第36話 それぞれの扉、目覚めの時
遅くなりました
ローズガーデンへ来て四ヶ月が経った。
ここの所、何やら回りが騒がしい。
領では満を持して紙が発売された。湯あみセットも徐々に売上げが上がってきたそうだ。
王妃様にも気に入って貰えた。シル王女にはヘッドスパを度々頼まれる。お菓子付きで。
現在王妃様とシル王女はサラサラヘアが大のお気に入り。くせの様に暇さえあれば自分の手で髪の毛を持ち上げサラサラとなびかせている。宣伝効果抜群である。
紙に関しては先に王様へ献上した。羊皮紙を扱っている領への牽制に王宮を巻き込み、要らぬ軋轢を生まぬよう父様達が上手く運んでくれるだろう。まだ量産はできないけどその内どこでも紙が作られる様になれば、本や絵、その他にも色々発展が望める。
まぁ暫くはサリフォード発祥にしてもらわないと、試行錯誤を繰り返した四年の歳月、元が取れない。
家ボンビーだから許して?ってことで。
ローズの令嬢達は演劇以降暫く呆けていたがそれぞれが何かに目覚めたようで、
「ラヴィアン様、こちらを読んでいただけませんか?」
そう言って渡されたのは紙の束だった。脚本を担当したラー博は物語を書くことに目覚めたらしい。
紙については以前、演劇をやりたいと皆に説明した際に粗筋を書いた紙を見て、この紙を入手したいと相談された。これから売り出したい紙だったので二つ返事で請け負った。
アレイが作り保存していた紙を送ってもらい、ラー博に渡した。これから発売される紙ですと一言添えて。その辺、サリスフォード営業部長は抜かりはない。クックック。
レドベリ様は作曲に目覚めたらしい。いつだったか誰も居ないと思ってピアノの弾き語りをしていたら、レドベリ様がコッソリ聴いていたらしい。
日本のヒット曲だの色々な歌をこの世界の人が聴いたらそりゃびっくりするよね~。おまけにふざけた歌まで笑いながら歌ってたので意味不明だったのだろう、早々に質問された。
「ラヴィアン様、~~〇からぎゅう~にゅう~♪ とは、どういう意味ですの?」
いや、忘れてください。説明できません。
「いやー、これはちょっと私もわからないのです。市井の者が口ずさんでいた歌が頭に残っていただけですので」
〇門さんごめんなさーい。この世界に居ないけどごめんなさーい。
そして演技に目覚めてしまったらしい取説。ラー博が書いた本のセリフを感情こめて皆に朗読している。午後のお茶会で。
そして、あることが発覚したイザベラ様。絵がとても上手だったのだ。
「んまぁ~!イザベラ様!素晴らしいですわっ、この絵!」
青扇ことリンブル様が騒いでいるので覗いて見ると、美しく描かれた青年の絵だった。それも青年二人のダンスの絵だ。ん~?見たことのある服装。
あれ?あのダンスの時に羊皮紙に書きなぐってたのはイザベラ様だったっけ? いや、あれは見たことの無い令嬢だったはず。
「あ、あの、イザベラ様。これは……」
「ええ、あのダンスの一瞬を想い出に描いて差し上げましたわっ」
鼻高々に言われてもなぁ~。これ兄様しか喜ばないと思われ。
「キャーっ、イザベラ様!私にも同じ絵をくださいましっ」「はぅっ!わ、私も欲しいですっ」「私、その銀の髪の方一人の姿絵が欲しいですわ」
え、ちょっと待て、肖像権の侵害だ!断固阻止するっ!
「イ、イザベラ様?それはちょっと待ってください?」
「あら、ラヴィアン様、皆様欲しがっているものを描いて差し上げるのは私ですもの、何か問題でもございまして?」
「えーと、他の青年、例えば架空のロミリオを想像して別の人物を描くとか」
「ロミリオはラヴィアン様が演じたのですからそのままですわっ」
あっ、そうだった。墓穴掘った。他に誰かいないか、誰か適当な人物。と考えて見たけど思い浮かばず。王太子や王族を勝手に描くと不敬罪になるしなぁ。
「あー、では他の人に見せるとかせず、名前も出さないでくださいね?」
社交界に急に現れたサリスフォード三人目の子息、と思われているか、男装の令嬢と思われているかは定かではないけど、今までずっと隠れていたのにこれ以上広まるとこれからまた隠れようと思ってんのに、絵とか出回ったらみんな忘れないじゃん。それ困るしー。
「「「わかりましたわっ」」」
皆に笑顔で返事されたけど……、信用できないのはなぜだろう??
取説がダンスの絵をジーっと見つめている。なぜか嫌な予感がした。
「ラーミン様、頼みたいことがあります」
真剣な顔つきというか思い詰めた顔つきで取説がラー博に言い寄った。しかもコソコソと。内容は聞こえなかったが想像は出来た。嫌な想像が当たりませんようにと祈るしかない。でも、貞子の予感は当たるからなぁ……。
ラー博は話を聞いたあと、ぐっふっふと含み笑いをし、
「マニュアル様!素晴らしいわ!早速書き始めますっ。では皆さま、失礼しますっ!」
青年二人がダンスをしている絵を参考に物語を書くということは、ちょっと想像すればわかるよね。
はぁ~……。
この世界に無かったであろう腐女子を作ってしまうのだろうか。この先を考えるとちょっと怖い。
別に恋愛は自由だからどの様な形の恋愛があってもそこは否定しない。しかしなぁ~、この世界は楽しみが少ない分、入れ込み方が半端ないような気がするんだよね。腕相撲位であれだけ楽しんじゃう訳だから娯楽に飢えているというのが解る。
自分が何かすると色んな扉が開いてしまう。いいのか?う~ん。転生されちゃったんだからいいのかなぁ?こればかりは考えても答えは出ないし、なるようになれだ。考え過ぎるのはやめようっと。
色々な事を考えていたらいつの間にかルナディ様がいた。
「ラヴィアン様、王宮から呼び出しがありました。早急に向かってください」
「呼び出される内容は伺ってます?」
「いえ、伺ってません」
「わかりました。すぐ向かいます」
あれぇ?なんだろう。何もしてないよなぁ。
部屋へ戻りながら考えるも思い当たることがない。
「カリサ、王宮へ行ってくる~」
「はい、お供しますか?」
「だぶん一人で大丈夫」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
ローズと王宮を繋ぐ道を騎士’sと共に歩く。馬車は断っているからね。
途中でルシファさんが話しかけてきた。
「ラヴィアン様、この前の孤児院で子供達がやっていたあれは何でしょうか?あの庭で丸い何かを投げ合っていたやつです」
「あぁ、あれはドッジボールという競技です」
「ドッジボールというんですか。ちょっと楽しそうでしたね」
あーなるほど。スポーツっぽいものすらないし。騎士だと鍛錬はするだろうけど競技的な物はないんだろうなぁ。
「騎士の鍛錬に競い合うものはないんですか?」
「競い合うのは剣の模擬戦位ですね。それなりに盛り上がりますが団体で競い合うというものではありません」
現状平和ではあるが、いつ戦争が始まるかは他の国次第だと思う。この国のあの王様は戦争吹っかけて領土を広げるとか考えなさそうだし、国民を大事にしてると思う。孤児院一つとっても蔑ろにしていないし。
騎士達は有事の際に必要なので数は揃えている。自衛隊みたいな感じかな?
「走ったりとかはするんですか?」
「多少は走れませんと実戦では使い物になりませんからね」
「で、ドッジボールをやってみたいということですか?ルシファさん」
「中隊単位で何か競い合うものがあれば鍛錬ももう少し気合が入ると申しますか……」
「ルシファ、何を言ってる!剣でも気合を入れろっ」
サウザーさんがギロっと睨んだ。
「サウザーさんは剣の模擬戦だけでも士気が上がるんですね?」
「士気が上がるといいますか現状それしかないので、そこで頑張るしかないということです」
「しかしサウザー、意欲ややる気というものがだなぁ」
ふむふむ、モチベーションが保てないということか。
そんな話をしているうちに王宮側へ着いたら宰相様が待っていた。
国の宰相に出迎えられるほど私は重要人物ではないと思うんだけど、一体何の話があるのやら。
「ラヴィアン殿、お待ちしておりました。少しご相談がありましてお呼び立て致しました」
こんな小娘に相談とな。なんだろう?食べ物関係かな。あっ、今日何も持ってきてないや。王女様残念がるだろうなぁ。
「わかりました。今日は急の呼び出しでしたのでシル王女様のおやつを持参してません。がっかりさせるのも可哀想ですのでこちらへ来たことは内密に願います」
「こちらも急に決めた事ですので陛下と私以外は知りません。ご安心を」
そして王宮の執務室の一つに案内された。
ラヴィアン:ちょっとなにさぼってんの?
黒鶺鴒:さぼってませんよっ、心外だなぁ。
ラヴィアン:ならなんでこんなに間が開いてんのよ
黒鶺鴒:急に部署移動があって時間の余裕が無くなったのっ。覚える事沢山でヘロヘロなのっ
ラヴィアン:いい?私を途中で投げだしたら許さないわよっ
黒鶺鴒:イエッサー!