第12話 シュワシュワ?アワアワ? By貞子
ラヴィアンの部屋
午前中の講義の終わりに手渡された招待状を見ながら、
「カリサ、私の衣装でパーティーに出席できるものってある?」
「……少し厳しいかと」
「そうよね、じゃあ欠席で」
「おっお嬢様! そそそれはなりません!」
「なぜ?」
「陛下直々の招待状ですよ? しかもラヴィアン様個人名ですっ」
「パーティードレスなんて今から用意は難しいでしょ?」
「ですからいつもいつも言っていたんですよ 少しはドレスに気を使ってほしいとっ!」
「――ま、まぁ、ドレスが無いのでって理由でなんとか……ならないかな?」
「王家から旦那様に何か言われないでしょうか?」
「わからない、ちょっと父様に手紙書くわ」
手紙を書いていると誰かがノックしたのでカリサが対応に出た。
「すみません サンディです」
「あぁ、サンディさんどうしました?」
「あのラヴィアン様は?」
机から顔を上げ
「どうぞお入りください。少しだけお待ちくださいね」
暫くすると手紙を書き終え
「カリサ、これをお願い」
「かしこまりました」 手紙を受け取ってカリサが退室する。
ソファに待たせていたサンディの前へ座る。
「お待たせしました。 どうぞお茶でも」
「はい、あの、何から話していいやらですね……」
「パンのことですか?」
「それもあります、いえ、それにかかわることで……」
「はい」
どうしたのかな?誰かお腹でも壊したかな?
「今朝宰相様がいらっしゃいましてルナディ様と朝食を召し上がりました。バターとジャムが少しありましたので良かれと思いお二人分にだけ添えてしまいました。宰相様がパンを気に入られ 陛下にもとおっしゃられて、――お断りする為にモウの乳を使用していると説明しました。
そして先ほどルナディ様から、もしかしたら陛下にも召し上がって貰うかもしれないので作った者、教えた者が誰なのか教えてほしいと言われまして……」
「………………」
うっわー、なぜこのタイミングで宰相が来てんのよ……。
「そ、それならあのパンを作る係?の人が作ったとごまかせない?」
「ラヴィアン様が名前を伏せたいとおっしゃっておられたのでパン係、ルースに聞いてみたところ、そんな大それたことできないとのことで、どうしましょう?」
「う~~~ん……、それじゃサリスフォード領特産のパンということにして、レシピは教えられないけど作ったパンだけは提供できるとかなんとか……」
「それにそのパンなんですが、昨日の材料を揃えるのに時間がかかりますので、明日からのパンが元に戻ってしまいます……」
「あー、みなさんの反応はどうだったの? って聞くまでもないか」
「それはもう大変な騒ぎでしてっ!私達厨房の者にパンは残りませんでした!」
「そ、それはなんというか残念? だったのかどうかはわからないけれど」
「あのパンは革命です! 残念すぎます!」
叫びながらテーブルにバン!と勢いよく手を打ち付けた
「! いや、革命って……。ということは陛下の許可が下りた場合、宮廷でも出されることになるってことね? そして明日からのここのパンの問題もか~、とりあえず一週間位なら酵母もあるしなんとかなりそうだけど」
「本当ですか!」
「え?えぇ、ただ、それ以降、量産ができないとなると困ったわね…、ここの厨房で全部まかなうとなると結構大変な作業になってしまうし。とりあえず許可が出たとしても王族にだけ献上するってことにしてもらえないかしら?」
「王族にだけですか?」
「宮廷に何人いるかわからないけどそれだけの量は無理でしょ? まずバター作りが大変だし、恐らくモウ乳生産量も多くなさそうだし、酵母も1週間はかかるし」
「酵母は毎日漬け込めば?」
「酵母作りは全て成功するわけじゃないのよ、繊細で失敗も多いと思うし……、まずバターをなんとかしないといけないわね。サンディさん、モウの乳の生産者の所へ行けないかしら? 私も」
「そ、それはどうでしょう……、ルナディ様に相談してみませんと」
「隠れて行けない?」
「隠れてですか?!」
「だって許可出るまでとか時間かかりそうじゃない? 今日これからでも行ってみたいんだけど」
「こ、これから!?」
「商品納入の人の馬車に同乗できない? 私も厨房の1員ということで」
「ばれたら……」
サンディさんが青い顔になった。
そうか、そうだよねー。私だけなら怒られて終わりだけどサンディさんは処罰を与えられかねない。
ちっ、外に出れると思ったのに!
「それじゃあ、モウ乳の生産者を呼ぶか、調理場総出でバターを作りまくる」
「生産者を呼ぶとなると男性を招くことになりますので許可までに相当な期間が……」
「となると調理場メンバーにがんばってもらうしか」
「そうなりますね、とりあえず早急にモウの乳を届けるよう依頼します。 それでですね、本日の昼食のパンについてはいつものパンを急いで作ってますが、夕食にあのパンはできますでしょうか?」
「うーん…………、 !! そうだっ、もう少し簡単な物を作れるかも、サンディさん、なんか口の中に入れてシュワシュワするものってありませんか?」
「シュワシュワ?ですか?」
「水をかけるとアワアワするというか」
「アワアワ?――あっ、えーと洗い物する時に使うことがある粉の塊がありますが?」
「粉の塊? それは食べても問題ありませんか?」
「まぁ、口に入っても無味ですし、特に体調の変化も無かったと思いますけど」
調理場の面々が忙しく昼食を用意している傍ら、サンディさんにその塊を見せてもらう。白っぽい塊でナイフで削ると簡単に粉になった。少しなめてみたがすこーしだけ苦味がある程度でほぼ無味無臭だった。
これは重曹に近いんだろうか? 量は少しでいいし、試しに作ってみよう。そうしよう。
なんとなく食材として使っても問題ないような気がした。
転生してからこの勘は外れたことがない。なぜか?わからないけど危険なものや安全なものが何となく解る。
不思議だ。
≪超 能 力≫ 人はそれをそう呼ぶ。 貞子か?貞子になってしまったのか?
心の中で一人でわーわー言ってる虚しさよ……。
粉、生クリーム、塩、少々の砂糖、でいいか。
確かバターの代わりに生クリームでもOKだったよね、バター作るの疲れるし。
手を洗って早々とりかかった。
粉類を混ぜてから生クリームを入れていく、少し纏まる程度のサラサラの生地になるようにっと。丸めて冷温室で少し寝かす。
昼食の時間になりこっそり様子を伺ってみると、明らかにガッカリした侍女達が、プクク。
すまんね、昼の事すっかり抜けてたよ。
その様子が可笑しくてニヤニヤしてしまった。――てゆうか、お嬢様方朝食食べ過ぎ!
「サンディさん、あのパンは二~三日に一回出すってことにしませんか?」
「今の状態を見ておっしゃってます?」
ですよねー、何やらすでにいつものパンに対する視線がまるでゴミでも見るような……。
「いや、別に私が作るわけじゃないのでサンディさん達が良ければいいんですけど、作業的に大変じゃないかと」
「う~ん、バターは日持ちはするんですか?」
「冷やしておけばある程度持ちますね」
「でしたら一週間分纏めて作っておけば毎日それほど手間にならないと思いますよ?」
「それもそうね、サンディさん、一度モウ生産者の奥さんを呼んでほしいんですけど。女性なら呼ぶのに許可はいらないでしょ?バターを作る為にモウ乳を仕入れてるとクリームを取り終わった乳だけ大量に余っちゃいますから」
「そうですね、わかりました」
話しているところへカリサが小走りに近づいてきた。
「お嬢様!こんなところにっ。昼食はどうするんです?」
「あ、カリサ、丁度よかった。また道具箱持ってきて~」
サンディさんは食事もそこそこに今度は何ができるのか期待の眼差しを向けている。
先ほど寝かせた生地を練らないようにめん棒で伸ばして三つ折り、また軽く伸ばすを二~三回繰り返し、型抜きが無いので適当に切り分け焼き窯で一二~一三分焼く。
簡単だよねー、スコーン♪
生クリームを掬い、冷やした場所で泡立てる。
「サンディーさん、ジャム作りました?」
「ええ、作ってみました」
皿にはスコーンと生クリーム&ジャムの軽食セットが出来上がった。
「さて、どうかなー」
表面は焼きたてでサクっとして中はふわふわ、生クリームとジャムの相性もバッチリ。
メープルシロップかけたいね~、ケン○ッ○ーが懐かしい……。
「どうですか?みなさん」
「こ、これは……、パンなのでしょうか? でも簡単すぎますよね? お菓子にもなりますね。でもパンの代用にもなりますよね? なんだかよくわかりませんが美味しいということだけは確かです!」
「この白いふわふわした物も、素晴らしい香りですね! くせになりそうですっ!」
周りも、は~だの、ふ~だの言いながら、パン? お菓子? と騒いでいる。
概ね合ってるよ、気の持ちようでどっちにもなると思うよ?
でも、生クリームの食べ過ぎは注意ですよ~。キケンキケン。
「朝にパンを出して足りなくなったら昼は大変なのでこれでいいんじゃないですかね?」
「ええ、ええ、これなら文句はでないでしょう! この生クリーム?とジャムはちょっと手間ですけど」
「これはお菓子としていただく時に用意すればいいと思いますよ?パンの替わりならこのスコーンだけでいいと思いますけど。本当はバターで作るんですけど時間がなかったら生クリームでも作れるし」
「益々モウの乳の必要性が上がってしまいましたね、これはっ」
それからバター作りとスコーンの作り方等々教え、作っておいた酵母を預け、昼食分のスコーンを持って調理場を後にした。
あー!ピタパンのがもっと簡単だった! と気が付いたが後の祭りだった。




