第21話 隙間から目だけが……
次の日、案の定呼び出しを受け、午前中早々ローズの王専用部屋で王様と対峙していた。
宰相様が口を開く。
「まずは、直接関係の無いラヴィアン殿に事を収めて頂き誠にご苦労様でした。お礼を申し上げます」
「いえ、たいした事もしておりませんので」 と頭を下げておく。
「ラヴィアン嬢、ご苦労だったな。して、詳細を説明してくれるかな?」
「詳細と申しましても、えーと、食材につきましては色々知っているというのは以前説明した通りで、今回の食材に関しても知っていたので原因の特定に至りました。 そして倒れた方々はほぼ全員がお腹を壊していた為、水分補給が必要だろうと飲みやすい物を用意しました。以上です」
「なぜ水分が必要だと思われたのですか?」
あー、この世界に脱水症状の概念は、ないよなぁ。
「ある文献に、お腹を壊してどんどん体から水分が出てしまうと更に体調を崩す、というものがありました。また、それ以外にも外気の暑さで体の中が熱くなり、水分が足らないと死んでしまうこともあると。その場合、水では吸収しにくく手遅れになる可能性があり、適度な塩分と糖分を混ぜた水で吸収を早め、回復させるというものです。今回はそれを思い出し水分補給をしただけです」
なんとか信じてくれー。
「ふむ、ではそれ以前に怪我を負っていた者が回復したというのは?」
げっ!それも聞いていたのかっ。
「私にも解りません」
ホントの事だし、チート能力があるかも知れないなんて言える訳ないしっ、貞子が宿っているんです。テヘ。なんて言ったら更に説明に窮する。
「ふむ、まぁ事が大事に至らなかったのは、そなたの功績が大きい。よくやってくれた」
今回の功績から王も執拗に追及することが憚れた。危険を顧みず、自らすぐに動いてくれた令嬢だ。解らないというのにこれ以上追及して嫌がられでもしたら、今後その知識の数々を極力隠す方向へいくかもしれない。それは避けたかった。特に食方面で。
「ところで、その原因であるポテテとかいう物は、どういう物なんですか?」
「一言でいうと野菜です。揚げてよし煮てよし焼いてもよし。一食をこれで賄える優れた野菜です」
たぶんだけど。
「ではなぜ今回このような騒ぎになったのでしょうか?」
「今回の原因はその保存方法を知らなかった為起こった事です。ですのであの商人は自分も中毒になりポテテが原因だと解ったようですが、理由までは解らなかったようです」
「では保存に注意すればすばらしい食材だということなんですね?」
「それはもう、大変美味しくいただけます。残っているポテテはほぼ毒性を帯びていて食べることはできませんが、植えることはできます。また比較的育てやすいとありました」
「ほぉ、それは願っても無い食材ですね。しかし今回の騒ぎで民衆が直に食材として認識するか疑問が残ります」
それはそうだろうなぁ。あれで苦しんだ人はもう食べたくないだろう。ほんとに困った事をしてくれちゃったなぁ商人さ~んっ。
「そうですね、そう思います。もしよろしかったら、サリスフォード領で栽培してみたいのですが、よろしいでしょうか?」
王と宰相が目を合わせる。それに許可を出すには少々勿体ないような気がしてきたのだ。新たな食材をみすみす他の領に渡してしまうのが。
「ラヴィアン殿は食されたことは?」
「はい、昨日ローズで食べてみました」
二人ともびっくりした顔になり、
「はっ?食べたのですか?」
「ええ、食べられる物を持ってきましたので。あっ、申し訳ありません。許可なく持ち出してしまいまして」
「いや……、体調は?まぁ問題ないようですね」
「ええ、すばらしく美味でした」
そうなのだ、地球でいうところのインカのめざめのように、少し黄色い実でほのかに甘かった。ほんとに美味しかった。思い浮かべていたら顔が緩んでいたようで、
「あー、その顔つきを見れば嘘で無いことはわかった」
この令嬢は普段愛想が欠落しているようだけど、食べ物のことになると、このような表情をするのだな、と、王と宰相は不思議な令嬢をまじまじと見た。まったくもって令嬢の型から外れている。
そもそも、危険な場所へ自ら赴くということに関しても、到底信じられない事なのだ。想像の上をいくこの令嬢を見ていると、なんだか自分がつまらない人間のように思えてくる。
「そうだ! あっ失礼しました。えーとご興味があればお作り致しますが」
王は考えた。ラヴィアンの先程の顔つきを思い起こし、たぶん美味しいのだろうなと。しかし、危険ではないのか? うーむ。
「陛下、本日は私が先に頂いてみます。陛下は後日ということにしては如何でしょうか?」
「う、うむ。そうだな」
なんとなく釈然としないが、王たるもの、危険なことは回避しなくてはならない。
「それでは、バーンズ料理長と一緒にお作りします。簡単ですのですぐに出来上がります」
「あぁ、それなら丁度いいかもしれないですね。バーンズは今、自分の調理場にいるはずです」
「では、用意してきますので宰相様ご案内お願いいたします」
それから宰相様と二人、ローズの管理官室まで行ったのだが、今までの経緯を詳しく知らないルナディ様は青い顔で「失礼はありませんでしたか?」と宰相様に聞いていた。まったく!貴方の方が失礼だ!と文句を言いたかったが、急いでいたので仕方なくスルーした。
部屋へ戻り、ここでも心配顔のカリサをやり過ごし、食べられるポテテと毒ポテテとコンソメとバターを籠に入れ、早々に管理官室へ戻り、先ほどの部屋へ到着。一緒に王宮へ戻ることになっていたのでちょっと急いだ。
「お待たせいたしました」
「うむ」
三人連れだってローズの右端から外に出てみると馬車が待っていた。護衛の騎士も二人待機している。ローズの横端から王宮へ通じる通路は、両側を高い塀に囲まれ両端に大きな扉があった。簡単にローズガーデンと行き来できないようになっているようだ。そして流れで同じ馬車に乗る雰囲気になっている。
「さぁ、どうぞ乗ってください」
と、宰相様に言われたが
「いえ、この位の距離でしたら走ってすぐに追いつきますので」
「はっ?」
王様と宰相様が驚いている。二人からすれば令嬢がドレスで走って馬車を追い駆けるなんてことは思いもよらないことだった。護衛の騎士までびっくりしている。
ラヴィアンからすれば、王様と小さな馬車内に一緒にいるのも息が詰まりそうなので、断りたかっただけなのだ。
「え? あ、この距離でしたら直ぐですし」
本当に目と鼻の先なのに、なんでこの距離を馬車で移動しているのか、そっちのが不思議なんだけど?と思いながらすぐに走りだした。走り出してすぐに籠を持っていた事に気づき、すぐに戻り、びっくり顔の護衛騎士に預けまたすぐに走りだした。
「陛下、行ってしまいましたが……」
「そうだな。くっ ふっ わははははは」
「仕方ありませんね。馬車を出してください」
護衛の号令と共に馬車が走りだす。走り出していたラヴィアンにすぐに追いつき追い越した。王宮側の門の前で馬車から降り振り返るとすでに近くまで追いついて来ていた。
「はぁはぁ お待たせいたしました。ふぅ」
「クククク」
何が可笑しいのか王様が笑っているがスルースルー。
「ラヴィアン殿、ではご案内します」
宰相様に連れられて初めて王宮に足を踏み入れた。それはもう荘厳な作りで壁は白く廊下は大理石に似た石の様でピカピカと輝いている。お決まりの鎧の置物や、大きな柱に、まるでおのぼりさんのようにキョロキョロとしてしまった。煌びやかではあるが洗練された装飾。歩くたびにカツカツと足音が響く。一人で歩いたら迷子になるな。
そうこうしているうちに、一つのドアの前で宰相様が止まった。
「こちらにバーンズがいるはずです」
ドアをノックすると中から返事がありバーンズさんが顔を出した。
「これはこれは宰相様。ラヴィアン様まで、如何致しました?」
「ラヴィアン殿が新しい食材を調理したいというのでお連れした」
「!!左様でございますか!では中へお入りください」
中に入ってみるとローズの厨房と同じ位の広さで、ピカピカに磨かれた調理器具や調理台が大事に使っていることを証明している。今日出来上がったばかりの厨房です!と言われても納得できるだろう。
「では早速このポテテの説明から致しますね」
食べられない状態の説明と食べられる状態の実物を見せ、芽を必ず取ることと、保存は乾燥した暗い場所で等々説明する。
そして調理開始。昨日作ったあの二品と、野菜と少しの肉とのコンソメバター炒めがすぐに出来上がった。
肉じゃがーーーー!と内心で叫び、醤油~と懇願しても無い物は仕方ない。ラヴィアンの様々な心の葛藤を二人は知らない。グスン
「さぁ、できました。まずは私が先に食べますね」
毒騒ぎの食材なので食べられる事を証明しなくてはならない。
あら!このバター炒めもポテテの美味しさのおかげか滅茶苦茶美味しい~。
美味しそうに食べるラヴィアンを見ている二人も喉を鳴らしている
「何の問題もありません。勇気があればどうぞお召し上がりください」
早速二人共取り皿に取り味見を開始した。見たこともない食材で、見たこともない三品の料理を食べた二人は驚き、笑顔で称賛した。
そしてなぜか背中がゾクっとしたので入口方向を確認したら、少し開けたドアの隙間から覗く目が……。こわっ!
いやいやいやいや、王様。そんなもの欲しそうな目でコッソリと……。
二人は気づかず食べ続けている。 どうしよう……。
国王様は危険を顧みずの行動はできません。可哀想だけど今回はお預けさ。
ラヴィアンはスルースキルが1上がった。