第20話 やめられない止まらない
「食材の商店の方いますか~?」
チャンスとばかりにそう呼びかけているとサウザーさんが多少慌てて、
「ラヴィアン様っ、何をなさっているんですか?」
「え? ちょっと食材でも見て回ろうかと……」
と、返事をしていると何やら外が騒がしくなりドアから魔法使いの様な黒いローブを着た見た目二二~三歳の青年?が飛び込んできた。
「薬が出来ました~!!ハァハァ って、あれ?」
がやがや がやがや
青年が部屋の中を見渡せばほぼ全員がにこやかに談笑している。帰り支度をしている面々もいて、
「あ、あれ? ここですよね?病人が集められてるって場所は。あれ?間違ったのかなぁ?」
「あーその薬師殿、私は宮廷騎士のサウザーという。そのな、もうほぼ回復したようだ、ご苦労だったな」
サウザーさんが済まなそうな顔で対応した。
「えぇ~、そ、そうなんですか…? なんか凄く急いでいるって急かされて薬師集めてみんなで必死に作ってきたのに…、あー、治ったというならそれはそれで良かったことなんですが、なんかこう理不尽といいますか、釈然としないといいますか……、どこかに薬があったんでしょうか?」
「あぁ、いや、何というか、水分?を摂ったら元気になってしまった?というか。いや急がせて済まなかったな。その作った薬はこちらで引き取るので安心してくれ。手伝って貰った薬師達にも世話になったと伝えてほしい」
「は、はぁ。――え?水分て…、水?」
いや、何かごめんね?魔法使い君。でも私も訳わかんない状態だから許してっ。と心の中で手を併せる。
「では、もうここは落ち着きましたし、ここにいる理由もございません。しかもだいぶ夜も深まってきています。そろそろ戻りませんとラヴィアン様」
「えぇ~、ちょっと商店を~」
キッと見られて、襟首まではつかまれなかったけどドナドナされて馬車に乗せられた。
「せっかくここまできたのに…、ぶちぶちぶち」
「さぁ、出ますよ」
馬車の周りは人だかりで結構凄い事になっていた。
「救世主さま~、ありがとうございました~」「どっかの姫様~、また来てね~色々サービスするよ~」
「女神様女神様銀色の女神様」
何やら祈りを捧げる人までいる。薬師一人は訳がわからないといった風情で流れのまま見送っている。
「み、見送りありがとうございます。機会があればまた~」
渋々手を振りつつ馬車に揺られる。あぁ、街が遠ざかるぅ~。 フッ、しかしじゃがいもゲット。取り敢えずどっかに植えよう。ふっふっふ
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王宮 王の執務室 王と宰相の前に報告の為に急ぎ戻ったルシファーが直立不動で報告していた。
「そうか、落ち着いたか」
「はい」
「原因は毒を持った食物だったと?」 宰相
「はい、ポテテとかいう物らしいです。ラヴィアン様がご存じだったようで直ぐに特定できました」
「残りのそのポテテは処分したのか?」
「いえっ、まだです。誰も近づけぬよう警備を配置し保管してあります」
「なぜ燃やしてしまわなかったのだ?」
「はい、それが、ラヴィアン様が勿体ないと言われまして保管を希望しておりました」
王と宰相が目を合わせた。毒が勿体ない? 二人の当然の疑問である。
「なんでも植えれば大量にポテテが収穫できるとかで」
ああ、そっちか。二人は安堵した。だが、すぐ怪訝な顔になる。
「毒物を大量に収穫してどうするというのだ?」
「その後すぐその場を離れた為詳細は解りかねます。申し訳ありません」
「わかりました。もう下がっていいですよ」
ルシファーが踵を返しドアから出ていく。
「ふむ、塩と砂糖と果実の汁か、それで回復薬ができるのか?」
「聞いたことがございません」
「まだ戻ってはおらんようだし、明日にでも呼び出すか」
「かしこまりました」
「しかし毒植物を一体どするというのだ……」
悩みが尽きない王と宰相だった。
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なんだかんだでだいぶ時間がかかり、夕食の時間も過ぎた頃ローズガーデンに戻ってきた。サウザーさんとは入口で別れ一人で戻ると、
「お嬢様ぁ~~~~」
カリサが心配半分怒りを滲ませながら走ってきた。
「お嬢様!ご無事でっ!うぅぅぅ」
「カリサただいま。流行り病じゃなくて食べ物に中っただけみたい。それよりっ!ポテテよっポテテ!!」
「うぅ、なんですかポテテとはっ!そんなことよりっ!ドレスが泥だらけじゃないですかっ!」
そういうなりここでもカリサの勢いにドナドナされ強制湯あみ強制着替えを敢行された。それより何よりお腹が空いたんですけど……。
着替え終わったところでお茶を飲みながらほっとするとやっぱり空腹に耐えきれず、
「カリサ、ちょっと厨房へ行って棚から油持ってきて~、小さな鍋も一緒に。ああ~お腹が空いた~」
「申し訳ありません。いつお帰りになるかわかりませんでしたのでパンだけお取り置きしてあります。すぐに行って参ります」
さて、じゃがいもじゃがいもっ! 早速食べられる方のじゃがいもを四つ取りだし皮を剝き始める。二個は適当に細長く切り揃え、後の二つはアレイに作って貰った道具で薄く薄くスライスする。そこへカリサが戻って来た。
「お嬢様?」
「こっちー」 部屋にある簡易キッチンから返事をした。
「油と鍋をお持ちしました」
「鍋に油を真ん中位まで入れて火を点けといて」
「はい。――それはまた見たことの無い食材ですね?」
「ポテテという野菜なんだけど、今日の毒騒ぎの原因がこれよ」
「えっ!!なっ!何を! お嬢様! そ、それをっ?!」
「食べるわよ~、カリサよく見て?こっちの緑色の芽の出てるやつ、これが毒がある方。こっちの茶色くてごつごつしている方は食べられる方。芽は取らないとダメだけどね」
青い顔して鍋を落としそうになったのですぐに説明した。ややして油に熱が入った。
まず細長く切った方を揚げる。菜箸も竹に似たあれで作って貰っていた。上げ網が無いので箸で皿にあげるしかない。細くした竹で隙間を開けて編んだ受け皿で油を切る。次はポテトチップスを揚げる。気を抜いてるとあっという間に焦げ付くから気をつけよう。
それぞれに塩を振って、さぁ、出来上がり。
「カリサもどうせ食事してないんでしょ?一緒に食べよう」
「はぁ、ホントに大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫、あーお腹空いた。頂きますっ」 モグモグ
懐かしい。ケチャップは無いけれど十分美味しいフライドポテトだった。そしてパンにジャムやバターを付けながら紅茶で頂く。
ふ~炭水化物ダイエットの真逆いってるよねっ!まぁ成長期だしっ、カマワナイカマワナイ。
カリサもはふはふ言いながら食べている。ポテトチップもパリパリに仕上がった。青のりほしいけど今はこれで十分。
「美味しいですね~ホクホクで。こちらのはパリパリしていて同じ物とは思えません。しかもやめられないですっ」
そうなのだ、やめられない止まらないなのだよカリサ君。 じゃがいも四つとパンを二つづつ完食、満足満足。
その頃遅い夕食を食べ終え一息ついたサウザーさん、何か大事な事を忘れている気がした。
「あっ!ポテテ……」
ラヴィアンが抱えていたポテテの回収を、すっかり忘れていたことを思い出し青い顔になる。
ぱらっと降った雨が湿度を上げて蒸し暑いです
暑いです 暑いです 暑いです ヒ〇シです
ラヴィアン: 懐かしすぎでしょ それ