第3話 突撃!となりのっ ゲフン ローズの厨房
やっと厨房へ
部屋を出て渡り廊下に差し掛かったラヴィアンは少し奥まったところに中庭を発見した。
へぇ~、綺麗な中庭はっけーん。あとで行ってみよう。
渡り廊下を渡った先の部屋からガヤガヤと声が聞こえる。
たぶんあそこが厨房かなぁ?食べ物の匂いもただよってるし。
トントントンとノックをしてドアを開けたそこには、数十人の食事係の女性達が厨房の中で忙しく動き回っていた。
手の空いていそうな人をみつけ
「すみませーん、もしもーし」 あれ?もしもしって言葉はおかしいか…?
「ん?―はい?」
「あ、どうも。忙しそうですね」
「いえ、丁度落ち着いたところですが……はて?どちら様でしょうか?」
「あ、本日からお世話になります。ラヴィアン・サリスフォードと申します。どうぞよろしく」
ぺこっと頭を下げて挨拶をしたら
「え?! サリスフォード辺境伯のお嬢様ですか? わ、私などに頭を下げないでくださいませ!」
「あ、いえいえ、食事は大切ですからご挨拶に参りました」
「いやいやいや、こんな所に挨拶など不要でございます!」
「あ…そうなんですか。……おじゃまでしたか? 」
「いえいえいえいえ、めっそうもない!」
「はぁ、それでですね、今少しお時間よろしいですか?」
「はい、なんでございましょう?」
「今は忙しそうですので落ち着いた頃に食材とかを見てみたいのですが……」
「しょ、食材ですか?」
「ええ、なんといいますか、我が領は辺境なもので王都の食材にどんなものがあるのかと……」
「はぁ……」
「あっ、無理にとは申しませんので」
「いえいえいえいえ!だ、大丈夫ですが……えーと、それでは、――明日の食材の届く時間にでもお越しいただければ……、明日の昼食後でよろしいですか?」
「 大丈夫です 」
「はい。そ、それでこのことはルナディ様に許可はとられましたか?」
「え? 許可が必要なのですか?」
「まぁ、必要かどうか……今までこのような見学は無かったもので……」
「なるほど……。」
「あっ、それでしたら後ほどルナディ様に会うのでお話ししておきますが?」
「それは助かります~! ――それでは明日の昼食後に! あ、それとですね、そこの中庭には誰でも入れるのでしょうか?」
「大丈夫だと思いますよ?たまにお嬢様方をお見掛けいたしますので」
「そうですか、それでは行ってみます」
ラヴィアンの去った厨房では
「か、変わったお嬢様ですね~料理長」
「そ、そうね、びっくりしたわ……それに侍女も連れずに一人でなんて……」
渡り廊下から降りて少し進むと腰位の塀に囲まれた中庭に出た。
真ん中に小さな池のような物があり、周りには色とりどりの花が咲いている。
色々な花の中に欲しかった花を見つけた。
ラヴィアンはほくそ笑む。
塀のそばには庭園を囲む様に小さな木が植えられており薔薇のような花が咲いていた。
ところどころに座れる位の台座があるので腰かけてほっとした。
日本にいる時には花とか特に興味はなかったけどなかなか落ち着くね、ここ。
てゆうか、やっぱ贅沢だよね貴族って。平民の税で賄っているのに。
この建物といい庭といい何様なのよ?――いや、貴族様だけど……。
日本だったらめちゃたたかれるよね?こんな贅沢な施設。
しかーし、物は綺麗に整えられるのになぜ食事に気を使わない!この世界はっ。
まぁ~、考えてみればイギ○スとか食事に気を使わないとこもあったなぁ。
でも、美食国家日本に居た私には耐えられないわけよこの食生活!
世界遺産。ざ、和食! ‟うまみ”という第五の味覚を世界に認めさせた、日本!
家でも色々作りたかったけどなぁ、いきなり八歳児が見も知らぬ食事を作りだすのはおかしすぎるしねぇ、耐えに耐えたさ!四年間!
すこーしは手を出しちゃったけど、ふふ、夢で見たとかなんとかごまかして。
みんな目を白黒させてたなぁ。料理すきだったしぃ~。
ここでなんとか厨房の人と仲良くなって食材探すんだ、ふふん。
自分の部屋にもキッチンあるしね!
家ではなかなかナイフを持たせて貰えなかったし。
そもそも八歳児の体力のないことないこと。
怪我するとカリサが怒られるしね~。
隠れて腕立てとか腹筋とかがんばった!
握力も無いからナイフ持っても上手く使えなかったし。
なんですか?この体。使えねぇーーーと愕然としたもんね。
四年間とりあえず鍛えた。ナイフは隠れて手に慣らした。
ここの残りの食材もらえたらラッキー♪ あ、名前聞くの忘れてた……。
と、いろいろ物思いにふけっていたら突然声をかけられた。
「あら、先客がいらしたのね。失礼、どちら様かしら?お見掛けしない方ね」
声のする方へ振り返ると侍女三人を伴ったきらびやかなお嬢様が近づいて来た。
「え? あ!これは失礼しました。本日こちらへ参りましたラヴィアン・サリスフォードです」
「あら、サリスフォード辺境伯の?」
「ええ、お初にお目にかかります」
「私はイザベラ・バイロンと申します。バイロン侯爵家の次女でございます」
侯爵家!なんだかめんどくさそーなのがきた! 早々に退散しよう。そうしよう。
「私はもう戻りますので、どうぞお寛ぎくださいませ」
「あら、少しお話でもと思ったのだけれど」
「いえいえ、侯爵令嬢のお邪魔はいたしませんわ、それでは」
そそくさと退散した
「サリスフォード辺境伯にご令嬢がいらしたのね……」
そう今までにも貴族の集まりに参加していれば顔くらいは知っていたかもしれないがラヴィアンはどのような場所にも参加したがらなかった。
貴族めんどくさーーーー 的な理由で。
病欠……病欠……病欠。 ――表向きは。
いつしか貴族の間でサリスフォード家令嬢は存在すらも忘れさられていたのだ。
中身26+○年すぎてんのよ 子供と話があう訳ないわな!
そもそも貴族の会話についていけない! どうでもいいという意味で。
そんなこんなで部屋へ戻り少しくつろいでいると食事とのことで、食事をする為の大きなフロアに案内された。
厨房側の建物のすぐ隣にあるダイニングフロアと説明された中に入ると、少し大き目のテーブルが並び椅子が周りを囲む形で配置されていた。 どうやらテーブルの場所も決まっているようで部屋と同じように端に案内された。
朝と昼は侍女が食事を取りに行き部屋で食事ができるらしい。
三十組ほどあるテーブルに間を開けてそれぞれが席に着いていた。
自分達の侍女が給仕係となり食事を運ぶ決まりのようだ。
見回してみるとそれぞれがまぁ煌びやかに着飾っている。
ごくろうなことねー。めんどくさくないのかな?
そこで周りの視線にハタと気づく。
――あの方はどなたかしら。
――初めて見る顔ね。
――どこのご令嬢? 地味な方ね。
コソコソコソコソ侍女と話している。
聞こえてますよー。地味って失礼ね。わざとですよ わ ざ と!ゴテゴテが嫌いなだけ!
あー先が思いやられるかも。出来ればこんなとこ来たくはなかったけど、この世界の王都と呼ばれるとこなら食材は揃ってるだろうし、この世界を知るには歴史書なんかも家よりいっぱいあるだろうし、魔力とか魔法についても知らないことがあるかもしれないし……。
最短の半年で帰りたいなぁ。
パンパン! と、手のたたく音に全員が注目した。ルナディ管理官だった。
「みなさまごきげんよう。明日から皆さまと一緒に学ばれる方がいらっしゃいましたので簡単にご紹介いたしますわ。明日正式にご挨拶をしていただきますが、サリスフォード辺境伯ご令嬢のラヴィアン様です」
ルナディ様の視線がこちらを向き視線で挨拶を促された気がしたので
「皆さまお初にお目にかかります。ラヴィアン・サリスフォードでございます。明日からどうぞ宜しくお願いいたします」
まぁ、今までほとんどどこにもでてないからなぁ。
それぞれの反応が面白い。内心でニヤニヤした。
え? 辺境伯にご令嬢がいらしたの? 的な。
大体十歳位から親について色々な催しに参加するようだ。
両親にも兄たちにも極力私のことは話さないでほしいと頼んでいた。
なぜって? 貴族なんてたぶんめんどくさい輩だ。そんなものに極力関わり合いになりたくなかったから。
そうは言っても貴族のご令嬢の婚姻は大変重要な事柄だ。
一般に令嬢持ちの各貴族達は自分達の娘の売り込みに力を注ぐ。らしい。
その点うちの家族は超のつくほど私に過保護で本人の意にそぐわない不幸な結婚など以ての外だ!と、言ってくれている。が、でもそうすると誰にも逢わずに結婚もできないかもしれないけど?と、ボソっと言ってみたら、それならそれでここにずっと居ればいいと言われた。
それは万々歳なんだけど貴族なのにそれでいいのか?と反対に心配になった。
うちの両親金儲けに無頓着だからなぁ。政略結婚とか言われずに助かるけど。
日本にいた時も恋愛にほとんど興味もなく、押し切られる形で少し付き合ったこともあるけど、中身を知ったら自然と離れていったしなぁ……。(遠い目)
あれ?私って可哀想な人間の部類? いやいやいや。
なんにせよ辺境伯の領地は過去も現在も裕福ではない。領地でやりたいことがいっぱいある(主に自分が快適に暮らしたい為に) 現代知識を持ってここに転生されたからには何か意味があるような気がするけど、自分が選ばれた理由もこの世界に飛ばされた理由もまったくもって不明だ。
そしてこの先、日本に帰れないとも言い切れない。突然日本に戻ってしまう可能性もあるので恋愛や結婚は考えられない。その辺は恋愛体質じゃない自分に安堵した。
ぼーっと考えていたら
「お嬢様、お嬢様」
おっと! いけない。またぼーっと考えてた。
気が付けばカリサが運んでくれた夕食が並んでいた。
数々の野菜の浮いたスープ、焼いただけと思われる肉(何の肉だろう?)サラダとパンは好きなだけ食べれるようだ。
早速食べてみることにした。
感想としてはまぁ思った通りの味である。スープもコンソメみたいな物ではなく、塩味だけの野菜スープ、塩で味付けられただけの肉、恐らく王都にもバターとかないんだろうなぁ……?たぶん。
パンも硬いし、これは明日確認してみよう。
お腹が膨れるだけの味気ない食事をさっさと終えて周りをうかがってみれば、お上品に食べているのでまだ半分位食べ終えたというペースだ。
もう部屋に戻りたいんだけどなぁ、お茶も飲みたいし。
「カリサ、カリサ、ちょっとルナディ様に戻っていいか確認してきてくれる?」
「かしこまりました」
遠くのテーブルで食事をとっていた管理官とコソコソ話したあと戻ってきたカリサが、
「かまわないそうですよ、お嬢様」
「それじゃカリサ、片付けたら戻りましょう」
カリサに食器類をかたずけて貰いそそくさとダイニングフロアを後にした。
「はぁ~、なんか精神的に疲れた…かも」
カリサに入れてもらった紅茶らしき飲み物で全身を弛緩させてソファで寛ぐ。
「今日は早めに湯あみを済ませてお休みになられますか?」
「そうね。馬車に揺られて体も疲れたし、早々に休むわ」
精神的にも体も疲れていたらしい。ベットに横になったとたん意識が無くなった。
ぐがー
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