第38話 脱!学芸会!――善処します。
ふー、やっとです。お久しぶりでございます。
王宮執務室
現在王様と宰相様と対峙している。片手を顎に添え、出されたお茶の器を見ながら考えを纏めていた。
お二人はさっきからこちらをずっと見つめている。う~ん……。
「発言宜しいでしょうか?」
「いちいち断らなくてもよい。こちらが相談しているのだからな」
「ありがとうございます。では、質問ですが、王宮主催としてあの「演劇」を、皆様に観せたいということなんですか?」
「うむ、それをどうするか、ということだ」
「そうですね、今までに無い事でしたので、貴族達も噂に噂を呼び商人達まで巻き込んで「演劇」を観たい、もしくは、もう一度観たいと嘆願が多いわけです」
宰相様が困り切った顔で、嘆願の多さを説明した。
「商人達が演劇を観たいというのはどうするつもりなんです?」
貴族令嬢が行うものを平民に見せるというのは、私は構わないけど侯爵令嬢も混じってるからなぁ。侯爵家から何か言われる気がする。
「それは、難しいでしょう。そもそも貴族達が観たいと言って騒いでいるだけで、商人に何かをしてほしいということでは無いのです。ですが、商人達は貴族達の関心事に関わりたいと「演劇」がどういうものかを訊ねてくるという流れですね」
「ああ、そういうことですか。では、私達が演劇をまたやればいいということですか?」
「できるか?いや、やってくれると助かる。王妃にも毎日せっつかれてな……。当然、私ももう一度観たいと思っておるのだが」
なるほどね~。でも貴族はそれでいいけど商人達は納得するんだろうか?市井の民を蔑ろにするのはちょっとなぁ。
「演劇に関してはローズの令嬢に相談します。そこで相談ですが、今回は王様へのプレゼントという名目ではございませんので、観劇料を取るという形を取らせていただきたいのですが」
演劇が何であるかの基盤が無いのでどの様に采配すればいいのか分からないんだろうな。とすれば、従来の演劇に関するあれこれを今回に詰め込んで、今後、平民が劇団を起こして貴族達が観劇するという形を作れるようにすればいい。
「観劇料?というのは?」
「演劇を観る為に支払う料金です。それは、この先の事を考えればこそです。従来、いえ、今後演劇は平民がやる方が望ましいのです。そして、演劇を作る側の多大なる労力と製作費に対しての見返りとして頂く料金ですね。王宮も今回は色々設置するのに経費がかかると思いますので、それを観劇料から充てます。演劇の制作に掛かる費用もそこから出せばいいのです。更に今回は、市民にはまったく関わりのない事で、これに国費を使う訳にはいかないと思うのです。
近い将来、貴族も平民も観劇料を出すことで観る事ができるようにすれば、演劇は広まっていくと思います。今後も貴族が演じるということでは平民はどうしても関われません。今回も商人に動いて貰って劇団を作って貰えばいいのでしょうが、そこまで大掛かりですと二か月では時間が足りません」
「二か月とは?」
「ええ、私達が手取足取り教えないとならない訳ですから、ローズに居られる二か月では時間が足らないのです。ましてや、ローズに男性を呼ぶことも、令嬢が簡単に外へ出向く事もできません。」
そこで気が付いた王と宰相。そうだった、ローズは六か月の履修だった。
「なるほどな。演劇は平民がやる方が望ましいか。では今回は貴族向けにもう一度開催を頼めるか?」
「ええ、王様の望みとあらばどなたも異議は申し立てないかと。それと一つお願いがあります。宰相様が選ばれた商人に一度会いたいと思うのですが」
「それはどういうことです?」
「ええ、今回の演劇には関われない商人に別の催しを開催してほしいと思いまして、このままでは商人達を蔑ろにしてしまいますし」
「別の催しとは?」
「この前のパーティで騎士さんにやって貰ったアームレスリングの大会でもどうかと、あと色々頼みたいこともあります」
まぁ、二か月後ローズを出てからでもいいんだけどね。宰相様の信頼のおける商人にも会っておきたいし、サリスフォード営業部長としては。ふっふっふ。
「なに!アームレスリングという名なのか!あれの大会も面白そうだなっ」
「なるほど、商人達にはそちらをと。わかりました。商人達との会合については任せてください」
「ありがとうございます。それと宰相様、お忙しいかと思いますが観劇チケットを用意していただけますか?」
「観劇チケットとは?」
「観劇料を頂いた証拠になる券です。その券を提示して頂いて会場に入れることにするのです」
「ああ、それはいいですね!」
「場所は決まっているのですか?」
「まだそこまで詳細は決まってませんね」
「では早急にチケットを用意して頂き、観劇される方の人数を出してから会場を考えますか?今回は椅子を用意して頂きたいので会場の整備も必要になると思います。あ、紙はサリスフォードからお安くご用意致します」
紙を売ることも忘れないラヴィアンであった。
「大事になってきましたね――」
「では、会場を決めて、その会場に入れるだけのチケットを用意するという形にします?」
宰相は会場を思い浮かべる、椅子を並べた場合何人入れるかを。
「ふむ、五百位が適当か。あまり広いと遠くて観れないですよね?」
「そうですね……。椅子は奥へ行くほど高い位置になるように設置できますか?」
等々、粗方必要な事柄を話し合い時間が過ぎていった。今後も幾度となく話し合いが必要になってくるだろう。宰相様、普段でも忙しいと思うんだけど、大丈夫だろうか?倒れないかな。
「宰相様、とても忙しくなると思われますが、大丈夫でしょうか?」
「何、国政に関しては他の者に粗方任せられます。陛下にも政事に勤しんでいただければ」
「宰相、ちょっとずるいではないか?自分だけ楽しい事に関わる気ではないだろうな?」
「何をおっしゃいます、陛下。今までに無い此度の事、宰相である私が関わらないでどうします?」
「う、うむ。それはそうなのだが……」
王様は何か納得のいかない顔で頷いている。宰相様はあれはこうして、これはこうして、と言いながら、
「いやー、これは忙しくなりますね~。大変だ」
と、言いながらも口の端がヒクヒクしていた。どうやらニヤニヤしたいのを抑えきれないようだ。
「それではラヴィアン殿、令嬢方へのご説明よろしくお願いします。観劇のチケットに関してはお任せください」
「かしこまりました。紙は早急に送るよう手配しておきます」
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次の日の昼食後、令嬢方に集まって貰った。
まぁ言われなくても最近午後はほとんどここに集まってくるんだけどね。
早速、王宮からの依頼を説明した。皆の顔つきを見れば一様に笑顔になり目がキラキラしてきた。
みんな今は楽しそうだけどね~。この前よりもっと本格的にやるよ~?これから地獄の日々が始まるのだっ。
「さて、皆さま、今回の予定を説明します。前回より多少時間はありますが、前回より本格的な物にしたいと考えてます。色々な費用の捻出の為に観る方から料金を頂きますので。それぞれの担当は今後細かい打合せをしていきますが、前回以上に大変になることをご了承いただけますか?」
ちょっとだけ皆の顔がギョっとなった。
ふっふっふ。脱学芸会!目指せ演劇!
「――といいますと?」
取説が恐る恐る聞いてきた。
「ええ、演目はこの前の『ロミリオとジュリア』でいいと思います。あの劇をもっと膨らませ内容を濃くしたいと思ってます。それと騎士の方にも手伝って頂きたいと考えてます。例えば父親役等、主に男性役ですね」
「え?ラヴィアン様は?」
「出来れば私は裏方に回りたいのですが――、ダメですか、わかりました」
みんなの視線で逃れられないと悟った。仕方ない。
「では早速、細かい打合せをしましょう」
まずは全員で物語に付け足すエピソードを考えてもらう。それからラー博を中心に脚本を纏める。場面場面をもっと丁寧に、場面の大道具ももっと確り作り込む予定だ。BGM演奏も王宮の楽団を巻き込む。情景効果は魔石がある分この世界の方がやりやすい。そしてセリフは多くなるだろうから演じる令嬢には覚悟を決めて貰う。自分も含めて。
「開演は来月の中頃の予定です。時間がありませんので皆さん宜しくお願いしますね」
「「わかりましたわ!」」「よろしくてよ」「がんばりますわっ」
それぞれがやる気に満ちた返事をよこした。
そのやる気、最後までもたせてよ~?
「あ、あのっ!ラヴィアン様!」
「あら、Qちゃん。どうしました?」
「あの……、プ、プリンは一週間に一度位は出ます?」
「…………」
心配なのはそれかい!
「――善処します」
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次の日は休養日だったので朝から厨房へ
恐らく脚本組は今日の朝から頭を悩ますだろう。昨日全員で出し合ったエピソードの追加やセリフの見直しで二~三日はヘロヘロになるだろうなぁ。二~三日で出来ればいいけど、脚本が出来上がらない事には他のメンバーは動けない。
という訳で、私は朝から厨房だー。
今日は生地作りに時間の掛かるパイを作ろう。シナモンがあるから、とーぜんあれですよ!
アッポーパイ! いや、アップルパイ。
バターの折り込み生地を作るのは、単純だけど気を使う作業で時間も使う。
色々な事を考えながら作るには丁度いいかもね。




