第22話 ヤンデレ?いえいえ溺愛ゆえ
サリスフォード領、夕食後
ラヴィアンの家族がお茶を飲みながら歓談している。そこへクロードが入室してきた。
「失礼します。旦那様、ラヴィアン様よりお手紙が届きました」
「ん?ラヴィアンから?先日来たばかりで今度はまたなんだ?」
手紙自体は嬉しいのだが、オウエンは嫌な予感がした。先日の手紙には王宮主催のパーティに招待されていることと、それを何とか回避できないかの打診だった。それで頭を悩ませていたのに今度は何なんだ。早速読んでみると
「はっ…………?」
「あなた、どうかしました?ラヴィはなんて?」
「うっうむ、どうやらパーティに出ることにしたらしい。送ってほしい物があると書いてある。そして陛下にもすでにお会いしているようだ。衣装については不問にすると約束を取り付けたらしい。一体どうなっておる?なぜ陛下と?訳がわからない……。それとクロード、アレイと料理長のブレッドを呼んでくれ」
「かしこまりました」
「父上、僕たち宛にラヴィからの手紙は?」
「あるぞ、アルベルト宛に」
「え……、僕には?」
「パーティで逢えるのを楽しみにしていると書いてある」
「え?それだけ?アルには手紙があるのに?」
エレオノールはガックリと項垂れた。
「早急にモウを飼育する為の整備か……、一体何をしようとしているのだラヴィアンは」
オウエンの隣で心配顔の母ベアトリスは、
「パーティーへ出席するならドレスが必要じゃないの?もう間に合わないわっ、どうしましょう!」
「それは大丈夫だと書いてある。何が大丈夫なのかわからんが」
「あぁ、エレオノールもう一つお前宛に頼み事が書いてある。なんでも透明の魔石をできるだけ沢山拾ってきてほしいと」
「なぜ手紙でくれないのだっ!ラヴィ~」
「エレ、あなたそろそろラヴィよりも将来の相手のことを考えないと、もう一七なんだし」
母親に諭される。そして父親から追い打ちをかけられる。
「そうだぞエレオノール。将来この家を継ぐ者として早く安心させてくれないか」
「父上、母上、ラヴィが今のところ結婚はしないと言ってますので将来ラヴィを守らないとなりません。もし万が一ラヴィが、――万が一ですよ?結婚するということになったらその時に考えます。あぁそうだ、その相手はこの家に入ってもらいましょう。少しでもラヴィを悲しませるようなことがあれば、粛清しますっ」
オウエンは顔に手を置いて溜息、ベアトリスは引いた態度で冷たい視線を送る。いつもの風景である。
「兄さん、ラヴィは僕が守るといつも言っているでしょう?兄さんはこの家の跡取りなんだからちゃんとしてください」
「なっ!ラヴィから手紙を貰ったからって上から目線で言うな!アル。よしこうなったら透明な魔石を集め捲ってやる!」
ガンバル方向がとても残念なサリスフォード家嫡男である。
アルベルトはラヴィアンからの手紙を読み、ニヤっと笑い、なるほどと納得している。
「失礼します。アレイとブレッドを呼んでまいりました」
オウエンがそれぞれ宛の手紙を渡す。二人とも喜び手紙を抱きしめる。それを見てまたエレオノールの機嫌が悪くなる。それぞれがラヴィアンからの手紙を読み満面の笑みになる。
「旦那様、お嬢様からモウの生産の件でご依頼があったかと思われますが、早急にモウ乳の入荷の許可を頂けますでしょうか?」
「モウ乳?何をするのだ?」
「はい、お嬢様から細かい指示が入りました。早急にある事に取り掛かりたいと思います」
ラヴィアンからは架空の物語の詳細、あの口裏合わせの内容と、バター、生クリーム、パンの製造方法等書かれてあった。以前から何度となく説明はされていたが、やっとGOサインが出された。ブレッドはすぐにでも作ってみたい衝動でうずうずしている。
そしてアレイは読んですぐに一旦部屋を出てすぐに何かを手に戻って来た。
「旦那様、こちらをごらんください」
そう言ってアレイが手渡したものは、
「こ、これはっ!もしやこれは!」
「ええ、やっと出来ました。お嬢様と4年の歳月をかけ、そしてお嬢様がローズガーデンに行かれた後は最後の仕上げに毎日取り組んでおりました」
そう、紙である。ラヴィアンは転生してから4年もの歳月を何もせずにいた訳ではなかった。調理関係は自粛していたがブレッドには事あるごとに食べ物の可能性を伝えていた。アレイとは、調理器具をはじめ、石鹸、シャンプー、リンスの開発と紙の開発を秘密裡に進めていた。
アレイはブレッドに今まで作った調理器具をその場で渡した。ブレッドはラヴィアンから何となく聞いていた調理器具に目を爛々とさせ、早くこの器具で作ってみたい、作りたい!作りたい!作りたい!衝動が爆発しそうで抑えきれそうにない。
「アッアレイ!この薄くて軽いものは紙だな?紙なんだな?――なんて、素晴らしい」
家族全員が紙を見て触って驚いて、言葉も無かった。
「旦那様、それと以前から使われている湯に溶かす石鹸「シャボン」とお嬢様は言っておられましたが、それと洗髪石鹸「シャンプー」仕上げ油「リンス」につきましても、そろそろ広めるとのことです。他の貴族様からのご購入問合せに対応するべく明日から動きだしたいと思います」
これから、サリスフォード領独自の紙、湯あみ石鹸、洗髪関係とモウ乳加工品、それに付随するパンの製造や調理器具の製造等々が始まろうとしている。ラヴィアンが秘密裡に開発していたこの世界では無かった品々である。
貴族から広め、徐々に徐々に資金を蓄え、サリスフォード領特産で全体を豊かに人心を集め、領に人を集め、村の開拓、更なる街の発展への足がかりが始まろうとしていた。
「ラヴィアン、お前はいったい。――これがどれだけの富を生むかっ、考えたら恐ろしくなってくる」
なぜかその場はシーンとなる。それぞれがこれからの事を考えている為である。
「そうだ、まず、サリスフォード商会を立ち上げないとならないな。エレオノール!アルベルト!これから忙しくなるぞ!覚悟しておけ。それとベアトリスもだ。君もお茶会等あまり参加していなかったが広めるのに一役かってもらうぞ?あぁ、しかし急に広めても敵を作ってしまうかもしれんな。特に羊皮紙を扱っている領からは煙たがられるだろう。紙についてはある程度の所で王宮を巻き込まないとならないな。
それとっエレオノール!お前は変な令嬢に付け込まれるなよ!」
「さっきと言ってることが違うじゃないですか。解ってますよそんな事。さっきも言ったじゃないですか、そんな気はないと。ラヴィアン以外はその辺の石ころと同等にしか見えませんからね」
散々な言われようである。
「いや、それもどうかと思うが……。いいか、これからはお前を取り込もうと有象無象が近寄ってくる。くれぐれも気を付けろ。それとラヴィアンの名前を一切出すな。あの見た目で叡智に富んだ中身、王族ですら手を出してくるかもしれん。攫われる可能性だってある。ダメだ、ダメだ、ダメだ!そんな事になったら、考えただけでも震えがくる。いっそ、檻にでも入れて厳重に鍵を掛けておきたい位だっ。あぁ、ローズガーデンなんか出さなければよかった、ううぅ」
エレオノールの事を言えないダメ父であった。
「あなた、ラヴィはそんなに弱くないですよ。魔法も使えますし」
(ラヴィ、大変だな。みんなの想いが重くて。大丈夫、僕が絶対守るから)
アルベルドの想いも同等であった。冷静なのは母親のみである。
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こちらはローズガーデン、ラヴィアンの部屋
「!?」
急に寒気がしてカップを落としそうになったラヴィアン
「どうかなさいました?お嬢様」
「いえ、なんだか急に凄い寒気が……」
「今日はお早めにお休みください」
「そうする……」
妙な悪寒に首を傾げながら早々にベットに潜り込むラヴィアンだった。
この家族は大丈夫なんだろうか・・
ラヴィアンさん大変ですね~




