第19話 体の傷は治ってもそれは治りません
遅くなりました~
脱水症状回避の為の経口保水液を作ったつもりが、何やらファイトーッ!イッパーツ的な?いやもっとこう回復的な物が出来ちゃったらしい。なんかよくわからないけどこれは誤魔化した方がいいような気がする。たぶん。
「えーと、なんかみなさん水分が足りなかったんですかね~?この症状にはピッタリの飲み物だったんですかねぇ~?」
不思議?的な空気を作りつつ騎士二人を見ると、絶対に怪しんでるな、この顔。
そうこうするうちにそちらこちらで
「あれ?何かお腹が痛くなくなった?」だの 「気持ち悪く無くなった」 「さっきまで凄い頭痛だったのに……」
しかも更に
「え??足痛めてたのに…、痛くない?……なんでだ?」 「えー!?擦り傷が治ってるっ!?」
「わーハゲが治って、――ねーよ」
それぞれの感嘆めいた言葉の中にノリツッコミが聞こえたけど、それも笑えないほど焦っていた。まずいまずい、なんか知らないうちに何かしちゃったらしいことは解った。
「あの!この原因となった食べ物ですけどっ!配ってた商人はどこですか?」
騎士’sの意識を逸らすために原因究明を振ってみる。
「え?あぁ。別の所で捕らえています」
「お話し聞けます?」
「商人も倒れたようだが、だいぶ回復したと連絡が来ているので話せますが」
捕らえられているという別の部屋へ一緒に向かう。
「危険ですから私達の傍を離れないでください」
「わかりました」
部屋へ入るとその商人はすでに半身起き上がって頭を抱えていた。護衛でついてきたという二人も横にいた。
「お前がこの騒ぎの犯人かっ」
「はぁ、犯人かと言われればそうなんでしょう…、しかしなぜこうなったのか皆目わかりません」
「誰の差し金だ! そしてお前はどこの国の者だ! 何を入れた!」
犯人追及の警察のごとく矢継ぎ早に恫喝しているので商人は怯えて上手く話せない状態になっている。
「まぁまぁ、大きな声を立てなくても。まずは、今までの状況を聞きましょう」
間に入って双方落ち着かせてから話を聞いた。
なんでも遠い国のあるところでポテテという植物が発見されたらしい。食べてみればホクホクでお腹に溜り、植えれば育ちが早く量も多く収穫できた。農家は歓喜し我も我もとポテテを作ったが、作り過ぎた為今度は余ってしまって売れなくなってしまった。そこで商人が目をつけ、それなら他の国に売りにいってこようと手を上げた。
長い旅路の途中でよく盗賊に襲われなかったなと聞いてみれば、王都近くまで辿り着いた時に襲われたそうだ。
しかしポテテしか無く、食べ物だと説明した。そして調理方法がわからない盗賊達は商人に調理をさせた。なのでその場で殺されることは無かった。
長きにわたり太陽に晒されたポテテは光合成を行い表面が緑色に変色していた。芽も当然ぽつぽつ出ている。ポテテの長距離輸送をしたことが無かった商人はその変化に驚いたが、そのままいつものように茹でて塩を振って出した。ポテテを食べたことが無かった賊達はホクホクのポテテを喜んで大量に食べた。その後盗賊達はなぜか呻きだしバタバタと倒れた。盗賊達は商人達を後で殺すつもりだったのと、貴重な食べ物が減ることがいやで商人達には食べさせなかったのだ。倒れている盗賊達を尻目に商人達は急いでその場から逃げ去った。
商人は今まで食べていたポテテに原因があったとは気が付かず、その前に何か食べて倒れたのだろうと解釈したらしい。
そこで気が付け商人ならっ!ダメだこの商人!
そして王都に着いてこれから取引を結ぶ為には食べて貰うことが一番と考え、大勢の人に新しい食材だと触れ回り王都の市井の住民を混乱の渦に巻き込んだ。そこで初めてポテテが原因だと気が付いたとさチャンチャンっっって!
この商人!余計な事を~~~!!。やっとジャガイモが見つかったのに印象最悪じゃないかーーー!!
結果を知ってみればなんて間抜けな騒ぎ。いや死ぬこともあるって何かで読んだことあるから死人が出なくてよかったけどさ。
「はぁ~、なんか力が抜けるほどアホですね」
「す、すんません」
「ところでそのポテテの残りは?」
「はい、まだ荷馬車に沢山積んでます…。 なんでポテテでこんな事になったんだあぁぁぁっ!!」
と泣きが入ったので、
「それはですね、ポテテは芽の部分と緑色に変色すると毒素が発生するんですよ。それを食べたからこんな騒ぎになったんです。ですから長期に保存や輸送する場合は太陽に当てないという工夫が必要なんです」
「そ、そんなぁああ」
知らなかったんだよね?これで覚えてね?
案内されたポテテの荷馬車に来て中を覗いてみれば、芽がぴょこぴょこ出ている緑色に変色したじゃがいもが山ずみ。これこのまま食べちゃだめでしょ~!
でもいい種イモになりそうだから十個位くすねて帰りたい。手間賃としてそれ位いいよね?
「これらはどうするんですか?」
「王宮に指示を仰ぎますが恐らく破棄されると思いますよ?」
「ふ~ん、勿体ないですね」
「え? 何が勿体ないんです?」
「これこのまま植えればポテテが沢山収穫できますから。う~ん、宰相様に相談してみようかな。これはまだ廃棄せずどこかに保管しておくことできますか?」
「ええ、まぁ。悪用されると困るので厳重に見張りを付けないとなりませんが。では先に王宮へ報告へ行ってまいります」
「そうですね、お願いします」
ルシファーを見送ってからラヴィアンはポテテの山に向かった。
ゴロゴロと上の方を移動させて真ん中へ真ん中へ。底に近い付近に辿り着き手に取って確かめてみる。ほとんど発芽していない土の色のままの物を一五~六個探した。貞子レーダーは危険アラートを出さない。
取り分けたポテテは日本で知っている男爵いもそのものだった。ジャガバター、フライドポテト、ポテトチップス、熱々にマヨネーズ。く~、早く食べたいっ!
ニマニマしていると怪訝そうな顔をしたサウザーさんと目が合った。
「それをどうされるんです?」
「調理して食べるんです」
「はっ?! な、何を言ってるんですかっ!!これが原因だと解ったばかりじゃないですかっ」
「ええ、この騒ぎの原因は食べてはいけない状態の物を食べたからです。今取り分けたのは大丈夫です」
「なぜわかるんですかっ!?」
「なんとなく? 取りあえず原因もわかってどういう訳かほとんど回復しているようなので、皆さん後は体力の回復ですね、集会場へ戻りましょう?」
「わかりました。ですが、いいですか?それを勝手に食べないでくださいね?」
「はいはい、わかりましたー」
いい加減な返事をしながら集会場へ戻ると、
女神様だ救世主様だとわらわらと集まって来た。商人ぽい人にいきなり手を取られ、
「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!!娘はもう助からないと思ってましたっ!目は虚ろで息も絶え絶えだったのにあの奇跡の水を飲んだら見る見るうちに正気に戻りましたっ」
商人は涙を流しながら拝むように感謝の言葉を繰り返した。
やっばーぃ!騒ぎが大きくなってるっ!
「い、いやー、たぶんもう治りかけだったんですよ。水分が補給できて回復したんだと思いますよ~?」
「なに言ってんですか!!あの奇跡の水を飲んだら、ほらここっ!ここにあった切り傷までこんなに治ってしまったんですよ?」
別の男性が傷の跡を見せながら喚いている。
「みんな回復しているのになぜ俺の髪の毛は回復しない……」 それは傷じゃないっ!
「え~ととにかく治まってよかったですね?ところでどなたか食材を扱っている商店の方いらっしゃいますか?」
話を変えなきゃどうにも収まりそうもない。
ちょっとこれは後で検証してみないとなぁ……。
しかしどうやってごまかそう……。ふぅ
もうすっかり秋ですね~ 眠いです