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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
17/45

第17話 口八丁手八丁腹黒降臨



 相変わらず部屋にいる面々は固まったままである。


 それぞれの心の内は驚きと疑心暗鬼とがない交ぜになり、中々言葉を発せないでいる。


 王の心の中では

『幼さは残るものの、なんと美しい。なぜ今まで社交の場へ出てこなかったのか。急ぎ呼び寄せたからか、地味なドレスに装飾の一つも付けず質素ではあるが、私の前だというのに動じず堂々としておる。ふむ、たぶんオウエンは出したくなかったのであろうな、恐らく縁談が引っ切り無しとなろう。しかしなぜこの娘が料理など……』


 宰相の心の中では

『あのパンをこの令嬢が?着飾るよりも食に傾倒しているというのか?』


 バーンズの心の中では

『な、な、な……え? この令嬢があれらを作った?辺境伯令嬢が??嘘だ!誰か嘘だと言ってくれえぇぇ!』


 ルナディの心の中では

『どうかラヴィアン様、大人しくしててください。お願いしますお願いしますお願いします』


 ラヴィアンの心の中

『えーと?これはどういう状況かな?放置プレイで遊んでるのかな?』


 焦れたラヴィアンが先程よりも少し大きな声で、


「ラヴィアン・サリスフォードでございますっ」


 びっくーーーーー!  全員同時に我に返った。


 まず宰相が口を開いた。


「あーごほん、私は宰相のエドヴァルト・グレンロード。こちらがこの国の王、コンラート・ヴァルグ・ファーラス国王陛下で在らせられる」


「急に呼び立ててすまなかったな、ラヴィアン譲。して本当にそなたが調理をしたのか?」


「はい」 


 ここで嘘をついて隠れたところでばれた時に面倒だったので、とは続けなかった。


「あの、よろしいでしょうか?」


 バーンズが手を上げて発言した。


「ラヴィアン様、この料理はどのようにして考えられたのでしょうか? もしくはどなたかに教えを乞うたのでしょうか?」


 やっぱりきたかその質問。さてここからが問題だ、誰かから教えて貰ったと言えば簡単だけどそれだとサリスフォード領からの発信としては弱くなる。誰かのレシピそのままを再現して、ぬすっとサリスフォードなんて言われても困る。 


 とりあえず地球の先人達ゴメンナサイ


「ええ、それなんですが、それぞれのレシピはサリスフォードの料理長と私で、約四年程前から試行錯誤の上に作った物です。それといいますのも、ある旅の方が行き倒れとなり、それを助けた折、旅のお話しを伺いました。そのお話の一つに、美食を愛する国家があると、食事はそれはそれは美味なるものであったのだと。どのような食べ物か大変興味が湧き、料理長共々欠片でも吸収しようと色々尋ねました。ですが、その情報は国家機密扱いだということで、ただ、一宿一飯の恩義ということで、さわりだけ教えて貰えました。どうもそれらには動物の乳の加工物が多く使われているとのこと、ですがその旅人は製法までは知らないということでした。そしてその国の名前すら教えて貰えませんでした。それから料理長と長きに渡り試行錯誤を繰り返し最近やっと形になってきたところでございます」


 嘘も方便、こんな感じでどうだ? 信じてえぇ、お願いっ! 転生知識チートだとは口が裂けても言えない。

 それぞれの顔を見ると疑わしさ半分てとこだな。

 あーこれ父様達に口裏合わせの手紙送っとかなきゃ。


「そうしますと簡単にはレシピの公開はできないということですな……」


 残念そうな顔でバーンズが呟く。


「ええ、ですが毎日食すパンのレシピ程度でしたら構わないと思っております」


「なにっ!本当か?」 王が即座に反応した。


「ええ、基本中の基本のみということになりますが。――ですが二つ問題が」


 上げて落とす(笑)


「何が問題なのですか?」宰相が質問


「はい、一つはご存じの通りモウは肉が市場に出回っておりますが、乳は出回りません。今回の食材に多く使用したモウ乳は、子モウに乳を与えるだけで人用に生産しているわけではないからです。ですから採れる乳も少なく、これから王宮で取り扱うとなると量が足りないのです。本日お出しした物も私個人で購入した物です。小麦はローズの物ですがそれを流用しパンを作り、皆さまへ提供しております。プリンはほぼ個人で購入した食材になります。個人で購入する程度しか無いということです。最近はローズの料理長のサンディさんがパンの為に購入してくれていますが」


「な、なるほど、そうなると王宮すべて賄うことは現状難しいということですか……、あと一つはなんでしょうか?」


「はい、乳は搾乳してすぐには使えません。一度熱を通して人の体に悪影響を及ぼす物を排除しなければなりません。そのやり方にも注意が必要なのです。生産者に乳を搾って納入を促すだけではだめなのです。ですから簡単に広めることもできません。もしこのパンが先に広まってしまい、乳に関する注意点がおざなりなると大変なことになります。そして乳の有用性が広まってしまうと、現状少量しか採れない乳は大変高価な物になってしまうと推測されます。ですので、まだ小さい範囲の中で上手く運用しなければなりません。情報が漏れた場合市場が荒れることが予測されます」


 バターとか簡単に広めないよ~? サリスフォードからだよ~。

 口八丁手八丁腹黒ラヴィアン降臨。


 王は目を見張った。

 たった十二歳の令嬢がなんと聡明なこと。真っ直ぐ前を向きハキハキと言葉を紡ぐ。通常この年齢ならばお洒落に傾倒し噂話に浮かれ、多少わがままな生活を送っているはずだ。しかしこの娘は八歳の頃から食を追及し続け、現在では誰も作れないであろう物を自身の手で作り出す。それだけではなく市場しじょうのあれこれまで想定し現状を把握しておる。

 ふむ、隠しておきたいというオウエンの気持ちが少し解った気がする。サリスフォード領にとってもこの娘は宝だ。へんな男に引っかかっりでもしたら目も当てられぬ。まぁその心配も、この娘を見れば間違いは起きないだろうと判断できるが……。


 中身精神年齢30みそじの転生チートとは知らない王様はラヴィアンの株を最大限まで上げた。

 他の面々も似たり寄ったりの評価だった。


「ということは……」


「ええ、すぐにレシピを伝授という訳にはまいりません。王宮の他の料理人に明かされるのは危険ですから」


「はっ!それでしたら私個人の厨房がございますっ。そこで作れば問題ないのではないでしょうか?」


 なに!?料理長個人の厨房持ってんの?なんて羨ましい!ちくしょー教えたくないっ。


 腹黒ラヴィアンまだ降臨中。 いやいやもう帰って。 気持ちを諫めて、


「それでしたら大丈夫ですね、王様達の分はお願いします モウ乳仕入れについては後でご相談しましょう」


 そこでハタと気が付いた。ローズのお嬢様達が手紙で家族に言ってしまう可能性がある。あ、でもモウ乳ってわからないか。

 でも、父様達に早急に動いて貰わないとならない。モウ乳生産の為の土台作りをしなければ。

 モウ乳生産者のあのおばさんにバターの作り方まで教えなくてよかった~。


「そしてルナディ様、ローズのお嬢様方にも口止めが必要になってきますので、それも後でご相談お願いします。それと本日のプリンとフレンチトーストは、ご披露したのは王様達が初めてです」


 さっきラー博とQちゃんと取説は食べたけど黙っとけば何とかなる。嘘も方便パート2。恩を売り優越感に浸って貰おう。


 王様達を見ると満更でもない顔つきになった


「うおっほん、パンの事は解決したとして、今後もたまにだが軽食を頼むことは可能だろうか?」


「はい、かまいません。先にお知らせして頂ければ」


「うむ、それでは少しだが褒美を取らす。宰相」


「はっ」 と返事をしラヴィアンに小袋を差し出した


 わっ、ラッキー!


「先ほど自分で材料を買い求めていると申したな、これからはローズで注文をしても構わんぞ。他に何か要望はあるか?」


「高価な糖類を多少多めに仕入れて頂いても構いませんか?」


「それくらいなら大丈夫だな?ルナディ」


「はい、モウ乳の仕入れ値を確認済みですが、現在はまだ低価格でございます。糖類の仕入れが多くなったとしても今までの予算を少し上乗せして頂ければ」


「それ位であれば大丈夫です。ラヴィアン殿、今後もよろしくお願いしますね」 宰相の許可も出た。


「かしこまりました。それと……、もう一つお願いがございます」


 ルナディ様がギョっとした顔になった。たいした事頼まないよぅ、信用ないなぁ。


「ん? 何なりと申してみよ」


「はい、この月の最終に開催されますパーティーの件と今後の事なのですが、私はパーティ用のドレスを持っておりません。これから用意するにも時間がございません。出席をお断りしようかとも思ったのですが、それは失礼にあたると思いますので、出席させて頂きます。ですが着る物に関してどのような物であってもいいという許可を頂きたく存じます」


 ラヴィアンの地味で装飾のないドレスを見て少し気の毒な面持ちで、


「そたながそれでよければ構わぬ 手助けをして上げたいところだが他の貴族の手前それもできぬのでな」


「はい、ありがとうございます。そして今後についてなのですが、この先数年はパーティ等のご招待を辞退したく思います」


 豪華なパーティードレスを毎度作ることが憚れるほどサリスフォードは困窮しているのか、と、皆は益々気の毒に思う。王は仕方なく、


「う、うむ、よかろう。宰相そのように手筈を」


 皆の心証とは裏腹に、今後もメンドクサソウなパーティーに出なくてよいと言質を取ったことに、ヒャッホーのラヴィアンだった。


「その代わりと言ってはなんですが、当日王様と王妃様にプレゼントをご用意いたします」


「う、うむ。無理せずともよいぞ?」 


 多少無理を通した自覚もあり、お返し文化の国で育ったラヴィアンは気が付いたらプレゼントの提案をしてしまっていた。


 あーっ、しまったぁ~、どうしよう…。    後の祭りである。


 部屋を後にする為、挨拶をしようと思っていた時だった。ドアの外が慌ただしくなり次いでドアを叩く音が聞こえた。

 ルナディがドアを開けると騎士が二名青い顔で立っていた。その内の一人が敬礼したあと、


「陛下!王都で大変な事が起こりましたっ!」


  おっと、何事?

  




さてこの物語始まって以来の事件勃発かっ

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