第24話 王宮、個人厨房にて
昼食前に出来上がったコロッケサンドを5~6個籠に入れ管理官室に向かった。
「失礼します。ルナディ様いらっしゃいますか?」
「ラヴィアン様、どうしました?」
「ええ、この籠の物をバーンズさんへ届けて頂きたいのですが」
籠の中にはメモも忍ばせてある。
ポテテで作ったコロッケサンドで、許可がでれば王様への昼食の一つに加えてほしい旨と、昼食後パンの作り方を教えにそちらへ向かいたい、という内容を綴った。
「これは?」
「ポテテで作った食べ物です」
あ、ここでふと気が付いた。何もわざわざパンに挟まなくてもよかったジャン。なぜわざわざ手間のかかることを……。
「わかりましたわ。お預かりします。ところでこの食べ物は……」
「ああ、今日のローズで出される昼食です。それと午後バーンズさんの個人厨房へ行く許可を頂きたいのですが」
「わかりました。宰相様にもお知らせしておきますわ」
「よろしくお願いします」
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午後、難なく許可が出てバーンズさんの厨房へきた。手持ちはモウ乳、酵母、バター。
生地を作りながら分量と質感を確かめてもらう。
バーンズさんは真剣な顔でメモを取りつつ聞いてくれた。羊皮紙使ってるよ、贅沢なメモだね。
生地を発酵させている間に、今度はバーンズさんが一人で作ってみるといい、所々気が付いた点を注意しながら生地を作っていった。
発酵待ちの間に酵母の作り方や注意点を伝える。
「いや、しかしあのポテテで作られたコロッケサンド?という物も素晴らしく美味でしたなぁ」
「そうですか?良かったです。王様には出されたのですか?」
「ええ、ええ、それはもう凄い勢いで召し上がっておられましたよ、ハハハ」
「そうですか。でも、コロッケはパンに挟まずそのままでもよかった気がします」
「そうですか?あれはあれで片手で食せるので執務が忙しい時には重宝すると思いますよ?陛下もそのようにおっしゃっていましたし」
「ああ、それもそうですね。まぁ、ポテテは栽培すれば皆さん食べられますのでコロッケのレシピもお教えできます。バーンズさん、王宮のどこかでポテテの栽培はできます?」
「香草などを少し植えていますので、すぐにでも植えたいのですが、許可がもらえませんと」
あれ、まずい。許可なく栽培して許可なくローズで使っちゃったよ。しかもサンディさん達どこからポテテを持ってきたのか不思議に思わなかったのかな?ハハ あー失敗した。後で何とかごまかさないと……。
そうこうしている内に2次発酵もすんで、照り付けも忘れずに焼いていく。
何となく色々な形にしてみた。上に砂糖をかけた物やら、干しぶどうを混ぜた物、ジャムも中に入れてみた。ジャムについては以前、簡単なので口頭で作り方を教えていた。
一番下の王女様は七歳だそうだ。動物の顔やら花の形やらを作って王女様用にとバーンズさんに見せたら、大喜び。絶対喜びますだって。
「いやー、沢山焼けましたね~。ちょっと遊び過ぎたかなぁ?フフ」
「いえいえ、本日の軽食と夕食に丁度いい量ですよ。ラヴィアン様ありがとうございます」
そしてローズへ戻ろうとドアに近づいたら、ドアの前が何やらザワザワしている?顔を出すのもまずい気がしたのでバーンズさんに確認して貰ったら
「ラヴィアン様、何やら香りに釣られて周りに沢山の人が集まってしまってます!」
ええ~、困ったな。ドア開けるともっと香りが漏れるよなぁ。
困っているとドアがノックされた。バーンズさんが覗くと宰相様が顔を出し、横に隠れていた私を見つけると納得した顔でドアを閉めた。集まって来た使用人達や騎士達にそれぞれの仕事に戻るよう諫め、その場から下がらせた。宰相様が厨房へ入って来る。
「ごきげんようラヴィアン殿。いやしかしこの香りでは人が集まってしまいますよ、ハハハ」
「すみません宰相様。調子に乗って色々作ってしまいまして――」
「いえいえ、ところであのコロッケサンドも大変美味でした。あれもポテテですか?いやこの前の料理も今日のコロッケも素晴らしいですね。陛下とも話していたんですが、早々に栽培しようということになりそうですよ」
「ああ、そうなんですか。それは良かったです」 ちょっと棒読みになってしまった。
むーん、そりゃそうか~、まぁしょうがないよね。ポテテは栽培も簡単そうだし全体に広まるのも時間の問題かも。サリスフォード特産にはできなかったけど。でも、連作障害あるだろうから回避するには持ち回りで栽培がいいと思うなぁ。
「ところで、あのポテテを運んで来た商人は何か罰を与えられたんですか?」
「ああ、いえ、毒を含むということも知らなかったというのは本当でしょう。自分も中毒になったくらいですから。陛下の恩情で特にお咎めは無しです。まぁ、商人としての売り上げも無く、しかもこの国にポテテを運んでくれましたのでね。その辺も鑑みた采配ではないでしょうか」
ゴトゴト ん? 全員でドアの方へ視線を向けた。
「シルヴァーナ王女様!」
宰相様がびっくりした声で、小さく開いたドアから顔を出している人形の様な少女に言った。
緩くウエーブのかかった金髪の髪に、クリクリとした青い瞳、頭に付けたリボンとドレスは薄い水色でフリフリ、とても似合っていて、人形が動いているのかと錯覚してしまう程かわいい。
「エド、その人はだれ?凄くいい香りなんだけど何作ってるの?」
「初めまして王女様、私はラヴィアンです。この香りはパンですよ」
「え?パン?うそ、パンはこんな香りしない」
ラヴィアンは宰相を見てどうしようか目で伺った。宰相が頷いたので
「食べてみますか?王女様用に色々作ったんですよ」
王女様はパタパタと中へ入っくる。後ろから王女様付の侍女が一緒に入ってこようとして、宰相に止められ追い出された。ちゃんと秘密を守ってくれたんだ。やるね、宰相様!
「シルヴァーナ王女様、それではお部屋へお持ちしますのでお待ちくださいね」宰相が言うと
「えー、ここで食べてもいいよ?」
いやいや、王女様が厨房でパンにかぶりつくのはどうかと思うよ?とか思っていたら更にドアから見覚えのある顔がお出ましになったよ。
「陛下……」
呆れ顔の宰相様がつぶやく。
「いや、何かシルがここに入るのが見えたのでな」
いや、違うよね?香りに釣られて来たよね?という疑いの目を向けてしまった。不敬罪、不敬罪、危ない危ない。
「ごきげん麗しゅう。王様」
「よいよい。そのように堅苦しい挨拶などいらぬ、ラヴィアン嬢。それよりも、先程のコロッケサンド、素晴らしく美味であったぞ。あれがポテテか?なるほど良い食材であるな」
「父様、コロッケサンドって?」
「あー、それは今度な?シル。してこの香りはパンだな?」
「ええ、陛下。お部屋へお持ちいたしますので」
宰相がなんとか部屋で食べさせようと頑張っている。が、目ざとく焼きたての色々なパンを見つけて近づいていってしまった。もう、いいんジャネ?ここで食べて貰って、パンだし。
「王女様、これは何に見えますか?」
「えーと、お花!」
「そうです。はい、どうぞ」 花パンにはジャムを入れた。
「それぞれ説明しますね。これは干しぶどうを入れて上に砂糖を振りかけてます。こちらのはバターと砂糖です。こちらはジャムが入っています」
宰相様も説明を聞き物欲しそうな目になってる。王女様は躊躇なく花パンにかぶりついている。いや、それ普通「お花を食べるのかわいそう」とか「可愛いから食べるの勿体ない」とか言うところじゃないの?容赦ないね、この王女様。それ細工に手間かかってんだぞぉ?くそぉ。
王様はバターと砂糖のやつにしたらしい。
「おいしいいいいいいい!この赤いのおいしいぃぃ!!パンも何かおいしいいいい!」
そうでしょう、そうでしょう、私も初めて菓子パンを食べた時には驚いたもんよ。
てか、王女さま。はっちゃけすぎとちゃいますか?
「菓子のようなパンだな、これは。うむうむ」
止めていた宰相様もぶどうパンを食べてご満悦。バーンズさんもジャムパンでご満悦。
あれ?ちょっと、色々作ったけど量はそんなに無いんだからね?誰か忘れてませんか?王妃様と王子様達の分も食べちゃわないでね?バーンズさんもお茶とか入れてるし!
王様達を止めることもできず、結果普通のパンだけ残りました。
普通のパンはその日、王家の夕食に出され、王妃様と王子様達に称賛された、が、王女様が菓子パンの事をついうっかり口を滑らせてしまい、王様が王妃様に詰め寄られるという一幕が繰り広げられたらしい。のちにバーンズさんが失敗したとこぼしていた。
あなたもしっかり食べてたものね。
あーーお腹が空きました。。。
ラヴィアン:パンでも焼けば?
黒鶺鴒:ラヴィアンさんを動かさないといけないのでパンは焼く時間ないです。
ラヴィアン:そうなの?大変ねー
黒鶺鴒:全然思ってないよね?棒読みだしっ