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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
16/45

第16話 めんどくさそうな人物ランキングNO1

 


「なんだこれは!!」


 いきなり怒鳴られ傍に控えていた宰相、ルナディはビクっとした。


「これがパンだというなら今まで食べていたものはなんなんだ!」


 今叫んでいるのはこの国の王様、やっと時間が取れてローズガーデンの端の王族だけが使用できる部屋でローズのパンとの衝撃的な出会いだった。今日まで時間が取れず毎日毎日いつもの硬いパンと味気ない食事をしていたのだが、その間ローズではこの美味しいふわふわのパンを食べていたのかと思ったら急に腹立たしくなって怒鳴ってしまっていた。

 本日の3時のおやつは、そのままのパンとバターにジャム、フレンチトースト(甘くないヴァージョン)薄切り肉を添えたもの、ラヴィアンが最高の出来とうたったトロトロプリンだった。


 フレンチトーストを食べてまた唸り、極め付きのプリンを食べた時には唖然とした顔で木匙を落とした。


「え? お、お口に合いませんでしたでしょうか? 申し訳ございません!」


 宰相とルナディが深々と頭を下げた。


「…………いや、驚きすぎて言葉も無かっただけだ。 怒鳴って悪かったな宰相。いいからそなた達も食べてみなさい」


 そう言われて宰相もルナディも食べ始めたが、プリンを口にした瞬間同じように木匙を落とす寸前だった。


「こ、これは、何とも…」 宰相の手が震えている。


「はっ! 下の方に黒い液体がっ」 


 カラメルゾーンを見つけたルナディが掬って食べてみると、プリンのほんのりとした甘みと少し苦みばしった甘味が同時に口の中を襲い、鼻に抜けるミルクとカラメルとバニラの香りに得も言われぬ至福の瞬間が訪れた。それを聞いていた二人もカラメルにたどり着き、それからは三人共黙々とプリンを口に運ぶのみ、部屋にはプリンを啜る音しかしなかった。 しばし放心していた三人だったが王様が一番に我に返った。


「宰相、バーンズを連れてまいれ。ルナディ、これを作った者を連れてまいれ」


 バーンズとは宮廷の料理長の名前である。


「「はっ、かしこまりました!」」 


  


 そのちょっと前、ラヴィアンは昼過ぎにヘレナちゃんがお茶会を開くというので、昨日作っておいたプリンを持参し、集まっていた取説マニュアルラー博ラーミンを交え食べて貰ったところ、悲鳴と絶叫とお替りの中、興奮し過ぎたヘレナちゃんがまたしてもきゅううう(・・・・・)と言いながら倒れた。医務室へ急いで運びお茶会は解散、やっと一息ついて先ほど食べられなかったプリンを堪能していた。


 ふー、大丈夫なの?あの子、倒れすぎなんだけど……。


「お嬢様、そろそろ厨房へ参りますか?」


「あっ、そうね、そろそろ作り始めないと間にあわない」


 なんでお茶会と王様の三時のおやつが同日に重なるかなぁ、私だけなんだか忙しいような気がする、解せぬっ。



 厨房の食材倉庫の棚にはいつしかラヴィアン専用の場所が設けられていた。部屋の専用キッチンは狭いし保存しておける冷やす機能は備わっていない為、厨房のみなさんが場所を用意してくれた。 ありがたや。


 さてと、今朝卵液に浸して置いたパンをバターでじっくり焼く。その間にピグのバラ肉っぽい薄切りの肉に塩胡椒を振りベーコンの様に少しカリカリに焼いておく。

 ――ベーコンほしいよベーコン―― 

 今日のフレンチトーストは食事系をチョイス、一緒に出すプリンは甘いしね。

 そして一次醗酵済みのパン種を少し取り置き、冷やしておいた。所謂冷凍保存。その辺に置いとけば解凍&二次醗酵はできる。

 フレンチトーストを焼き上げベーコンモドキを添えて一皿完了。パンも焼けた。プリンは昨日作って冷やして置いたものだ。

 三~四人分って言ってたけど王様と誰が食べるんだろう? 

 皿の盛り付け等カリサにも手伝って貰い完成。自分用の甘いフレンチトーストも当然作った。こっちのは生クリームつけちゃうよ。


「でーきた。サンディさん、よろしく~」


「まぁまぁ、まぁ! 本日もすばらしいですね! ではお預かりします」


 ここからルナディ様に預けるらしい。ルナディ様が王様へ届けるという、なんとも手間のかかることで。


 お世話になっている厨房のみなさんにも本物のフレンチトーストを振る舞った。この前食べたのは三人だったし あれがフレンチトーストだと思われても困る。やっぱり粉砂糖がほしいなぁ。どっかに無いかなぁ? 無いよなぁ……きっと。



 三時のおやつも食べ終わり、お茶で一服していると青い顔のサンディさんを伴ったルナディ様が来た。


「先ほどの軽食を用意した者を陛下がお呼びです。カリサさんご一緒に来てください」


 あー、そりゃそうだよね。貴族令嬢が作るとは思わないよね。


「少しお待ちください、ルナディ様」


 と言いながらカリサを近くへ呼んだ。

 聞こえないようヒソヒソと声を抑えながら、


「カリサ、代わりに行ってくれる?」


「無理です。却下です。すぐにばれます。不敬罪に問われます」


 ですよねー。カリサを矢面に出すのはちょっと可哀想だ、ここは腹をくくるか。


「わかりましたルナディ様、着替えますので少しお待ち頂けますか?」


「え? カリサさんはメイド服のままでかまいませんよ?」


「陛下は作った者を連れてくるよう言われたのですよね? ですのでわたくしが参ります」


 ルナディは「え……」と言いながらサンディを見てカリサを見る。二人に頷かれて理解した。


「ラヴィアン様がお作りになったのですか?」 目を見開きびっくり顔である。


「違いますと言いたいところですがその通りです」


 ルナディはこの前のやり取りでラヴィアンに少し苦手意識が働いていた。そして出来れば陛下に逢わせたくなかった。何か失礼な事をしやしないか一気に不安に襲われた。 しかもあれらの食べ物をこの令嬢が作ったということを中々信じきれないでいる。


「サンディさん?」 サンディにもう一度確認した。


「ええ、すべてラヴィアン様がお作りになりました」


「ふぅ、わかりました。ではご用意お願いしますラヴィアン様」


 いかにも仕方ないといった様子のルナディに苦笑いを浮かべるラヴィアン。

 こっちだって行きたくないのに、さっきから溜息ばかりで失礼だよルナディ様。何をそんなに嫌がっているんだか。




 先に部屋へ着いたのはバーンズだった。

 こげ茶の髪の毛を短く切りそろえ中肉中背で少し筋肉質。

 バーンスはなぜ急に王に呼ばれたのか皆目見当もつかなかった。恐る恐る部屋へ入り、


「遅くなりました陛下、バーンズです」


「うむ、早速だがそこにある軽食を食べてみなさい」


「は?」


 テーブルには見たことも無い料理と小さい陶器の入れ物、軟らかそうに膨れている何かが用意されていた。


「それでは失礼して」


 宰相が説明しそれぞれを試食していく。バーンズの顔色がみるみる変わってくる。 


 バーンズにしてみれば、まさに驚愕。その一言に尽きた。


「こっこれはどなたがお作りになったものなんでしょうか?!」


「ふむ、バーンズ、それらを作ることは可能か?」


 暫し考えたのち


「大変申し訳ないのですが材料すらわかりません。ですので作ることは出来かねます」


「そうであろうな。作った者を呼んであるもうすぐここへ来るはずだ」


「は? 王宮に在籍している者なんでしょうか?」


「いや、ローズガーデンだ」


 バーンズは驚いた。ローズガーデンの調理の者達は女性だけだ。男性至上主義とまでは言わないが、女性調理人を下に見ていたからだ。


 コンコンとドアが叩かれる。

 一体誰がこのような料理を作ったのか、どのような者が現れるのか、部屋にいる皆は息を潜め開かれるドアを凝視していた。


「失礼いたします。ルナディです。お呼びの者をお連れいたしました」




 そして、ドアから入って来たのはまだ年端もいかぬ令嬢だった。質素なドレスに身を包み容姿は一言で表せば容姿端麗、整った顔立ちと美しい銀髪の少女だった。


「お初にお目にかかります。サリスフォード辺境伯が娘、ラヴィアン・サリスフォードでございます」  


 カーテシーの挨拶を行いそのまま佇む。

 出来れば逢いたくなかった面倒くさそうな人物ランキングNO1の王への謁見である。


 この美しい少女がこの美食を作った?しかも辺境伯のご令嬢が? すぐに信じられることではなかった為、王側関係者達は思考が停止した状態である。



   じれじれじれじれ ――放置? なぜ何も言わない。  

   先生に怒られて教室に立ちんぼにされている心境なんだけどっ!



 


すみません ここらで少しお時間をいただきます


ラヴィアン:あー いいかもねー 私もちょっと動き回って疲れちゃったし


カリサ:お嬢様 仮にも主人公が何いってるんですかっ しかもここで止まったらずっと立ちんぼですよ?


ラヴィアン: え・・


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