第2話 ここはどこ? わたしはだれ?
ラヴィアンが部屋を出た後一人残ったカリサは片付けをしながら思い出す。
お嬢様に初めて会ったのは私が14歳の年だった。お嬢様の7歳の誕生日に今は侍女頭をしている母親に連れられてサリスフォード家へ行った。
お嬢様の侍女になるべくして12歳から侍女養成所へ行き2年間学んだ
はじめてお目にかかった時のお嬢様の可憐なお姿はお人形のようでこれからこの方に仕えることができるのだと思うと天にも昇るここちになった。
お嬢様は多少わがままであったが概ね大人しく旦那様や奥様お兄様達にそれはそれはかわいがられていた。
そのお嬢様が8歳の誕生日も終えたある日、大変な事が起こった。
「カリサ、カリサ、お嬢様はどちらに?」
「あ、母さん、えーと、お昼寝をしているはずです」
「え? 今お部屋見てきたけれど居なかったわよ?」
「え?」
カリサはサーっと血の気が引いた。
「す、すぐ探しにいきます!」
「ええ、それじゃ私も他を探すわ。見つかったらすぐに知らせて頂戴」
「はいっ」
カリサは慌てた。大切なお嬢様に何かあったら取り替えしがつかない。
お嬢様の部屋、厨房、居間、ホール。
どこを探してもいなかった。更に青い顔になりながら屋敷内を走る。
途中で会う屋敷の使用人にもお嬢様の所在を尋ねたが見てないと言われ続けいよいよ屋敷内が慌ただしくなってきた。
お嬢様の行方を捜しまわっているカリサ親子の様子にどうやらお嬢様が行方不明だと知れ渡ってしまった。
「カリサ、どうしたんだ? 慌てて」
「あっ、エレオノール様……。」
ラヴィアンの上の兄が乗馬から戻り玄関ホールに戻ってきた。
「……もしかしてラヴィアンに何かあったのか?」
「も、申し訳ありません! お嬢様が……お嬢様がっ……」
と言ったとたんに泣き出してしまっていた。
「ラヴィアンがどうしたんだ!? カリサ!」
ラヴィアンが行方不明であることが屋敷の持ち主オウエン・サリスフォード辺境伯の知ることとなる。
執事のクロードさんから使用人に指示が出る。
奥様は心配のあまり涙を流されている。
旦那様は厳しい顔で、各部屋を見てきた使用人達からの報告を聞いていた。
「旦那様、屋敷外も探しましょう!!」
執事のクロードからの提言に
「ばかな! 門には警備の者がいるだろう!?気が付かぬわけがない!」
「しかし、すでに屋敷内は探し尽くしました」
「父上! 屋敷の周りを探しましょう! ラヴィアンの足ならそう遠くへは行かれないと思いますっ!」
「そう…だな……。クロード!!」
「はっ!」
手分けして屋敷の周りを探している時に他の使用人が塀にできた小さな穴を見つけた。
「だ、旦那様!塀に崩れた個所が見つかりました! ちょうどラヴィアン様が通れる位の穴です!」
私はすぐに走り出していた。
屋敷の裏には雑木林があり少し行くと5m位のゆるやかな崖がある。
「ラヴィアン様~~」「お嬢様~~」 いたるところでそう呼ぶ声がこだまする中、
「きゃああああああああああああ! おじょうさまぁあああああ」
5m下に仰向けに倒れているラヴィアン様を発見し悲鳴を上げた。そのままその場所でへたり込んでしまった私の横を兄であるエレオノール様がザッザッザッザッーーーっと、崖下に滑り降りていった。
「ラヴィ!?ラヴィ!!」
助け起こすが意識がない
屋敷へ知らせに来た使用人から見つかった旨報告を受けたが意識不明で崖下に倒れていると聞いた瞬間奥様が失神してしまったらしい。
それからの屋敷内は上へ下への大騒ぎだった。
意識の無いラヴィアン様を抱えたエレオノール様が戻ると真っ青に顔色が変色した旦那様が迎える。
奥様を運ぶ者。旦那様の怒号が響き渡る屋敷。私は恐ろしくなりガタガタ震えていた。
医者を呼びに行く為に馬車が全速力で走り去った。
すぐに呼吸をしていることを確認したが相変わらず意識の無いラヴィアン様。
体中擦り傷だらけでベットに寝ている様を見て、このままラヴィアン様が目覚めなかったらどうしようと体中が震えた。
お医者様とご両親、上のお兄様のエレオノール様が見守る中
「ん……」
「「「ラヴィ!!」」」
「失礼します」と、ベルク医師がお嬢様の横に進み、脈を取ったり目をみたりと診察を行った。
お嬢様はなぜか一瞬驚いた表情をなさり、手や足、髪の毛を確認して、周りにいるご家族を見て不思議そうな顔をしたと思ったらまた眠りに落ちた。
「ベルク医師!ラヴィは!?」
旦那様がすがるようなまなざしで問いかけた。
「今はまだお熱がありますので眠ってしまわれたようです。特に大きな怪我も無いようですので熱が下がるまでは寝かせてください。
時々目を覚ますはずですので水分を与えて、食事ができるようでしたらなるべくやわらかいものでも食べさせてあげてください」
その言葉に全員がほっとした。
それから1週間お嬢様は熱が引かず、時折目覚めては手や足や髪の毛を確認するという不可思議な行動をし水分を取りながら眠り続けた。
途中学園で学んでいる下の兄のアルベルト様も屋敷に戻ってきた。
私は休むこともせずお世話をすると言い続けお嬢様に張り付いていた。
やっと熱が下がりベットに上体を起こせるようになったお嬢様は、一週間ほとんど食事をとっていなかった為にやせ細ってしまっていた。その姿を見て声をあげて泣き崩れてしまったなぁ。
お嬢様はキョトンとしたあと何かを納得したような顔になり、
「カリサどうしたの?そんなに泣いて、それに目の下のくまも凄いし」
喉が渇いたというので水を飲ませ、またベットに横になられた。
私は安心したのと寝不足の為に朦朧とした頭で放心状態になっていた。訳の変わらぬまま母に無理やり自分のベットに放り込まれた。
目が覚めたのは次の日の朝方だった。
すぐさまお嬢様の部屋へ行きそーっと覗いてみると、お嬢様はベットで上半身を起こし起きていた。
「カリサ? おはよう」
「お目覚めでしたかお嬢様」
「ええ、少し聞きたいんだけど……?ここはサリスフォード家?」
「……は い」
「私はここの娘?なのね?」
「……そ、そうです。ラヴィアンお嬢様」
「辺境伯?」
「お、お嬢様!!ど、どうなさいました??」
「いえ、だだの確認よ……それで私は今何歳だったかしら?」
「え?……8歳の誕生日を迎えられたばかりですが……」
「そ、そうだったっけ?ハハ。はぁ……」
お嬢様は何か考え込むように次々と質問をしてきた。
そしてぶつぶつと小さな声で何か言い最後にしょうがない――と。
そして
「ちょっと……だいぶお腹が空いたんだけど」
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします!!」
調理場の者をたたき起こしお嬢様の好きだった物を作らせたが
「…………まっずー」
「え?」
発熱から回復したお嬢様は以前好きだった物をまずいといいながら、流し込むように無理やり食べていた。
それから旦那様達が部屋へ来て抱きしめられたり涙を流されたり、色々もみくちゃにされベットから出る出ないで大騒ぎになり、結局お嬢様が根負けし2~3日大人しくベットで休むということでひと段落ついた。
私は母親からこっびどく叱られ、侍女失格だ、この屋敷から出すとまで言われたが旦那様が気の毒に思われたのか今回は大目に見るとの恩赦をいただき、お嬢様にもカリサのせいじゃない自分が悪いととりなして頂いて、お嬢様付きの侍女のままでよいと許された。
でも……この時からお嬢様の性格がだいぶ変わった様に思うのは私だけだろうか?
大人びたというか愛想もなくなったような……。
4年前の回想をしていたら片付けの手が止まっていた。
「いけない! 早く片付けよう」
話進んでない・・ すみません;。;