第23話 検証という名の怪奇現象
ローズガーデン休養日の日、朝からラヴィアンは芽の出たポテテを持ちローズの裏の林を歩いていた。カリサに言うとうるさいので、洗い物等する為部屋を出た隙に図書室へ行くと書置きをしローズを抜け出した。
十五分~二十分歩いていくと急に開けた場所に出た。周りには木々が生い茂り、前方には湖が広がっている。
「おー、絵のような景色、キター」
まるで”東山〇夷”の”緑〇く”だこれ。もう少し明るいけど。白馬は居ないけど。
王宮の裏の林だけあって危険な動物の気配もない。小屋があるからたまに見回りに来てるんだなきっと。
太陽の光が水面を照らしてキラキラ光っている。
う~ん、こんな風景にポテテなんて植えていいんだろうか?いいよね?ほとんど誰も来ないし。
お構いなしである。
早速ローズの用具入れから拝借してきた園芸用のスコップを構える。掘り起こし掘り起こし間を開けて等間隔にポテテを埋める。
さてと、水は湖の水を使うのもありだけど、ここは検証の時でしょ。あの回復保水液は治れと念じた。それなら水魔法で水を出しながら念じたら効き目のいいやつが出来そうな気がする。
「成長促進~どんどん成長しろ~芽が出て、実ができるやつ~」
なんか適当に念じてみる。指先からホワンと白く光りながらチョロチョロと水が出てきた。水は今までも出したことあるけど、念じたことはなかったからね。やっぱり光るのか。
少し様子をみていると、――おわ!なんかもじょもじょ小さな葉っぱが出てきたー。植物観察のVTRの早回しを見ているようだった。ちょっとびっくりして思わず周りをキョロキョロしちゃったじゃんっ!
「これなに、すぐ収穫できちゃうの?」
徐々に成長スピードも落ち着いてきて、そう簡単に収穫まではできないらしい。
一応念のため根の方には土を盛り上げ太陽に当たらないようにした。
さて、どうするか。このまま見続けているのも楽しいけど、魔法の検証をもう少しやってみようかな。
前は湖。ちょっと火を出したとしても木々に燃え移る心配もなさそう。よし、うずうずを解消しよう、そうしよう。
湖に向かって手を前に出す、手のひらの付け根を併せ、手のひらを前に向かって広げる。そう、あれですよ。誰でも一度は撃ってみたい、あれ。
「カーーメーー〇ーー〇ーー波ぁぁぁぁ」
ずっどーーーーん! シゥューーーーーン 風のうねりが木々を揺らす ザワワワワワァ~
「!!!」 「いっ!?」 びっくりしすぎて、なぜか「いっ」とか言ってしまったけどっ。冷や汗がどっと出た。湖の向こう岸の木がちょっと焦げた。体の中から何かがず~んと抜けた感じがした。腰抜かした。
えーと、これはダメなやつだ。マンガやアニメの知識でイメージしちゃうからこうなっちゃう気がする。雷とか想像したらヤバイ物が降りてきそうで試すのも怖い。
いやこれ災厄に近いでしょ。こんなのばれたらどっかの国の兵器として攫われちゃうでしょ。その前に逃げられると思うけどさ。
これはほぼお蔵入りケテーイ。どうせ使うなら善意の方向で使えるものを想像しよう。その方が精神衛生上よろしいと思います。はい。
そして後ろを振り返ってみれば、青々と茂った葉に白い花が咲いて、そして枯れ始めているしっ。魔法コワイ。
そして盛り上げた土がもこもこしだした。ポテテが成長してるんだな、きっと。
――って、これ成長をどうやって止めるの?このままじゃどでかいポテテになるんじゃ……。
暫くすると土の動きが無くなった。適度な成長で止まるのか。便利ね~。
ご都合主義というなかれ。
止まったようなので土を掘り起こしてみると、できてるできてる、美味しそうなポテテがイパーイ。
……これって、何か、農家さんごめんなさい。 なんか知らない罪悪感が胸を占めた。
念のため持ってきていた袋に大量のポテテを詰め、更に新しい芽の出たポテテを埋める。今度は水だけかけた。そして早々サンタクロースの如く袋を背負いローズへ向かって歩き出す。
さて、ポテテで何作ろうか? コロッケ?ポテトサラダ?モウ乳が余ってるしクリームシチューか?と考えてたらニヤニヤしていた。銀髪の令嬢サンタが大きな荷物背負いニヨニヨしながら歩いてたら、ちょっと引くよね。
そう言えば最近教室に行くと席に誰も座っていない。いつものように後ろに座ると徐々に自分の周りの席につく。
まぁそれはいいんだけど、意味がわからないのがイザベラ様だった。なんか地味ドレスより男装の方がましだとか上から目線で言ってくるけど、なんなんだあれは。
――!! あっ、そうだ!王様のプレゼントいい事思いついたっ。パーティーまで40日弱、頑張れば間にあうかな?明日みんなに相談してみようか。
友達を作るとか作らないとか深く考えてはいなかったけど、何となく皆近づいてきているし、敵対しているわけじゃないなら知り合いを作っておくのも後々良い様な気がする。
それにそろそろラヴィアン商会も開店しとかないと。その為にはあれだな、お嬢様方の髪の毛改造計画。およそ少女とは思えない髪形と匂い。この位の年なら髪の毛も綺麗なはずなのに、良く洗わずに香油を塗りたくり、少女らしからぬセットをして毎日髪の毛を痛めつけている気がする。ラヴィ美容室とか開店してみようか、フフ、ローズ限定で。この前下準備の発令出したしこっちも動き出さないと。
なんかやることイパーイ。でもなんか面白い。
取り敢えず今日の所はこのポテテだなぁ。なんか色々考えてたらお腹空いてきたし。
ああ、そうだ、バーンズさんにパンの仕込みも教えないとだっけ。
結構ハードな毎日になりそうな悪寒(予感)
色々考えてたら目の前にローズガーデンが見えてきた。
~~~~
ローズガーデン厨房。バーンと勢いよくドアを開ける。
「たのもぅ~」 テーブルにドン!とポテテの袋を乗せる。
「ラヴィアン様、はい、何を頼まれましょう?」
いや、そうじゃないんだサンディさん。時代劇なのよ。わかんないかなぁ?わかんないよなぁ。
「コホン、いえ、新たな食材を持ってきました。サンディさん今日のお昼はなんですか?」
「今日はパンとスープと茸とピグのバター炒めにしよかと」
「ふむふむ、今日はスコーンじゃなくてパンね~。それじゃあ、あれがいいかな、サンディさん昨日のパンの残りあります?」
「ええ、いつも沢山焼きますので」
「それじゃ昨日のパン全部だしてください。それと――」
そこから細かく指示を出していく、玉ねぎもどきをみじん切りにし透明になるまで炒める。茸とピグは粗目のみじん切りで炒める、ポテテは泥を洗ってそのまま塩茹。昨日のパンは下ろし金みたいなやつでざっと下ろす。生パン粉なんて贅沢じゃなーい。
そこでハタ!と気付く。ソースがない。う~ん……マ、マヨネーズじゃだめだろうか?酸味を抑えれば何とかなるかな。思考を凝らしていると、カリサが顔を出した。
「お嬢様、やっぱり…」
「あ、丁度いいところにカリサ、道具箱お願い~」
お約束の様にカリサに道具箱を頼むと、大げさに溜息を吐きながら戻っていった。
仮にも仕えるお嬢様に対してその態度はどうなの?戻ってきたら全員分のマヨネーズを作って貰おう、腕がちぎれるまでがんばってね?ククク
茹で上がった初めて見る食材のポテテを興味深々で見ている厨房スタッフ達
「熱いですけど布か何かあてがいながら皮だけ剥いてください、芽らしき所も綺麗に取り除いてね。それから残りの方はそのポテテを潰してください」
大量のポテテと格闘し、その中にさっき炒めた玉ねぎ、茸、ピグを混ぜ込む。生地を小判型に成型し、小麦粉と溶き卵とパン粉を並べて、熱の入った油の鍋へと全員で流れ作業。
作業をしているスタッフ達は自分達が何を作ってるのかわからないけど、美味しい物であることは予想できたので皆ワイワイと楽しげに作っている。
その横で罰ゲームの如く黙々とマヨネーズ作りをしているカリサは泣きそうにしかめっ面をしていた。そろそろ手伝ってあげようかな、フフ。
皆が揚げ物をしている横でパンに切り込みを入れ薄くバターを塗っていく。キャベツモドキの千切りも忘れずに。
「揚げたてほやほやの味見をしてみましょうか?それじゃお疲れのカリサからどうぞ」
適当に切り分けた熱々のコロッケを頬張るとカリサが目を見開いた。
揚げたてコロッケ、間違いないよねっ。
ポテテの甘さが際立ってそれはもう久しぶりのコロッケに、小さい頃行ってたスーパーの総菜屋さんを思い出したよ。うぅ、郷愁。
皆の評価も言わずもがな。そこからまた流れ作業でパンにキャベツ挟む、マヨネーズ乗せる、コロッケON。
大量のコロッケサンドの山が出来上がった。
思ったより沢山出来上がったのでバーンズさん経由で食べて貰おうかな?王様?
この前恨みがましく覗いてた王様はコロッケサンドを堪能できたでしょうか?w