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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
34/45

第32話 あの香りとの邂逅

本日はほぼ食べ物のお話しです。


 王国主催のパーティも滞りなく終焉を迎え、盛況?の元お開きとなった。

 ローズの面々は肉体的にも精神的にも結構な疲労を抱えていたので後始末は明日以降に繰り越し、家族ともまた、暫しの別れを告げ早々にローズガーデンへ戻った。



 一旦ホールへ集合した。


「皆さま、本日はお疲れ様でした。本日は皆さまのお蔭で大成功だったと思います。ありがとうございました」


「ラヴィアン様、何を水臭い。私達も今日まで本当に楽しかったのですわ、こちらこそありがとうございました」


「そうです、そうです。明日から何もする事が無くなると思うと、何かさみしいものがこみ上げてまいりますわね」


 皆も同意する様に首を縦に振っている。


「そうですか、それなら良かったんですが。何か無理やり巻き込んでしまったようで申し訳なく思っていました」


「まぁ、最初は何のことやらわけがわかりませんでしたけど、終ってみればあっという間の日々でしたし、私達も新たな世界に足を踏み入れたという気持ちですわ」


「何はともあれ、皆さんもお疲れでしょうから本日はゆっくりお休みください。侍女の方々も今までご苦労様でした」


 皆、満ち足りた顔で、笑顔で就寝の挨拶をしそれぞれの部屋へ分かれていった。

 今日を振り返ってみれば結局、一日中殆ど一緒につるんでいたようなものだった。パーティなのに他の殿方とのあれやこれやも無く、ちょっと悪かったかなぁ? まぁ、皆はまた来年あるし、ローズを出てからもパーティ等あるだろうから、そこは気にしないでおこう。


「お嬢様?いかがいたしました?」


「ああ、カリサもお疲れ様。さてと、戻りますか」


 湯あみをし早々に疲れた体を癒す、ベットに入った途端に意識が遠のいた。





    ~~~~~~~~~~~





  次の日


「おはよう~。よく寝た~」


「おはようございます、お嬢様」


 パーティ明けの本日はローズガーデン休養日。

 お疲れのお嬢様達に美味しい物でも作ろうかなぁ。

 朝は間にあわないので昼に何か作ろう。よ~し。


 起きてからのあれこれを済ませて早速厨房へ。


「おはようございます」


「おはようございます、ラヴィアン様。今日は早いですね?」


「お昼に何か作ろうと思ってね。朝食の用意は終わってますよね?サンディさん」


「ええ、後はお配りするだけです」


「ちょっと皆さんの手を借りたいのだけど」


「はい、わかりました」


 昼の用意ともなると一人では作り切れない。お手伝いしてくれる全員に作りながら作らせながらじゃないと間にあわないのだ。


「それじゃまず、冷えたバターを小さく切っていきます。それから――」


 小麦粉とバターと冷えた水をそれぞれの目の前に用意してもらう。バターをさいの目に切って粉の上に乗せナイフでザクザクと併せる。カードやスケッパーが無いので、ナイフで切りながら併せてもらう。


「バターの塊が多少残っている状態まで併せてください~」


「む、難しいですね」


「バターが溶けないように手早くお願いしまーす」


 ある程度バターが細かくなったら冷水を加え、最後は雑に手で四角く纏める。ラップが無いので入れ物に入れ冷蔵で暫く放置。その間アパレイユを作る。 定期的に内緒で補充しているポテテ、ピグのバラ肉の薄切り、ホウレン草の様な緑の野菜、きのこはマッシュルームの代わりに小さめの物を選んだ。

 玉ねぎをゆっくり炒め甘味を出し、その他の材料をなんちゃってコンソメとバターで炒める。ポテテは下ゆでしてからスライスしておく。卵とモウ乳と生クリームを併せ塩コショウで味付けしておく。

 カリサにはお馴染みのマヨネーズを作って貰う。えーっ、という顔をしていたがすでに手慣れた様子で出来上がっていた。ふふ。

 さて、さっき冷蔵していた生地を出し、めん棒で長方形に伸ばす三つ折り九十度回転させて伸ばす三つ折りを四~五回繰り返す、と、なめらかになってくるので最後に薄く伸ばす。その生地を焼き入れの為の器に敷きその中にポテテと肉野菜炒めとアパレイユを流す。上に薄くマヨネーズを掛ける。マヨネーズはチーズの代わりに掛けた。オーブンで二~三十分焼きあげる。


「いい匂いですね~、今日のも、ふふふ」


 厨房の皆は愉しみな様子で窯の周りで香りを嗅いでいる。


「毎度こんちには~、納品に来ました~」


 焼き入れを待っている間に納品の女性商人さんが来たようだ。小さな馬車から食材を皆で運び出す。ちょっとした好奇心で馬車まで覘きに行ってみた。するとどこからか懐かしい香りがした。


「あれ?この香りは?」


「え?香り?今日は香辛料はそんなに無いはずだけど……」


 女性商人さんが商品を見回す。


 ラヴィアンは突然馬車に乗り込みガサガサと品物の中を探し回った。

 皆はびっくりしているけど、そんなのかまうこっちゃない!これはきっとあれだっ!絶対あれだっ!! よく見ると馬車の隅っこに茶色い何かが転がっていた。摘んで香りを嗅いでみると……、これだっ!


「商人さん!これ!!」


「あぁ、それですね?全部置いてきたはずなのにまだ残ってましたか。すみませんねぇ、それ匂いがきついでしょう?何処からか入荷したんだけど、匂いがきつすぎて料理に合わないんで困ってたとこなんですよ、売れなくて」


「ナンデスッテーー!バカなの?バカじゃないの?何なの?シナモンの良さがわからないなんてっ!」


 ラヴィアンの突然の豹変にみんなはびっくり顔で見ている。


「え?え?シ、シナモン?名前は違うんですけど、も……」


 ラヴィアンの勢いにタジタジに答える商人。


「シナモン!絶対名前はシナモンにしてっ!違う名前メンドクサイからっ!」


「シ、シナモンですか?わ、わかりました」


 首を傾げながら異議を唱える商人に無理やり名前変更の同意をさせた。その辺は貴族の力を使っちゃう!


「あー、いい香り。商人さんこれ売ってください! サンディーさんこれ仕入れてください!! パン係のルースさんっ、パン生地できてます?」


 ラヴィアンの勢いに負けてそれぞれが首を縦に振る。


「サンディさん!これ粉にして~?」


「え?ええ、わかりました」



 厨房ではキッシュも無事焼き上がり、後は配膳するだけだ。

 続けて三時のおやつにも取り掛かる。当然、シナモンロールですよ。

 また、皆に手伝って貰う。

 一次発酵が済んだパン生地をなるべく長方形に伸ばす、パン生地は弾力があるので伸ばしきるのが結構大変なのだ。伸ばした生地の上に柔らかくしたバターを満遍なく塗る。その上に粉にしたシナモンをこれでもかっという位振りかける。砂糖も満遍なく振りかけたら生地をクルクルと巻いていく。巻き終ったら輪切りにして天板に並べる。ぐるぐるの渦巻きが並んでいる様子はなんか可愛い。個別の紙のケースなんか無いから、ちぎりパンの様に焼くしかない。

 並べたらそのまま二次発酵させる。その間に砂糖をなるべく細かく粉状にしてもらい、モウ乳で溶きアイシングができる状態にする。


 キッシュもシナモンロールも大量に作ったので王宮の方々へもお裾分けできるかな? 昨日手伝って貰ったルシファさんとサウザーさんにもお礼にあげようかな。


 シナモンロールを作っている間に昼食になり、侍女達が不思議な食べ物という顔つきでキッシュを運んでいった。

 侍女達には、今日はお菓子を用意するので、昼を過ぎた中頃辺りにダイニングでお茶会をすると伝言をした。

 ひと段落したので厨房の面々とキッシュを頂く。ダイニングで感想を聞きながら食べていると侍女達がお替りの為、舞い戻ってきた。ふふふ、今日は沢山用意してあるよ~。

 キッシュを食べ終わったら、早速シナモンロールの焼きに入る。丁度いい具合に二次発酵も済んだ。大量に仕込んだので焼くのも一苦労だ。――でも、でも!シナモンロールですよ!焼いている時のシナモンの香りがたまらない!

 何回かに分けて焼き、アイシングもバッチリかけた。

 王宮用にキッシュとシナモンロールのセットを数人分用意し、ルナディ様へ伝言を頼んだ。


 暫くすると厨房にルナディ様が顔を出した。


「ラヴィアン様、バーンズさんが受け取りに来るそうですので通用口でお待ちください」


「わかりました~」


 ローズと王宮の通用口に向かうとルシファさんとサウザーさんを伴ったバーンズさんが待っていた。その後ろからひょっこり顔を出したシルヴァーナ王女様。


「ラヴィ、来ちゃった。ウフ♪」


「シル様、いらっしゃいませ。今日はこれですよ」


 用意したキッシュとシナモンロールを見せて説明、王女様はすぐにでも食べたそうな顔つきで


「わぁっ、この渦巻きかわいい~ウフフ」


「ラヴィアン様、このパンに使われているこの香りは?」


 バーンズさんは流石に材料に興味を示した。そんなことだろうと原型を持ってきてある。


「これです。これを粉にして巻いて焼き上げてます。シナモンといいます」


「あっ、これは……。随分前に商人が持ってきた物ですね。食事の材料として何品か試作してみたんですが、香りが強すぎて併せ方が解らず結局使えないという結論に、――そうですか、菓子に合うんですね?」


「ええ、私はこれが大好きです。食べてみてくださいね。それから、ルシファさんとサウザーさんにも昨日のお礼に用意しましたので、どうぞ」


 二人共ちょっとびっくりしたあと喜ばれた。


 シル王女はこのままローズに残ってみんなのお茶会に参加したいと訴えたが、王様達の許可を貰ってない為ルナディ様に諭され渋々戻って行った。



 さて、おやつの時間です。令嬢達がお菓子が出てくるのをソワソワ待っている。やっぱりどこの世界でも、女、子供は甘い菓子が好きらしい。


「お待たせしました~。本日はシナモンロールでーす」


 渦巻きのパンなんて見たことも聞いたこともないだろうなぁ。


「さぁ、どうぞ召し上がれ」


 嬉々として食べ始める令嬢達。端の方では侍女達が纏まって同じように楽しそうに食べている。


「ラ、ラヴィアン様!この香りはっこの香りはっ!!」


「わー、ヘレナ様、落ち着いて落ち着いて。どうどう」


「は、はぃ~。ふー、ふー」


「ラヴィアン様、正直申し上げて、至福ですわ」


 本日は素直なイザベラ様が降臨のようです。


「皆様、沢山ありますので、倒れない程度に召し上がってくださいね~」


 本日のローズガーデンはシナモンの香りと令嬢方の笑顔の甘い香りが満ち溢れていた。




 

いよいよ寒くなってまいりました。

夏よりは冬の方が好きです。

真冬のふとんの中が一番好きです。


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