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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
32/45

第30話 『王宮主催パーティ』その5 ローズ所属令嬢総勢十五名、参上!

 フロアはザワザワしていた。これから何が始まるのか。何が出てくるのか。ヒソヒソ話している。



 突然、ビーーー!!と、音が鳴り、会場の声が止む。

 (懐かしいなぁ、この音。映画の始まりの合図。記憶の音を頑張って作ったんだよね~フフ)


 一人の令嬢(青扇)がステージに上がり、一度礼をしてから魔石を片手に挨拶を始める。


「両陛下、並びに皆様方、今宵は私共ローズガーデン所属子女十五名による出し物、【演劇】で、架空の物語を演じたいと思います。短い刻ですが、どうぞ最後までお楽しみくださいませ」


[特設の舞台の幕が上がる。花々や草を描いた背景、楽しげな音楽を令嬢三人が奏でる]

 

 会場は何が始まるのか、王含め皆興味深々でその成り行きを見つめる。

 

 紙が高いので物語が本として広まらず、当然演劇など無い。吟遊詩人が語り部としている位だ。突然、演じると言われてもどういう物なのか、理解できていないのだ。


[ここで声を拡張させる魔石を使い一人の令嬢(ラー博)がステージの横奥に立ちナレーションを始める。会場全体に声が広がる。ナレーションに併せて演者が動く]




 その日別荘に避暑に来ていた二家の家族。たまたま同時期に来ていた片方をランディーヌ家、片方はアンビシャス家。

 

 別荘の裏には草原が広がっていた。花々が咲き誇り風に揺れ辺り一面に様々な香りを解き放っていた。

 

 そこへ一人ランディーヌ家令嬢ジュリアイザベラが歩いてきた。時少し遅れてアンビシャス家子息ロミリオラヴィアンも花を愛でる為に歩いてきた。

 偶然に出会った二人だった。 二人とも一目で恋に落ちた。二人の家は以前より確執があり、その為今まで二人は出会えなかったのである。別荘から引き上げるまでの日々、毎日毎日二人は一緒に過ごした。家族には内緒で。



「愛しのロミリオ、離れたくないわ。でも明日ここを立たなければならないの」


「ああ、ジュリア、暫しの辛抱だよ。また逢えるよ。すぐに逢える」


「ええ、すぐに。ああ、そうだわ、あの丘知っているかしら?フランの丘。そこで毎日待っているわ」


「解った。必ず行くよ」


 二人は再開を約束し避暑地を後にした。


[ステージ上を半分に分け、両家の話し合いの場面を表す]


 二人の関係はすぐに両家にばれた。当然婚姻は認められず、両家はそれぞれ別の相手を見つけてきてしまう。

 二人は嘆き悲しみ、それならばと自暴自棄になったロミリオは戦地に赴く隊へ自ら志願してしまう。ジュリアの方はその生涯を神に捧げるべく修道の道を選ぶと力説する。


 [アンビシャス家]


「父上、母上。報告があります。本日付けで第二師団への転属願いが受理されました」


「ロミリオ!なんてことだ……。なぜだ?ロミリオっ」


「父上、私はジュリア以外の人との結婚は考えられません。ジュリアが居なければ生きていく意味もない!」


「「ああ……、ロミリオ」」



[ランディーヌ家]


「明日は相手方との顔合わせだ。用意はできているな?ジュリア」


「いいえ、出来ておりません。私はロミリオ以外の人と結婚するつもりはありません。どうしても連れて行くというのであれば、どうぞ、引きずって行ってください。私は決して動きませんから」


「アンビシャス家も相手方と顔合わせを行うと聞いた。お前は一人残されてもいいのか?」


「ええ、構いません。修道の身となり命ある限りロミリオの幸せを祈り続けます」


 両家は二人の愛の深さと覚悟を知り、婚姻を許すことにした。しかし、晴れて付き合う事を許された二人に重たい影が落ちる。

 

[フランの丘で寄り添う二人]


「ジュリア、隣国との戦争が始まってしまった。僕は行かなければならない」


「ロミリオ!いやよ!離れたくない!やっと結婚が許されたというのに」


「僕は死なない。必ず戻ってくると誓うよ。だからジュリア泣かないで?戻ってきたらすぐに結婚しよう。僕の妻になってくれるかい?」


「ロミリオ、ええ、ええ、私を妻にしてください。必ず、必ず戻ってきてね、きっとよ」


別れの日いつもの丘で二人は誓い合う。必ずここへ戻ってくることを。





 そして戦争が始まって2年以上の月日が流れた。

 両国は疲弊し戦争が続けられなくなり協定を結び戦争は終結した。




 ジュリアは一人丘に佇む。


「ロミリオ、いつ戻ってくるの?戦争はもうとっくに終わっているのに……、ロミリオ」


 戦争が終わってもロミリオは帰ってこなかった。




 場所変わってここは隣国の林の中、ロミリオは終戦間近に大怪我を負い命からがら彷徨い、川辺に着いた時に意識を失った。そこへ薬草を摘みに来た一人の娘が川辺で大怪我を負ったロミリオを見つける。娘の家は街の医院だった。

 ロミリオは一月ほど生死を彷徨い、気が付いた時には大怪我を負ったせいで少し記憶を失っていた。自分の名前、自分の国位しか覚えていない状態だった。

医院の娘はマリア(取説)と言った。皆に優しく明るく気立てのいい娘だった。ロミリオを甲斐甲斐しく看護する。目覚めてからすでに三月の歳月が過ぎていた。




「ロミリオ、たまには外へ出てみましょう」


「ああ、そうだな」


 マリアはロミリオに肩を貸しながら裏の丘へゆっくりと登った。丘からみる風景はとても美しかった。


「ロミリオ、どう?ここは素晴らしい景色でしょう?」


「ああ……、ああ本当だ。マリアありがとう」


 ロミリオは丘から見る風景に忘れていた記憶を取り戻していた。そして涙する。


「ジュリア、愛しのジュリア。なぜ僕は忘れてしまったんだ。許してくれジュリア」



 それから病室へ戻りすぐに愛する人へ手紙を書いた。


「マリア、この手紙を出してくれないか?」


「ええ、わかったわロミリオ。すぐに出してくるわね」


 マリアはいつしかロミリオを愛してしまっていた。部屋を出たマリアは手紙の宛名にジュリアと書かれていることに嫉妬しその手紙を燃やしてしまう――。



 ロミリオの体調はどんどん回復していき、事あるごとに手紙を書いた。そのたびマリアは手紙を燃やしていた。そして


「マリア、今まで本当にありがとう。そろそろ体も動かせるようになったので国に戻ろうと思う。自国に戻ったらできる限りお礼をする」


「ロミリオ――、いやよ!このまま一緒にここに居て頂戴!」


「マリア、僕には結婚を約束した相手がいる。申し訳ないけど君の気持に答えることはできない。世話になったことは感謝している。本当にありがとう、マリア」


「あなたの国では……、あなたの生死は不明のままなのよ! ジュリアという人もきっとすでに誰かと結婚しているわ!だからこのままここに居て頂戴!」


「――なんだって?手紙をだして貰っただろう!?」


「あんな手紙!――燃やしたわ!!」


「マリア……、なんてことを。 ああジュリア!なんで僕は記憶を失ってしまったんだっ。ジュリアにずっとずっと心配を掛け続けていたなんて、ジュリア、ジュリア、ああ」


「ロミリオ、私じゃだめなの?なぜ私じゃだめなの?」


「僕の心にはジュリアしかいない」


 部屋を出るロミリオ。残されたマリアは泣き崩れる。

 夜になり、世話になった人々に感謝と、自分の身分を明かし、この恩は必ず返すと書置きをして静かに医院を出た。


 次の日居なくなったロミリオの置手紙を読んで、ロミリオが貴族だったことを知る。初めて明かされた事実に、平民である自分が貴族に対してしてはならないことをしてしまった事、いや身分に関係なく、人として、してはならない事をしてしまったと、初めてその罪深さに気が付く。


「ロミリオ、ごめんなさい…ごめんなさい……」 泣き崩れるマリア



 ロミリオが戦争に出てからすでに三年近く過ぎ、その間ジュリアは祈り続けていた。

 あまりに憔悴したジュリアを心配した両親はロミリオの事を忘れさせる為の縁談を進める。両家の話はどんどん進みジュリアの拒否も受け入れず婚姻の日取りまで決まってしまった。


 ロミリオは隣国からの長い道程を急いだ。雨風に晒されながらボロボロになり一月かけて自国の地を踏みしめる。そしてフランの丘を目指す。

 

 折しもその日はジュリアの結婚式の当日だった。

 ジュリアの式は午後から執り行われる。早朝、ジュリアは純白のドレスに身を包みフランの丘に一人来ていた。


「ロミリオ…。ロミリオ…。最後に一目でも逢いたかった。あなたに見せたかったこのドレス。 このまま着て逝くわね。もしあなたが先に逝っていたらすぐに逢えるわね。地獄に落ちたとしても探しにきてくれるわよね?ロミリオ。あなたと一緒なら地獄に落ちても平気だわ」


 そして地面に座り木に寄りかかる。手持ちの袋から小さな瓶を取りだす。

 

 瓶の液体を一気にあおる!

 


 意識が薄れていく中、足音が聞こえてきた。


「ああ、神様。きっと彼だわ。最後に逢わせてくださるのね」


 ロミリオは丘に急いだ。登り切る頃、視界に映ったのは純白のドレスに身を包んだジュリアだった。


「ジュリアああああ」


「ああ、ロミリオ」


「ジュリア、ジュリア逢いたかった」


 近寄り抱きすくめる。


「ロミリオ、やっと逢えたわ。――ずっと待っていたの。 見て?このドレス、あなたの為に着たのよ? ふふ、あなたボロボロじゃないの」


 ジュリアが力なく答える。


「ジュリア、待たせてごめん」


「ううん、いいの。 ……でも、ごめんなさいロミリオ、先に逝ってるわ。あなたはゆっくり来てね。今度は絶対に、絶対に、最後まで待ってるから。――ああ、あなたの顔が霞んできたわ……、でも、大丈夫よ、忘れないから……」


「ジュ、ジュリア!どうしたんだ!ジュリア。先に逝くな!待ってくれジュリア!」


 ロミリオの顔を包んでいたジュリアの手が落ちる。


「ロ ミ リ・・・・ォ」


「ジュリアああああああ」


 ひとしきり泣いたロミリオも木に寄りかかる。歩けるようになったとはいえ重傷を負った体は内臓を蝕んでいた。その体で一月の強行軍をしてきたのだ。ロミリオもまた限界だった。そしてジュリアの手を握る。


「ジュリア、僕も目の前が暗くなってきたよ。フフ、こちらでゆっくりはできないようだよ。すぐに君に追いつくから、もうすぐ追いつくから、待っててジュリア。もう絶対に離さないよ。ジュリ・・ァ」


 ジュリアを見ていたロミリオの頭がカクンと揺れる。


 [会場からは小さな悲鳴があがる]


 フランの丘の大きな木の根元に、手を繋ぎ寄り添う二人の顔は幸せそうに微笑んでいた。


    ――暗転―― 


 会場はシーンと静まり返っている。

 皆、今までの物語を反芻しているかのように呆然としている。

 劇中の愛しあう二人が死んでしまったことが改めて心に響く。

 そして、くぐもる嗚咽、鼻をすする音、それらの音が段々大きくなり女性達の殆どが泣き始めていた。



(暫くするとステージが明るく照らされる。

 ロミリオとジュリアは白い一枚布の衣装に替わり、その回りには天使を模した人形に棒を付けて、ひらひらと飛んでいる天使を表す。天国の情景である。音楽が流れだした。二人はピアノの前に歩を進める)


 ここでロミリオ役のラヴィアンが歌いだす。歌は”愛の〇歌” 情熱的な愛の歌である。徐々に徐々にローズの面々(侍女を含め)が増えていく。最後は令嬢十五名+侍女三十五名の総勢四十五名の大合唱となり歌いあげる。歌が終わり全員で礼をする。


  最後の語り


 ――この物語を悲劇とするか、幸せな物語とするかは、皆様のお心のままに――


 そして会場は、もう割れんばかりの拍手拍手。拍手喝采だった。


 


  

 キャスト、スタッフ


 ロミリオ・・・・・・ラヴィアン

 ジュリア・・・・・・イザベラ

 マリア‥‥‥‥取説

 ロミリオの父母・・・令嬢その1、その2

 ジュリアの父母・・・令嬢その3、その4

 

 語り・・・・・・・・・ラー博

 効果音・・・・・・・青扇、令嬢その5

 魔石操作(照明、風等)・・・ヘレナ、令嬢その6

 ピアノ演奏・・・赤扇(BGM含む)

 BGM演奏・・・令嬢その7、その8


 合唱・・・ローズガーデン所属令嬢十五名+侍女三十五名、総勢四十五名


 原案・演出・・・ラヴィアン

 脚本・・・ラー博その他数名の令嬢

 衣装・小道具・・・侍女達

 大道具・・・騎士’s(ルシファー、サウザー)


 

短い恋愛劇でしたけど、なんか疲れますた。なぜだ。

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