第4話 あれこれがちょっと解った今日この頃
同じ頃サリスフォード伯爵邸ではラヴィアンの両親が食後のひとときを過ごしていた。
「あなたお茶のおかわりはいかがですか?」
「ああ、もらうよ……。ふぅ」
「なんですか?あなた溜息ばかり、クス、今日発ったばかりですよ?」
「なんかさみしいのと心配なのと色々でね……」
「そうですね……。あの子が家に居ないなんて初めてですものね」
シュンとした雰囲気で溜息をはいているラヴィアンの両親である。
「前に結婚なんかしなくても構わないと言ったけどなぁ……」
「まぁあなた!あの子を政治の道具にするつもりですか!そんなこと私は絶対ゆるしませんよ!」
「ちがうちがう! 落ち着いてベアトリス!」
どうどうという感じで背中をなでながら
「私はベアトリスと結婚して子供たちが出来て、今もこれからも、とても幸せに暮らしていけるとつくづくと思っているんだけど、ラヴィアンが本当に結婚をしないという将来を考えたら、この幸せを味わうことは無くなると思ってね」
「そうですわね……、 あの子が年を取った時は私たちはいませんものね」
「今思い出しても、君が私との結婚を承諾してくれた時は次の日にでも死んでしまうんじゃないかと思ったくらい信じられなかった、それほどうれしく幸せな気持ちを……」
「うふ、もう何度も聞きましたわ」
「うむ、あの輝かしい気持ちをラヴィアンにも経験してほしいなぁと思うんだけどねぇ」
「わたくしもあなたに一目ぼれでしたから、あなたから求婚された時は天にも昇る気持ちでしたわ。うふふ」
「よく君の両親が許可してくれたと不思議だったけどね。なんせ君は社交界の花で引く手あまただった訳だし、求婚者も沢山いただろう?」
「それについては……、もう話してもいいかもしれませんわね」と言いながら周りをチラっと見る。
部屋にはまだ執事や侍女が控えていた。気を利かせたオウエンが
「クロード達はもう下がってくれ」
執事たちが部屋を引き上げたあとベアトリスが話し出した。
「あの時力を持っていたある侯爵から年頃になったら正妻にとの話があったらしいですわ。まだ正式に申し込まれたわけではなかったようですけれど、二十も年上でしかも側室もすでに四人もいたので、両親もどうしたものか悩んでいたんです。正式な申し込みが来たら断り切れないと……、そんなことを両親から相談されて、私はすでにあなたに一目ぼれしてましたので、あなたからの求婚を願っていたものですから、 ――両親を脅しました。 ふふふ」
「え? 脅した?」
「ええ、もしあの色ボケ…コホ、侯爵様の求婚に承諾したら初夜に寝室で侯爵を殺し自分も死ぬと」
オウエンが目を剥いてベアトリスと見つつ
「そっそれはご両親も…びっくりというか、ぞっとしただろうね……」
それはそうである。力を持った侯爵を手にかけたとあればベアトリスの実家もただではすむまい。
「ですから……色ボケ侯爵様より先に求婚していただいて家としてもとても助かったのですわ。 ホホホ」
「そっそれはよかった……。他に決まらぬうちにと急いでよかった」
「ええ、ですからあなた、今後側室とか「ない!」 」
被せるようにあわてて否定した辺境伯だった。
「あなたからの愛情は痛いほど感じておりますから心配しておりませんよ。ふふ。でも、そうですね。ラヴィアンにもこの幸せを掴んでほしいものですわね」
「ラヴィアンは賢い子だから下手な者に心を奪われるということはないと思うが、相手がどのような者であろうとあの子が選んだ相手なら祝福してあげたい。それが貴族であればいいのだが……」
「どのような相手であろうとあの子が選んだ方ならわたくしは賛成しますわ」
「私達のように幸せな将来を育んでほしいものだね」
「その前に……、結婚を考えてくれるようになればいいのですけど」
心配事は尽きないといった感じだったが
二人のラブラブな世界は即座にその場の雰囲気をピンク色に染めていった。
ラヴィアンに兄弟が増える可能性はまだまだ高い両親である。
次の日
目を覚ましたら、見慣れぬ天井、見慣れぬ部屋。
ああ、そうだったローズガーデンに来たんだった。
「う~~~ん」 と背伸びをすると
「お嬢様お目覚めですか?」
階下からカリサの声がした。
「今降りるわぁ ふわぁ」
「お嬢様 はしたないですよ」
「カリサ以外いないんだから大目に見てよ もう」
大丈夫だろうかこのお嬢様、いい所へお嫁に行ってもらいたいのにこのままでは即離縁ということに……。
心配事の尽きないカリサだった。
そんな心配をよそにパタパタと階段を下りてきたラヴィアン。
「今日から講義が始まるから軽装でよろしく~」
「またですか?いつも軽装ですよね?お嬢様は」
「お勉強をするんだから着飾る方がおかしいと思うんだけど?」
「そうでしょうか…?」
着替えが済むとカリサが朝食を運んできた
出来ればコーヒーが飲みたい。この世界にコーヒーは無い。 いや全世界を調べた訳じゃないからわからないけど、自分の生活圏にはなかった。
「パンとスープに葉っぱ……。」
せめて卵とかー、ジャムはないのかー?
この食生活で栄養価は足りてるんだろうか……貴族様達。
市井の人々の寿命もあまり長くないようだけど、貴族の寿命も短そうね。あとで図書館にでも調べに行ってみよう。たぶんお産で無くなる婦人も多いんだろうなぁ。
朝食を食べて暫くすると鐘の音がした。
部屋から出てみるとご令嬢方も部屋から出てきたので、同じ方向へついて行った。
みな同じ部屋へと吸い込まれて行くのでドアの近くまで行くと、飾りの付いたドアには【華の間】と書かれた木彫りの木片がかけられていた。
「ラヴィアン様、おはようございます。どうぞ中へ。お好きな席にお座りくださいませ」
突如後ろからルナディ様が現れた。
すわ! 私の後ろを取るとはおぬしなかなかやるなっ。――気持ちをナナメ上に持っていき平常心を取り戻す。
ちょっとびっくりしたけど表情には出さずに
「おはようございます。本日から宜しくお願いします」
中に入ると目がチカチカする位きらびやかな衣装を纏った、
ご令嬢、ご令嬢、ご令嬢。
一斉に注目を浴びたが構わず後ろの方に空いている席を見つけ腰を下ろした。
前の席が埋まってるって……、日本ではなるべくみんな後ろ後ろに席を取ろうと早めに教室に行ったものなのに……なぜだ??
まさか! 席の場所によって評価に関わるなんてことないよね…?
「ごきげんよう、みなさま。 本日は昨日こちらにいらしたラヴィアン様のご挨拶から始めたいと思います。 ラヴィアン様、少し前にいらしてください」
なっ、いきなりきたし、心の準備が……、いじめか?いじめなのか?
一拍おいて、しかたなく席を立ち前に進み出る。
「おはようございます、みなさま。 昨日夕食で少しご挨拶いたしましたが改めまして、ラヴィアン・サリスフォードと申します。
これから暫くご一緒に過ごさせていただきますので、宜しくお願いいたします」
スカートの端を少しつまんで少し足を折り頭を少し下げてから体を戻す。室内を見渡すと二~三人はちょこっと頭を下げていたが、ほとんどはピシっと座ったまま微動だにしていない。
貴族が軽々と頭は下げないわよ。つんっ、て感じ。
「それでは席にお戻りください」
あれ? みなさんの紹介は? 誰も知らないんだけど?
はいはいそーですか、貧乏辺境伯には興味はないんですか、わかりました。
「本日はここローズガーデンについて説明いたします」
ここの講義は基本午前中のみ。ご令嬢方に詰め込み的なお勉強はさせないらしい。
ダンス、歴史、礼儀作法(テーブルマナー、お茶の飲み方からグラスの持ち方等細かいもの含む)簡単な自己防衛手段? 合気道的な何かがあるんだろうか? ピアノ(楽器演奏)、手紙の書き方、適材適所の服装
今まで母様から毎日のように躾けられた数々、ラヴィアンにとってはそれが通用するのか、それだけが心配だった。
この世界の事を知りたくて8歳から本を読みまくった。
その辺のご令嬢より必死だったぶん知識はあると思うよ?
今まで着飾ることしかしてないんじゃないの?ご令嬢方。
色々な情報はこれから必要になってくると思うけどね。
あまり真剣に聞いている感じはしない。
そういう私も考えごとしててあまり聞いてなかったけど。
説明も終わり
少し気になることがあったので令嬢方が居なくなった後、ルナディ様を呼び止めて質問をした。
「少し質問いいでしょうか?」
「はい?なんでしょう」
「あの、講義の項目に魔法がないのですが」
「ああ、ええ、魔法の講義はございませんわ」
「魔法を使う方はいらっしゃらないのですか?」
「いえ、数は少ないですがおりますわ。 ですがあまり役に立たないと申しますか、昔と比べてだんだんと大きな魔力を持つ方も減り続け、ご令嬢方に魔法をお教えするというのも……。
学園にはそれ相応の方はいらっしゃいますわ。それでも自己防衛手段として少しだけ魔法が使える位ですわ。
魔法のなんたるかを学園の講師がこちらへ参り教えることになっているという程度です。
そもそも魔力を持っていないと意味ありませんので、お話し程度の講義ですが、ラヴィアン様は魔法にご興味が? 魔力を持っていらっしゃるのですか?」
「あー、すこーしです。 わかりました、ありがとうございます」
そうなのか。えー?? 家で再三両親や兄様にあまり使うなって言われてたけど、なるほど納得! そもそも使える人が少ないのか……。
なんだか…、学園の方に行きたかったなぁ。
自分の魔力がどのくらいのものなのか、周りの魔法がどのようなものか。
その辺も知りたかったのに、魔法が使える人が少ないってのは……。
ヤバイ感じ? なんか色々使えるんだけど私。なんで??
考えられるとしたら転生によるギフト的なあれだろうか?
――でたよテンプレ!
「ルナディ管理官、ベルジック子爵令嬢がご到着なさるそうです」
「わかりました。それではお先に失礼いたしますね、ラヴィアン様」
「はい、ではまた」
補佐のユリアさんに話しかけられルナディ様がその場を去っていった。
あっ 昼に厨房へ行くこと言うの忘れた…。 まぁいっか。
休憩後次の講義はダンスだったっけ
「えーと、ユリア様。ダンスの講義のフロアはどちらに?」
「ではご案内いたしますが、まだ暫く休憩になりますのでいかがなさいますか?」
「では侍女のカリサに場所をお教えください」
「かしこまりました」
一旦自室に戻り休憩後ダンスフロアでの講義があったが着替えずにそのまま行った。地味一直線。カリサには着替えろと頼まれたけどね。これからどのような内容で進めていくのかの説明と、4~5曲のダンスの模範を見せられたわけだが、まぁ、なんというか女性同士なので様にならないというかなんというか。
とりあえず母様から教わった以上のものは無かったので安心した。
そして先生からダンスの授業なのだからもう少し着飾ってきなさいと注意された。
カリサのしたり顔が目に浮かぶ。
そして、もうすぐ昼食という時間で解散となった。
昼食も言わずもがな…、期待なんかしてなかったけどね。
この世界の人達、食事で幸せを感じることなんてないんだろうなぁ……。
パンもなんだか硬いし、ちゃんと醗酵させてるんだろうか? なんか穀物っぽい物を煮た感じのドロドロしたものが超絶マズイ(泣)。カリサには極力少量でと頼んだけどこの量でも拷問に近いし、捨てるのももったいないので無理やり流し込んだ。 温野菜っぽいものでなんとか口直しをして、昼食を終えた。
「午後はいかがなさいます?お嬢様」
「そろそろいいかな」
「なにがです?」
「ちょっと厨房へいってくるー。見学の約束したの」
「今日はお供しますよ、お嬢様」
ジロっと見られたので一緒に行くことにした
やれやれ
カメの歩みで物語が進んでませんね
気長にお付き合いくださいませ