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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
44/45

第42話 見た目に騙されるなよ?大事なのは中身です。


 


 宰相の話を聞き、ちょっと焦ったラヴィアンは、自分の机で、大方出来上がっている脚本に目を通していた。


 う~む、もっとエピソードを足すか、それとも別の短い劇を付け足すか。悩む所だ。午後にでも皆に相談しようかな。

 そこでふと思い出す、あれ?今何の時間?

 !!?まだ講義の最中だった!なんでルナディ様、普通に別れてんのよ!!

 

 自分のうっかりを、他人のせいにするラヴィアンだった。

 

 ダンスフロアに戻ってみれば、講義は終了していた。自室へ戻る廊下でカリサと落ち合った。


「お嬢様、宰相様とのお話しは済みました?昼食の用意をしますか?」


「はいはーい。お昼にしてー」

 腹が減っては戦はできぬってね。


 ローズの昼食は、少しづつ変化している。生野菜にはドレッシングがかけられるようになった。たまにマヨネーズも。パンにもバターとジャムが添えられて、スープもなんちゃってコンソメで味わい深いものになっている。

 そうだ、明日は休みだから、ちょっと手のかかるものを作ろう。





 ダンダンダンダンダンダン ダンダンダンダンダンダン ダダンダンダンダン


 次の日、朝から厨房へ来ていたラヴィアン。朝からけたたましく、包丁ナイフで作業をしながら、考え事をしていた。周りはその様子をビクビクと窺っていた。

 昨日の午後の話し合いで、新たに、短い劇を追加することに決まったからだ。

 さて、どんな内容にするかなぁ。男役もだいぶ集まるみたいだし、男中心の勧善懲悪ものかなぁ。お笑いってのも無理があるしなぁ。黄〇さま?七人の〇?うーむ。少し、面白可笑しくしたいなぁ。


 考えながらも、手元は次々と肉を切り刻んでいた。


「あのー、ラヴィアン様。この、骨を煮たものはどうすれば?」


 サンディさんが妙な顔で鍋を見つめながら聞いてきた。まぁね、骨を煮出して出汁を取るなんてこと、したことないんだろうし。

 骨と普段捨ててしまう部位の肉――主にコラーゲンを含む部位――と余った野菜を、昨日からコトコト煮出していた。鍋の中を覗くと、いい感じのブイヨンができている。


「そのスープと骨を分けたいので、粗目の布で漉してください」


 それらの作業を任せて、別の鍋に、ミンチにした肉とみじん切りにした野菜と香草を入れ、卵白を混ぜて捏ねる。よ~く混ざったら、さっき濾したブイヨンを入れ、コトコト煮る。灰汁を丁寧に取りながら約一時間煮込む。それをまた丁寧に濾すと、あ~ら不思議、本格的なコンソメができました。塩コショウで軽く味付け、この段階でみんなと味見でーす。


「「「「「  はぁふぅ~ 」」」」


 透明な琥珀色のスープ。肉や野菜の奥深い味わい。鼻に抜ける香りで恍惚となる。


 今だ、恍惚としているみんなの横で、更に作業開始。ピグの肉を大き目に切り分ける。野菜もほぼ形のまま、ジャガイモは丸ごと、ベースのスープが濁らないように、別の鍋で煮ていく。肉がホロホロになるまで軟らかくなったら、そっとコンソメの鍋に移す。ジャガイモは皿に乗せる時に併せる。ポトフっぽい物の完成。冷ませば味が浸み込むはず。いやー、肉と野菜、どれだけ使ってんだっていう、贅沢なポトフ。取り敢えず、味が浸みる夕食までお預けでござる。


「サンディさん、その漉した肉は卵に混ぜて焼けば、明日の朝食か昼食にできますよー」

「わかりました~、ん?出がらしの肉を貴族の令嬢に…?」

「ダイジョブ、ダイジョブー」

「は、はぁ、わかりました」



 なんだかんだで、昼もとっくに過ぎ、二時位になってしまった。まずーい、すっかり劇の事を頭からすっ飛ばし、夢中で料理してた。短い劇の構想を纏めないと。

 ああー、そういえば、カカオの発酵上手くいってんのかなぁ。心配だ。

 あ、そうだ。劇の二段構えは宰相様にまだ言ってないわ。参加してくれる男性の人数も少し増える可能性も言っとかないと。

 

 メンドクサイ劇の構想を後回しにすべく、色々な理由をこじつけるダメなやつ。

 ちがうよ!なんかこう、ピンとくるものがないワケ。


 あーそうだ、王様達食べるかなポトフ。んー、でも見た目がなぁ、ちょっと野性味溢れてない?ワ〇ルドだろう?って感じで。一見、庶民の食堂で出される一皿っぽいしなぁ。あ、宰相様ならへっきか?疲れてるだろうし。話もあるし。こっちに来てもらおう。


 一国の宰相を呼びつける、怖いもの知らずのラヴィアンだった。

 


 ――宰相執務室――


 手紙の山と格闘している執務室にノックの音が響く


「宰相様に伝言を預かって参りました。ルシファーです」

「入れ。どなたからの伝言だ」

「はい、ラヴィアン様からです」

 

 と言いつつ、メモが入った封筒を手渡した。中を読んだ宰相は、ぴくっと眉尻を上げ、薄っすらと笑った。すると、執務室に居る他の者達に向かって


「打合せが入ったので、今日の執務はこれまでとしよう。皆も今日はゆっくりと休みなさい」


 いつもより大分早い解散の号令が出た。皆、いぶかしんだが、毎日のハードワークに疲れ切っていたので、早々に引き上げて行った。手紙を持ってきたルシファーだけは、美味しいものの気配を察した。ラヴィアンからもたらされる美味なる食べ物を知る、数少ない人物である。 

 今日はどの様な美味しい物なんだろう?知りたい、食べてみたい。しかし、いくら想像しても答えが出るはずもなかった。


「さて、それでは私も」


 早々に部屋を後にし、本日の業務終了を伝えに国王の執務室へ向かう。


 ――コンコンコン


「陛下、エドヴァルドです」


「ごくろう。今日は早いな」


「たまには息抜きをしませんと、体が持ちませんので」


 と、説明した宰相の顔つきは、いつもの疲れ切ったものでは無かった。


「今日は家で何かあるのか?」


「いえ、得には」


「すぐに帰宅するのではないのか?」


 今日はやけに陛下が絡んでくるな、と。はやる気持ちが顔に出てしまったか?

 国王は国王で、何かが引っかかって質問を繰り出していた。


「すぐに帰宅するわけでは…なく、ですね」


 誘って貰ったのは自分だけのような気がする、ラヴィアン殿から夕食の誘いがあると言ってしまっていいのだろうか?


 どうも、宰相の歯切れが悪い。


「エドヴァルト、何を隠している?」


 宰相は国王に隠し事をできずに、冷や汗をかきながら説明した。


「私も行かせてもらおう」


 やっぱり…。 宰相は慌てて、その辺の騎士を先触れの為の遣いに出した。ローズに向かい廊下を歩いていると、柱の陰からシルヴァーナ様の鋭い視線を受けた。


「父様、どちらに?」


「あ、ああ。ちょっと宰相と話しがあってな」


「そちらの方向はローズガーデンですよね?ローズに行くのですか?こんな時間に?もうすぐお夕食なのに?」


「うっ、うーむ、宰相」


「かしこまりました」


 宰相はまた、その辺で捕まえた騎士に先触れに向かわせた。


 シル王女は、にぃっと笑顔で父親の手に纏わりつき


「あっ、母様一人になっちゃう」


 王子達は現在、学園の寄宿舎にいるので王宮には居ない為、このままでは王妃一人残されてしまう。

 宰相はさらに、また、騎士を捕まえ……。



 一方ローズガーデンでは、先触れ攻撃にルナディびっくり、

 ラヴィアンも、次から次へと来る先触れに、

「王族っ、自由すぎるだろっ」と不敬罪な言葉を吐いた。一応心の中で。

 ついでに、ルナディ様から

「お誘いする前に、こちらに相談をするように」と、お小言も頂いた。

 そりゃそうでした。 



 ――ローズガーデン王室専用部屋


 ポトフを小さな鍋に移し、そのまま運ぶ。部屋へ入り、給仕する為のテーブルにどんっと置いた。冷めないよう保温の魔石を配置してある。毒見が無い代わりに鍋ごと、皿も目の前で布で拭き、先に食べれば安心だろう。

 それぞれの前に置かれた深皿には、琥珀色のスープの中に、ゴロゴロと大き目の野菜と、ゴロっとひと塊の肉が、その存在感を主張していた。王宮で出される料理の繊細さもなく、見たことも無いぞんざいな一皿に、王族達はちょっとビミョーな顔つきになった。同席しているルナディも眉間に皺が寄った。それぞれの頭に浮かんだのは、この肉の塊と格闘するのか……。王妃様とシル王女は、あからさまにガッカリしている。


「ラヴィアン様、これは?」


「ポトフです。まず私から頂きますね」


 まず、スープから。琥珀色の液体がスプーンの上で揺らめく。口に含むと様々な味が広がり、奥深い香りを運んでくる。次に野菜にナイフを入れる。うん、やわらかい。口に入れるとまず野菜の甘味を感じた。コンソメが浸みた野菜は、それぞれ独自の味が交わり、また別の味が堪能できる。自然と口元がほころんだ。ふと目線を上げると、全員からじっと見られていた。


「あ、失礼しました。どうぞお召し上がりください。まずはスープからどうぞ」


 それぞれが疑心暗鬼の中、スープを口に運ぶ。


「まぁ……」「んぐ」「ほぅぅぅ」


 そして、肉や野菜にナイフを入れたのだろう 


「!! や、軟らかいっ」「え??」「肉が…ほどけるように」


 ふふふ、そうだろうそうだろう。ちょっと脂身混じりの肉の塊を何時間煮込んだと思ってんの?驚け驚け~。はぁ~、美味しいなぁ、角煮思い出しちゃったなぁ。

 王族達は、黙々と食べ続けている。見た目に騙されるなよ~?さっきガッカリしてたそこのふ・た・り。


 心の中で言いたい放題である。


「いかがでしょうか?」


「「「…………」」」


 夢中なんですね。返事も出来ないほどに。


 ――勝った――

 

 ラヴィアンは一体、何と勝負をしているのだろうか。


 添えられていたパンも無くなり、あらかた食べ終わった。一皿と言えど、大き目野菜と大きな肉、スープもタップリだった訳で、十分お腹一杯になったと思われる。さて、ではデザートにまいりますか。久しぶりのプリンでございます。本日は、プリン・ア・ラ・モード風に飾ってあげましょう。

 プリンの入った器の周りを少し温める。プリンっ――擬音、わざとですから――と器に落としたら、いい具合にカラメルがたら~と垂れる。その周りに予め切っておいたフルーツを飾り、生クリームを添えて、出来上がり。


「本日は、プリン・ア・ラ・モードにしてみました。どうぞ」


 さっき、ポトフを出した時と、えらい顔つきが違うな、ヲイ。まぁ、美味しそうでなによりです。

 それぞれの顔を見れば、幸福そうに微笑んでいる。


「ふぅ、美味しかった。ラヴィ。見た目はびっくりしたけど」


 今日は大人しめだったシル王女が感想を言うと、


「ラヴィさん、素晴らしかったわ。何より、このスープは絶品だったわ。うふふ」王妃


「それに、肉の軟らかさに驚いたな」王様


「野菜も甘く感じましたわ」ルナディ


「プリンも相変わらずの美味でした。飾り立ても素晴らしい」宰相


「美味しい物を食すと、幸せな気持ちになるのだな」


 と、王様がかみしめるように言った。それを受けて全員が小さくうなずいた。

 そうですよ、王様。食べる事は生きる力、それが美味しければなお、素晴らしい活力を生むんです。

 まぁ、私は単に食いしん坊なだけなんですけどね~。


 そして、本来宰相と話したいが為に食事に招待したら、王族がひっついてきたという結果になったんだけれども、食事が終わり、早々に引き上げる体制に入った一同。いや、宰相さん、何帰る気満々なんですか?「あ、そうでした」じゃないよ。

 退室間際に、王妃様から「演劇が楽しみで、指折り数えて待ってるのよ、うふふ」という、プレッシャーを与えられた。 どーん!〇黒福造が脳裏に浮かんだ。



 王宮に戻った王族を待ち受けていたのは、料理長のバーンズだった。


「陛下、お夕食の用意が整いました」


 王族三人は困った顔で受けた。バーンズに食事は不要と言うのをすっかり忘れていた。そして王が口を開く。


「バーンズ、その、だな、食事は済ませた。連絡するのを失念していたな。用意されたものはそなた達で食してくれ」


「かしこまりました」


 バーンズは見た目にもハッキリわかるほど、がっくり項垂れた。その様子を見た誰もが、折角用意した食事の数々と、それらを作った労力が無駄になった為と認識した。

 バーンズがこぼした一言を聞くまでは。


「ラヴィアン様、どうして私も誘っていだだけなかったんですか……」


  ――そっちかい!?

 




話が進んでませんよね~

次話はもう少し進めるようガムバリます。

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