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辺境伯ご令嬢は斜め上の日常を歩む  作者: 黒鶺鴒
ローズガーデン編
13/45

第13話 白い物赤い物 各種取り揃えてございます

  



一方王宮では王が執務室で簡単な昼食を終えた頃、宰相が入室してきた。



「陛下、お食事はお済ですか?」


「ああ、終わった」


「今朝ローズガーデンへ招待状を預けてまいりました」


「そうか、ごくろう」


「それでですね、丁度朝食の時間でしたので頂いて来たのですが」


「どうした?」


「驚くほど美味でした」


「朝食がか?」


「そうなんです。パンは見たこともない形状で香り良く更にフワフワで、そこに添えられたバターなるものを付けたらそれはもう至福の味わいでした。そして単に野菜の煮込み?も食べるのを止められない位の物でした。

 昼食を王宮でいただきましたが……パンが…それはもう残念な味わいで……」



「い、いつもの昼食だったが?」


「失礼しました。――それでですね、陛下にも用意するよう指示をしたのですが、少し問題が」


「なんだ」


「モウの乳が使われていると」


「モウの乳?」


「はい、貴族では食する者は居られない為、お出しするわけにはいかないとのことで」


「いや、ローズガーデンの子女も貴族だろう? して、なぜ今までモウの乳は使われなかった?」


「はい、食すれば体調を崩すと言われてます。市井でもあまり流通していないようで、ほぼモウの生産者が食す程度とのことです」


「ふむ、で、そなたの体調は」


「特に変わりなく。 どうやら何かをすることによって安全に食せるということでした。あのように美味なるもの、私だけ頂いた事に大変申し訳なく、陛下にもいかがかと思ったのですが、モウの乳を使用しているとのことで許可なくお出しする訳にもいかず……」


「えーい、話を聞いてるだけでも食べてみたくなったではないか!」


「それでは明日の朝食に用意するよう指示しておきますが、よろしいですか?」


「朝食まで待てぬ!毎日毎日代わり映えのせぬ食事で飽き飽きしていたのだ。本日の夕食、いや、その前の軽食に持ってまいれ!」


「モウの乳ですが、よろしいですね? もちろん毒見は私が致します」


 宰相は心の中でガッツポーズ。王宮に戻りいつもの昼食を食べゲンナリし、朝のパンを思い起こしなんとか許可を取り付けようと早々に動いたのだった。





 


 ローズガーデンの渡り廊下を青い顔で走るサンディ

  


(まずいわまずいわまずいわ! 助けてーーラヴィアン様ー)



 ドンドンドンドン


 いきなり大きな音でドアを叩かれラヴィアンとカリサがビクっと驚いた。


「ラヴィアン様! ラヴィアン様!」


「サンディさん!どうしました血相を変えて」


「あっラヴィアン様! 王宮からパンを所望すると伝令が参りました。しかも軽食にと!」


「え?いきなり来たわね。しかも軽食って……すぐに出せってこと?」


「そうなんです。すぐになんか無理です。まだ生地すら出来てないのに……」


 サンディは涙目でラヴィアンに縋りついた。


「取りあえずパンは生地が無いのですぐ作れないと連絡してもらって、代用の物でかまわないかお伺いを。さっき作ったスコーンでなんとかお茶を濁して貰えないかな」


「あ、そうですね、あのスコーン?なるものならすぐに作れますよね。早速ルナディ様に連絡してもらいます。 そ、それでスコーンを!ラヴィアン様ぁぁ」


「あ~、失敗はできないわよね。わかりました。―バターはできてますか?」


「ええ、先ほど分けていただいたクリームで作っておきました」


「それじゃ早速作りましょう」

  

 (ちょっと宰相さん、はやくね? 簡単に作れると思ってね? ったくもー)



 バターを使って本格的に作ったスコーンは更に美味しいとみんなに太鼓判を貰った。

   

 干しぶどうを混ぜた少し甘めの物、甘さを控えジャムや生クリームを付けて頂くもの2種類を作り、添え物にはモウ乳を使ったふわふわオムレツに朝のラタテュユを掛けた。オムレツはバターで焼いたので香りが今までとは格段に違う。ラタテュユモドキも、時間が立って、更に倍!って感じに味が馴染んでいる。


「できた!サンディさんこれで大丈夫?」


「ええ、ええ、申し分ございません! それでは早速ルナディ様へ。それとこれらの物はサリスフォード領特産ということで説明しておきますが、よろしいですか?」


「あー仕方ないか~、う~ん」


 納得できないけど、サンディさんを矢面に立たせるには気の毒だし、無理やり納得する。

 

 陛下の食事は必ず毒見をするそうだ。作ってすぐ食べて貰いたいけどそうもいかないのだろう、残念だなぁ。


  



  管理官室



 サンディから軽食を受け取ったルナディはそこで待っていた宰相へ渡す。


「ほぅ、これは朝食で食べた物ではないな?」


「ええ、パンを作るには時間がかかる為代わりの軽食、スコーンをご用意したと言われました。なんでもパンを美味しくする為には一晩寝かせると言ってました」


「なるほど、それではすぐにはできないな。では早速あじ……ゴホン、毒見を」


 ルナディは自分が毒見をすると進言したが、宰相が自分がすると譲らなかった。

 毒見をした宰相はまたびっくりした顔をしうんうんと頷き、


「この白い物は……、朝の物とまた違って、素晴らしい香りだっ。しかも凄くやわらかい。ああ、しかもこのパンらしき物も、朝のパン程柔らかくないが、どちらも甲乙つけ難い!卵料理も絶品だ!これなら陛下も納得するだろう、早速お持ちする!」


 一日のうちに、知らない食べ物(パンは知っているが、朝、食べたパンと比べたら、今までなぜあれで満足していたのか)それも破格に美味しい食べ物を食して、驚きと興奮が体の中を駆け巡った宰相だった。


 味見…毒見をしてそそくさと立ち去っていく宰相の後姿をみながら、あれはパンじゃなかったけどどのような味だったのか?   

 ちっ、毒見をすると言っても譲ってくれなかったしっ!

 卵料理もすごく気になった。今日の夕食に出ないかしら……と思いに更けるルナディだった。






  王執務室



「ほぅ、これが言っていたパンか?」


「いいえ、申し訳ございません。パンは作るのに時間がかかるとのことで、代わりに作られた物スコーンとのことです。ですがそちらも初めて頂きました。毒見をさせていただきましたが、正直私の分も頼めばよかったと後悔しております」


「ふむ、では早速」


 まず干しぶどうの入っている物を口に入れる。


「これは……菓子か? いやそこまで甘くないな、――こちらのはこの白いのや赤いのを付けるのだな?」


 白いクリームを付け、スコーンを食べた陛下は、一瞬止まってびっくりした顔になった。

 少し口の中の水分が取られるので紅茶をすすりながら交互に食べ進めていく。

 いつの間にかほんのり笑顔になっていく陛下を見て宰相は安堵した。



「こ、この卵料理はまたなんと柔らかで上品な味わいなのだ、そして香りがすばらしい。今までこのような卵料理は食べたことがない。これもモウの乳が使われているのか?」


「そう聞いております」


「それにこの野菜の煮込みも美味だな、この卵と併せるとまた格別になる」



 今まで見たことも無い位美味しそうに軽食を食べる陛下を見て宰相も嬉しかった。


 国を背負い、日々忙しく謁見や国政を担う王に自由な時間は余りない。楽しみもほとんど無いに等しい生活で、気を休めることが出来るのは食事時位しかないのだ。その食事も安全なもの限定で、食材も乏しくいつもほぼ決まりきった物しか食べていない。暖かい食事も毒見やらで時間を取られ、陛下が食べる時にはすでに冷めている。堅苦しい王宮の中でせめて食事位は楽しんで貰えたなら、そんなに嬉しい事はなかった。




「ふー、いや実に楽しい軽食だった」


「それはようございました」


「これを作った者はローズの調理場の者なのか?この者を王宮に呼ぶことはむずかしいのか?」


「はい、それがローズの調理場の者がある方に指南されているようで」


「? ローズは男子禁制だったな、一体誰に指南されているのだ?」


「サリスフォード家ということです」


「サリスフォード? またサリスフォードか、侍女がこれほどの腕前なのか?」

 

「と、思われます」


 貴族令嬢が作るなんてことは考えられないので、侍女が作ったのだろうという結論に達した。


「う~む、王宮でサリスフォード家の料理人を召し抱えるというのは職権乱用に当たるのか? しかし侍女もこれほどの手際なら料理人一人位なら……」


「しかし陛下、料理程度と言ってはなんですが、このようなことでサリスフォード家に借りを作るのはいかがかと」


「オウエンにそのような心配は無いと思うが、王宮の食事が変わると貴族達が追及してくるか?そうなるとサリスフォードから料理人を召し抱えたいと訴える者も出てくるな。そうなると一人程度という話ではなくなるか……うーむ。

 それではどうするのだ?もう以前の味気ない食事に戻りたくはないぞ? まだパンすら食べてはおらん。毎日退屈している王妃にも先程のスコーンとやらを食べさせてやりたいのだが」

    

「「ふむ……」」


「王宮の調理場の者を向かわせるということも男子禁制なので出来かねますし、その前にモウの乳が受け入れられるかの問題も」


「貴族どもは頭の固い者が多いからなぁ、いっそのことこちらから行くか? 先ほどの卵料理も冷めていた、出来立てならどれほど美味なことか、ローズに部屋はあるのだろう? ルナディに監視させておけば毒見の必要もない」



 たかが食事、されど食事。

    

 楽しみの少ない王にとって先ほどの軽食の美味しさは衝撃だった。

 どのような食材であろうと楽しいことに飢えている王は気にならなかった。

    

 食事で幸せが得られることを覚えた人間はもう後へは戻れない。

 その為の行動力に制限は無くなる。

    

 美味しい食事は誰をも幸福にするのだ。



 現代においても世界中から日本へ来る目的に、美味しい食事と上げる人々は少なくない。

 この異世界の食育の貧しさは貴族にも当てはまるのだ。

 

  

   ラヴィアンはそれが残念でならなかった。





まだまだ暑い日々ですがみなさまいかがお過ごしですか?


仕事帰り少し遅くなるとすでに虫の鳴き声が・・

秋が近づいてきましたね~


天高く馬肥ゆる秋   秋だけじゃなくいつでも食べることが大好きな筆者です。

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