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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
15/45

第15話 その扉は開けないでください

 

  ダンスフロアのドアが開いた。 そこから入って来たのは――



 艶のある銀色の髪を後ろに一つに纏め前髪を横に流し化粧もしていないその顔はそのままで白くシミ一つない。長いまつ毛に陽の光が当たりキラキラ輝いている。不思議な紫の混じった瞳の色、中性的で美しすぎる顔の造形に周囲は目を見張った。

 黒を基調とした男物の礼服は縁取りを赤で装飾され、中に着ている白いブラウスは首の下でフワフワの大きなリボンに結ばれている。丈の長い上着は動くたびに裾が翻る。

 少年と青年の中間位の雰囲気と、この年齢では背の高い1人の人物がそこに居た。



 「「「    え?   」」」


  あれ、みんな固まってる?


「お待たせしました。ファルシー先生?」


「え? ラ、ラヴィアン様ですか?!」


「そうです、では早速どなたからお相手いたしましょうか?」


 「「「 えええええええええーーーー!!! 」」」


 う、うるさいっ。なんで奇声あげてんの?


 この世界の貴族のご令嬢が男装するなんてことはまったくもってありえないことだった。ラヴィアンにしてみれば日本にいた時の感覚で着ているのだが周りとのギャップが想定外に激しい。


 ラヴィアンは家にいる時たまに兄達のお下がりを着ていた。兄達に比べて線が細い為(胸囲についてはお察し)わざわざ体に合わせ仕立て直して貰っていた。母様は悲鳴を上げて反対したが父様や兄達からは、


「悪い虫を寄せ付けない為には、これもいいかもな」


 という寛大な意見をいただき、多数決で難なく楽な服装で走り回ることができた。そもそも日本で暮らしていた時にもスカート類はほとんど履いたことがなかったのだ。


 料理やお菓子作りにドレスはまったく不向きだったからローズガーデンでも着れたらいいな~と常々思っていた。それに勉強するのにドレスはいらぬ、ふんっ。


 カリサは周りから何を言われるか戦々恐々だったが令嬢達を見ると少し挙動が変だった。


 ご令嬢方は今まで貧乏辺境伯に興味もなく、地味なラヴィアンを遠巻きにちらっと見るだけだった。多少整った顔だな位にしか思っていなかったのだがマジマジ見ると中性的で整った美しさにあっけに取られている。しかも男装がとても似合っている為、数人のご令嬢達にはすでに男性にしか見えていない。


「そっそれではお次は、ヘ、ヘレナ様?中央へ」


「ははははっはひ!」


 ラヴィアンも中央へ行き待機した。男性パートは家で兄達とふざけて何度も踊っていたので何の心配もなかった。

ヘレナ様は少し赤らめた顔をうつ伏せに、まるでロボットの様に歩いてきた。


「ああ、ヘレナ様、よかった最初が話したことのある人で、ではお手をどうぞ」


 そう言って手を取って体を引き寄せたのだが……、


「ひゃっ!ひゃぅうううう」


「え? へ、ヘレナ様?」


 顔を真っ赤に染めて後ろに倒れかけた為、慌てて腰を抱いて防いだ。


「「「「「  きゃーーーーー  」」」」  


 周りから更に奇声が上がる。



   いや、何、なんなのコレ?



 気を取り直してヘレナ様を見ると、もうゆでだこの様に真っ赤になっていた。

 ははーん、これはあれか?男の人に対する耐性がまだできていないのか?まだ年端もいかないご令嬢方は籠の鳥のごとく屋敷から出ないもんな~。それとも日本の関西方面にあった女性だけの演劇集団に群がる女性達の心理なんだろうか?ふふ、なんか面白くなってきた。


「ヘレナ様、ダンスを始めますよ?――ピアノ演奏の(かた)よろしくお願いします」


 音楽が流れだしラヴィアンがリードする、ヘレナ様は相変わらず俯いているので、


「ヘレナ様、お顔をお上げください」 といいつつニコっと笑いかけてみた。


 どっきゅーーーーん


「きゅうううううう」  バタン


 倒れてしまった。  え?ここまで耐性ないの? 女だけど私!


 ラヴィアンは遊び半分だったがお嬢様方には違っていた。ここまで整った殿方はそうそう居なかったのだ。ラヴィアンの兄達もそれはそれはモテていたがいかんせん辺境伯ということと本人達がラヴィアン命の為、恋愛による諍いが勃発したという噂も聞かない。なので周りからどう見られるかということに無頓着だった。


 侍女達に運ばれていったヘレナ様を見送りつつ、呆然としていたが、


「つ、次はわたくしです!!」


 と猛然と近づいてくる令嬢がいたので相手をすることにした。


「はっは初めまして、わたくし マ、マニュアル・ヨーデルンですっ。ヨーデルン男爵家の次女でございます」


 名前を聞いたとたん思わず吹き出すとこだった。取説?取説読んでる? しかも今まで何度も逢ってるし、話したこと無かっただけだし。


「マニュアル様、よろしく」


 笑いを堪えながら挨拶しダンスの体制を取る、こちらも赤い顔になってはいるが倒れることはなかった。多少ギクシャクはしていたが一曲を踊り切り終了の礼を執ってからそそくさと令嬢達の輪に戻って行った。 なんかしゃがみ込んでるし周りからワーキャー言われているし。


「次はわたくしでよろしいですか?」


 今までやる気を感じられなかった方々が自ら進んで手を上げている。


 あ、この方はダンスが上手だった人だ。


「初めまして、わたくしラーミン・ミウジアムです。ミウジアム伯爵家の長女です」


 やーめーてー、耐えてる腹筋が震えてきたっ。ひー 腹痛い。  肩を震わせていると、


「いかが致しました?」


「いえ、コホン、よろしく」


 吹きそうでお願いします・・・・・・まで言えない。ダンスで紛らわそう、そうしよう。

 そして笑いを吹き飛ばす為習ったよりも複雑に手数を増やし難易度を上げたがラーミン様は難なくついてこられた

最後まで踊り切り、礼を交わしたとたん、ファルシー先生から盛大な拍手を貰った。


「すぅばらしい! エクセレントです! ラヴィアン様!ラーミン様!」


「ふぅ、ありがとうございます。少し休憩しても?」


「ええ、どうぞお休みください」


 壁際に行き用意されていた水を飲み、少し汗ばんでいたので上着を脱いでブラウスの胸辺りを摘まんで前後にパタパタさせた。ファルシー先生含めほぼ全員が中央で踊っているダンスには見向きもせず、ラヴィアンの一挙手一投足を見守っていた。時々「ほぅ」と溜息が混じる。ダンスをしている二人もこちらを伺っている為何度も躓いていた。


「カリサ、タオルを頂戴」


 タオルを差し出すためカリサが近ずこうとしたが令嬢の一人に弾き飛ばされた。


「どうぞこちらをお使いくださいませ!」とタオルを差し出してきた。


「あ、ありがとうございます。では洗って返しますね」


「いえ!! そのまま返してください!」


  ラヴィアンどん引き


 や やばい、これは変な扉を開けてしまったのか?




 なんやかやとダンスの授業が押してしまって休憩まで潰れ次の作法の授業に着替えることが出来ずそのまま出席 当然作法の先生はひっくり返りました。 なんとか宥めてそのまま受けることに了承を得たがここでも、


「コホン、それでは本日は殿方からエスコートされてお茶を嗜むという一連の流れを、華麗に!優雅に!そつなくこなしてくださいませ。本日は図らずも殿方役がいらっしゃいますので、ラヴィアン様、お願いできますね?」


 ええー……、出来るわけないじゃん。


「その、殿方側のエスコートはあまりよくわかりませんが、よろしくお願いします」


 そこから始まった地獄の時間。お嬢様方のエスコートに慣れているわけもなく(涙)作法の先生の厳しいご指導の元、何人もの相手をさせられた。


「はい!背筋を伸ばしてっ。ラヴィアン様!そこは逆ですっ。はいっそこで椅子を引く!」


 ぐったり。先生、ラヴィアン・サリスフォードは令嬢です。 殿方の作法の指導は要りません……。まかり間違ってデートの時エスコートしちまったらどーすんのコレ。復活したヘレナ様はまた倒れるしっ。


 ほぼ全員の相手が終わる頃には殿方の作法を完璧にこなせるようになった。


「すばらしいいいい、完璧です! ラヴィアン様、今の流れをお忘れなく!」


   ちょっとっ……、お忘れなく   って。


 椅子に片手を乗せ、ぜぇぜぇしているラヴィアンに、こそっと近づいて先生がヒソヒソおっしゃいました。


「ラヴィアン様、次回もよろしくお願いします。令嬢方がやる気に満ち溢れておりますので。ほほほ」


 ほほほじゃねいわYOっ! 意味わからない、私の令嬢としての作法はどーすんの?   


 しかし暑い疲れた、ふぃ~。


 暑くて我慢できずにブラウスのボタンを外しパタパタ始めると周りからまた「きゃーー」という奇声が。恥ずかし気に手で顔を覆っているし。だから同性だっつーの、指の隙間から覗くなっ、そこ!



 やっと授業が終わり部屋へ戻ってぐったりしているラヴィアンにお茶を出しながらカリサが言った。


「お嬢様、(わたくし)今のお嬢様にぴっっったりな言葉を知っています。 ――自 業 自 得!」


 

    カリサを見ると額に青筋が立っていた。





まさに自業自得


カリサの苦労が偲ばれる

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