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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
36/45

第34話 ちびモンスター


 王都孤児院 


 国に守られていて、土地は余る位なので広い。 管理運営者数名。



 ルナディに連れられてローズガーデンのお嬢様三名とそれぞれの侍女達が着いたのは国で管理している孤児院である。


 各地にも大小様々な孤児院が存在するが管理しているのはその地を治めている各貴族だ。管理体制については国が指針をだしてはいるが、その地細かい事は領主に一任されている。


 ローズガーデンからの慰問はご令嬢方ということもあり、安全を期して国が直接管理しているここ王都孤児院に決められている。護衛はルシファさんとサウザーさんだった。すっかりローズ専属のように使われているようだ。 


 土地は広く取られており物語によくある今にも崩れそうな掘っ立て小屋ということもなく、装飾は無いが簡素でしっかりした建物であった。



 へぇ~、思ったより綺麗に管理されてるなぁ、やるじゃん王様。


 ルナディに案内されて入口から中へ入るとちょっと疲れた顔の数名が出迎えた。


「ルナディ様、ようこそおいでくださいました」


「ルシアン院長、お元気そうでなによりです。本日は三名のご令嬢様方と共に参りました」


「ありがとうございます?ご令嬢三方ですか?――では、早速ですがホールへご案内いたします。それと孤児達の人数ですが、現在三十八名となっております。内三人は一歳未満です」


 ラヴィアンを見た院長が、? な顔をした。


「そうですか、だいぶ増えてますね。それと一名男装してますがれっきとしたご令嬢ですのでご安心を」


「あ、そ、そうなんですね?わかりました。――それで、子の人数にもう最近では収拾がつかなくて大変な重労働になってます。人材を増やしたいんですが金銭的にも難しく……」


 それでか、この疲れきった表情と重い足取りは。


 部屋の入口から入ると、そこは三十五人のちびモンスター達が好き勝手に騒いでいた。

 院長が手を叩いて注目を促すが、小さな子供がすぐに言うことを聞くはずもなく、溜息と共に項垂れてしまった。


 ここで育った子は大体十二~十三歳位から孤児院を巣立ち各所で下働きを始めるという。

 現在一番上が推定十歳、下は手のかかる一歳前後の幼児達。

 ここで子供たちの面倒を見ている人数は六人、その他修理等の人員は街で手の空いた人達が交代で来てくれるらしい。

 国が管理しているが予算は限られていて人員も増やせないとこぼしている。

 ちびモンスター達の暴れっぷりに大人たちはヘトヘトになっている模様。


 


「さぁ、今日一日お手伝いをしますので子供たちの面倒をお願いしますね」


 と、ルナディ様に言われたものの一緒に来たお嬢様二名と侍女もちょっと引いていた。おずおずと前へ進むも何をしていいやら立ち尽くしている面々。

 それでは私もいきますか。


「ラー博、レドベリ様、これから作業しますので手伝ってくださいね?」


「え、ええ、それは構いませんけれど…」「ええ、わかりましたわ」

 

 今日は子供達の面倒を見るという前提なので服装は男装を許可して貰った。ドレスなんて着てたら子供達に裾を踏みつけられ、とんでもないことになりかねないし、ドレスを数多く持っていないのでという理由をこじつけて何とかルナディ様に許可を貰った。


 パンパンと手を叩き、

 

「はーい、みんなちゅうもーく」 


 いつもとは違う声に子供たちが一斉にこちらを向いた。その中で背の高い年長そうな子を見つけ、


「私はラヴィアンと言います。あなたお名前と年はいくつ?」


「ビグル!十歳。?今日は男の人も来たの?名前が女みたいで変なの~」


 ピキッ!男でも女でもどっちでもいいけどね、もう少し年上に対する礼儀を覚えようか?

 

「そう、年長さんね? 他に同い年か一つ下の子はいる?」


「うん!バル、ピッケ、フラン、ヘイグ、ホルンかな」


「バル、ピッケ、フラン、ヘイグ、ホルン、今呼ばれた子こっちへ来て~」


 呼ばれた子がおずおずと集まって来た。

 ビグル、バル、ピッケ、ヘイグが男の子、フランとホルンが女の子か。


「それじゃ質問しまーす、ビグルは何が得意?」


「得意? えーと走り回ることかな?」


 走り回ることが得意な事に含まれるかはさて置き、それぞれに得意なこと好きな事を聞いた。

 

 ビグル→運動 バル→工作 ビッケ→運動 ヘイグ→お絵描き 

 フラン→手芸 ホルン→人形遊び  ふむふむ


「それじゃその他の子たちはそれぞれ一緒に遊びたいお兄ちゃんお姉ちゃんの後ろに並んで~」


 その他の子達も何が始まったのか少し期待しながらそれぞれの遊びたい列にわーっと集まってきた。


 ビグルとビッケの後ろにはやはり男の子たちが並んだ。それぞれに意見を聞きながら六人を筆頭にグループに分けた。やはり手芸や人形遊びには女の子が多い。


「はい、それでは先頭の六人をグループのリーダーにします。それぞれ後ろをみて、自分のグループの子達を覚えてね~」


 年長さんはリーダーという責任を任されて少し嬉しそうに後ろを確認している。


「はい、それでは点呼をとります。グループのリーダーから順番に数を言ってみて~」


 おずおずと声を出しているので


「そんな小さな声じゃ点呼になりませんよ!」


 それぞれのグループが大きな声で数を数え出した。


「リーダーは点呼と言われたら自分のグループがちゃんと揃っているか確認すること!責任持ってグループをみること! わかりましたか?」


「うん」


「ビグルくん、返事はうんじゃなくて「はい」ね。それと全員大きな声で」


「「「 はい! 」」」


「はい、よくできました。リーダーはこれから院長先生に点呼と言われたら、すぐに点呼を取って全員確認したら報告してください」


「「「 はい 」」」


「はい、よろしい。それじゃそれぞれやってもらいたいことがあるのでちょっと待ってて~。――ルシアン院長、用意してもらいたい物があります。薄い板とちょっと厚めの板、書くもの、布の端切れと皮の端切れありますか?」


「えぇ、多少なら……」


「それじゃビグルは薄い板、バルは厚い板 ヘイグは書くもの、フランは皮の端切れ、ホルンは布の端切れ、院長先生に場所を聞いて探して持ってきてね」


 ラヴィアンがテキパキと指示を出すと、それぞれが院長先生や他の先生に続きわーわー言いながら走って行った。


「あ、あの、僕は……」


「あぁ、ビッケはグループと一緒に庭に来て」

 

 ビッケグループと庭に出て、指示を出してカリサにその場を頼み、室内に戻るとそれぞれがグループのメンバーと一緒に頼んだものを運んでいた。


「みんな用意できたかな? じゃあバルとビグルはこの厚い板を四角や三角、長方形に切ることができる?」


「うん、出来ると思う」 


「じゃあグループみんなで怪我しないように切ってね?四角を大目に作っておいてね。それから、ヘイグはその薄い板に好きな絵を書いてくれる?フランとホルンはこっちへ来て」


 フランとホルン達には布を丸めてから糸でぐるぐる巻き、一番外側に皮を被せ縫い付けることを教え大小いくつかの大きさの物を作るよう頼んだ。


 ラヴィアンの指示でグループがまとまりそれぞれが楽し気に行動している様をみて、ルシアン院長やルナディ一同唖然とみていた。 


「それではルナディ様、私達は子供たちが怪我しないよう見守りますね」


「え?あ、そうですわね」


 それぞれのグループに一人ずつ令嬢や侍女達が付いた。バルとビグルのグループは怪我が心配なのでルシアン院長に頼んだ。

 ラヴィアンはまた庭に出てビッケ達の様子を見つつ手伝った。それからビッケ達とホールへ戻った。


 作っている子供たち含め全員が何を作っているのかわからない。ただ今までやったことが無い事を言われ、初めての事に子供たちはキラキラわくわくしながら作業し大人たちも何ができ上がるのか、楽し気に見守っている。

 見守り組は時々子供たちに声をかけ、あーじゃないこーじゃないと段々と打ち解けてきている。


 そうこうしているうちにヘイグ達の絵が数枚完成したようだ。

 近くにいた管理をしている一人に板に書いた絵を固定する為の何か塗るものはないか聞き、臭いのする少し茶色い液体を分けてもらった。


「わー、かわいい絵が描けたねヘイグ」


「た、たいしたことないょ」 


 ちょっとてれながら答えてくれた。


「じゃあビッケこの絵の書いてある板にこの液体を塗ってくれる? それと、ルシアン院長、道具とか仕舞っている部屋を見せてもらえますか?」


「えぇ、ルルさん、案内してください」


 ルルさんに連れられて手の空いているヘイグ達と道具部屋へいくとボロボロの紙を見つけた。


「ルルさん、これもう使えませんよね?」


「ええ、もう何度も書いて削ってを繰り返してますのでもうそろそろ捨てようかと相談していたんですが紙は高いのでその……」


 商店や国で使い古された羊皮紙はある程度使った後、孤児院が貰い受け更に使うそうだ。

 使い古された紙を何枚かもらいホールに戻った。


「ヘイグ、この紙を真四角に切ってくれる?色々な大きさでね」


 その間グループを見て回る。


「バル、ビグルどお?」


「ふー、あともう少しかな?」


「じゃあ切り終わった物から角にやすりをかけてもらえる?これなら小さな子でも出来るからみんなも手伝ってね?――ヘイグ紙の切れ端頂戴~」


 貰ったくず紙を丸めながらフラン達の所へ行き紙を中心にもう一つ大き目の軽い物を作って貰う。

 

 四角に切れた紙を受け取り手の空いている小さな子を呼んだ。

 紙を丁寧に折り畳んでいく。その様子をキラキラした目で取り囲む小さな子達。その周りで大人たちやお嬢様方もこちらが気になるようでチラチラ見ている。


「何ができるかなぁ~?なんだろうね~?」


 きゃっきゃ言っている、かわいいね~。


「さぁ、でーきた」


「わぁ、鳥さんだ~!この丸いのはなぁに?」


「この鳥は鶴さんだよ~、この丸いのは風船~」


 そういいながら手の上でポンポン弾いて遊ぶと目をまん丸にしてわーっと歓声が上がる。


「はい、順番に遊んでね~。強く握るとベチャンコになるから気を付けてね」


「おにーちゃん、絵の上に塗り終わったよ」


 おにーちゃんときたかっ。――見てみるとまだ少し乾いてないので他の板で風を送り乾かすよう頼んだ。 周りが見てない隙にちょっとだけ温風を当て乾燥を早めておいた。 暫くして乾いた絵を手の空いているヘイグに、


「ヘイグ、この絵を描いた板を細かく切ってくれる?」


「えー!せっかく描いたのに切るのかよ~」


「そう、綺麗に細かく切ってね」


 ぶつぶつ言いながらも綺麗に図りながら細かく切り始めた。器用だね、孤児達。


 

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