ様だ。ブロンズ像とか作ってないよね?


「お初にお目にかかります。ラスティと申します。よろしくお願い申し上げます」

 中肉中背の柔和に見える、いかにも商人という感じのおじちゃん。アライグマ……は、ラス〇ルだった。


「始めまして、私、フォースと申します。本日はお呼び頂き、光栄至極に存じます」

 ちょっとキザっちくて、したたかそうなおじ様。話かたは下手に出ているけど……。

 フォース。一瞬、あの、テーマ曲が頭に流れた。


「この御三方と肩を並べるには、まだまだ、おこがましいのですが、ロイと申します。何卒、よしなに」

 虎視眈々と上を狙っている感じの、恰幅のいいチョビ髭のおじさん。思わず手を見てしまった。指パッチンで炎出さないよね?


 ブルブル。いかんいかん、思考があさっての方向へ飛んでいく。


 それぞれが笑顔だけど、こちらを品定めしている感じがヒシヒシと伝わってくる。

 目が笑ってないよ~(汗)コワ!


「よろしくお願いします」

 こちらは貴族だけど、平民相手でも年上には敬語を使ってしまう、元日本人のサガよ。貴族としての矜持とか、元々持ち合わせていないわけさ。


「では、ラヴィアン殿、ご説明を」

「はい、私が提案する催しは、「アームレスリング」というものです。簡単に言えば、力自慢を集って競い合わせ、勝敗をつける。何か商品でも賞金でもあれば、出場者も盛り上がるかと」


「「「「 ………… 」」」」

 

 あら?4人共、ポカーンとしちゃって。説明が短絡的過ぎたかしらん。


「えーと、今まで剣技の大会はあったと思いますが、他にも競い合う何かの大会ってあったんですか?」

「いえ、競い合う大会などはございません。そして、我々が主催する大きな催し物も特にはございません。そして、「アームレスリング」とやらは、どういったものなのでしょうか?」


 ロダンさんが口火を切った。ああ、そうか。見てないからわかんないよね。


「腕力の勝負なんですが――、ちょっと宰相様とやってみますね」


 デモンストレーションをやった後、それぞれ隣の人と対戦してもらった。結果はロダンさんとロイさんが勝利した。


「まぁ、このような感じの力自慢競技なんですが、その大会を開催するにあたって、運営をお願いしたいのです」


 どちらかというと、キョトンとした感じの皆々様


「我々がですか?」

「そうです。ダメでしょうか?」

「その前に少し教えていただきたいのですが、なぜ、今、この催しを?」

 ロダンさんが質問と同時に視線を宰相に移した。

「ああ、それについては私から説明しよう。先に王宮で、貴族だけの催しがあるのは知っているな?」

 すかさず、4人共頷いた。市井に発表してないのに情報は掴んでいるようだ。さすが。

「貴族ばかり娯楽で愉しんでしれば、民から不満も出ようという物、同じ様な時期に市井にも娯楽を、という陛下からの有難いお言葉を頂いてな」

「なるほど、そういうことでございましたか。かしこまりました。――御三方も異存はございませんな?」

 他の3人も首を縦に振った。まぁ、王様の意向を無碍にできないよね。

「そうしますとまず、大会に出場する者を集めねばなりませんな。それと、会場は――」


 さすがは名うての商人達、ロダンさんがまとめ役な感じで、次々と大会に必要な案件を羅列していった。 

 よーし、丸投げ、丸投げ。

 

 ?さっきからチラチラとこっち視線を向けてくるアライグマ、もとい、ラスティさん。なんだろ?

 

 はっ!そんなことより、大事な事があった。王都に販路を開拓するには、こっちの商人達と顔を繋いどいたほうがいいよね。さて、父様達に誰を押すか。


 じーーーーーーーーーーーーーー。    うん、わからん。


 父様達とそこまでまだ話してないけど、とりあえず、私がサリスフォードってのは伏せてるし、名前だけ父様達に知らせて、あとは任せるってことで。丸投げ丸投げ。私まだ12歳だし。

 都合のいい時だけ12歳と言い切るラヴィアンである。

 

 商人達へタスキを渡し、状況は報告してもらうという形で会合は解散となった。


 ふ~、何か疲れた。王族との初対面とは違った緊張感があったなぁ。後は父様への手紙に4人の名前を書いて送ればいいか。宰相が推す商人達なら、知ってると思うけどね~。あとはよしなに。


 今日のおやつは何にしようかなぁ、なんて思いながら宰相様と部屋を出ると、アライグマが柱の陰から出てきた。もとい、ラスティさんだった。いや、もう見た目ずんぐりむっくりなんでアライグマでいいや。


 本日の思考回路も極めて失礼なラヴィアンだった。



ピョンチャンが盛り上がってますね~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言]  とても、とても良いです。  作者様 続きが読みたいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ