第1話 ローズガーデン
初めての投稿になります。
基本ほのぼので食関係が多めになると思います。
$ローズガーデン編$
4頭立ての馬車が大きな門の前に到着した。
警備の騎士が6人配備されている。
その門は大きなアーチ型で、花や葉のレリーフが美しい。
門が開くと、奥まで続く道には両脇に木々が生い茂り、おのずと行先を示している。
突きあたりには、王宮の別邸といえども、それはそれは広大な土地に建物が点在している。
真ん中に建つ宮殿は高さは無いが大きく、そこが中心であると一目でわかる存在である。
――王宮の別邸 ローズガーデン――
貴族の令嬢が集められる場所である。
いわゆる後宮という場所とは趣が違う。
この国の貴族の令嬢のほとんどは学園に通わない。
子息に関しては学園に在籍し、そこで将来の行先を学ぶ。もちろん長男には跡継ぎとしてのなんたるかを、次男から下は騎士や宮廷に関わる事柄、世界の情勢等を学ぶ。
令嬢に関しては、やはり家と家との繋がりの為の駒である。ようするに政略的結婚が横行している。すべてがそうとは言わないが……。
男に学園があるように、女にはローズガーデンがあるといえばいいだろうか。
他国に嫁ぐ場合も多々あり、この国の淑女として恥ずかしくないよう作法等を学ぶ。
ようするに国として見栄を張りたいのだ。
この国の紳士淑女はどこに出しても恥ずかしくないですよ……と。
ここローズガーデンは男性の立ち入りは極少数に限られている。
まぁ、か弱いご令嬢なので何かあっても抵抗できない訳で、発展的な令嬢もいるにはいるが、年齢的にも厳しいものがあり、その行為そのものを知っている令嬢も少ないだろう。
集められるのは12歳~15歳。まだまだ子供である。そして半年以上(希望制)ここで過ごす。現代日本と比べると、まだ子供の年齢だが、考え方や立ち居振る舞いはまさしく大人だ。
先ほどの馬車が、真ん中の宮殿に止まり、1人の令嬢が到着した。
辺境伯令嬢ラヴィアン・サリスフォード12歳。
艶のある銀色の髪、グレーに紫の交じった瞳の色、背は高く細身。
化粧も施してないであろう幼さを残した面影であるにもかかわらず、少しめんどくさそうな、不釣り合いな顔つきで、馬車から降りてきた。
( おー 快晴 空は青くどこまでも青く雲一つもな……あった)
内心でどーでもいいことをつぶやきながら、先に降りていた侍女のカリサに手を取られ馬車から降り宮殿のホールに向かう。
「ようこそローズガーデンへ」
40代半ば位の見た目厳しそうなご婦人に出迎えられた。
「ラヴィアン・サリスフォードと申します。どうぞ宜しくお願いします」
「ええ、伺っております、ラヴィアン様。私くしはここの統括を担っております、ルナディ・バンガーランドですわ。本日より、お帰りになるまで責任を持って、ご指導させていただきますわ」
メガネがあるならクイッっとしてただろう、してないけど。
――風紀委員長でたっ――と思いながら、
にっ と笑ってみせた。およそ12歳とは思えない笑みを浮かべて。
「こちらのお部屋をお使いくださいませ」
ローズガーデン付きの侍女に案内されたのは、一番端の角部屋だった。
実家が辺境だから端っこなのか? ま、いいけど。
入ってすぐにテーブルが置いてある。壁に沿って机もあり簡易本棚が壁際にある。
右側の部屋が簡易キッチンと小さな侍女の寝室、左側にトイレと壁を隔てて簡易的なお風呂?だろうか少し大きな深めのバスタブもどきが置いてある。
メゾネット方式の部屋で、主賓室、ベットルームは螺旋階段の上にある。
さすがに国の施設ね~、何この贅沢な個室。
まぁ貴族相手だとこうなるのか。
お金持ち貴族の寄付もあるんだろうなぁ、家は無理だろうけど貧乏貴族だし。
モンペ(モンスターペアレンツ)もハンパないだろうなぁ~、コワイコワイ。
「お荷物はこちらでよろしいでしょうか?」
宮殿付きの侍女たちが荷物を運んでくれた。
「はい、ありがとうございます。その辺りに置いてください」
侍女のカリサが応対する。
「では後ほど注意事項を書き起こしたものを届けさせます。着いたばかりですから本日はごゆっくりおすごしくださいませ、それでは失礼いたします」
優雅に礼をし、ルナディ様が帰っていった。
「ふ~、ちょっと疲れた」
「お茶でもお持ちしますか?ラヴィアン様」
「ええそうね、お願い」
~~~~~~~~~~
パタンと音を立て管理官執務室のドアが閉まった。
「サリスフォード……本当に令嬢がいたのねぇ」
「どうされました? 管理官」 管理官補佐のユリアが尋ねた。
「いえ、なんでも無いわ。今回の受け入れはこれで最後かしら?」
「えーと、いいえ、明日位にベルジック子爵令嬢がまいりますわ」
「あー、そうだったわね。今回は十五人だったかしら?また忙しくなるわね~ フフフ」
「管理官……楽しんでません?」
「いえいえ、めっそうもない。ホホホ。ああそうだユリアさん、サリスフォード辺境伯令嬢にお取決めの書面を持って行ってさしあげて」
「かしこまりました」
(絶対楽しんでるわよね~ かわいそうにまた餌食にされる令嬢達……ブルブル)
~~~~~~~~~~
内心でほくそ笑んでいる管理官をよそに一息ついたラヴィアンの部屋
コンコン
「はい」
「失礼します。管理官室からまいりましたユリアと申します」
「どうぞお入りください」
「ローズガーデンのお取決めの書面をお持ちしました」
「ありがとうございます」
「ご不明な点がございましたら何なりとご質問くださいませ」
カリサが受け取り、渡された羊皮紙には、細かく箇条書きにされたローズガーデンの取決め等が記されていた。
「わかりました。質問があれば明日にでもさせていただきます。ところで、本日はもう館内を歩いてもかまいませんか?」
「ええ、かまいません。その最後の紙に簡単な見取り図がありますのでご参考にどうぞ。それからその書類は退館の際に返却になりますので無くされませんようお願い申し上げます。それでは失礼いたします」
紙は高いからね~、配ってそのままは無理だよね。
はーー、何もかも遅れてる……。
なんでこんなとこに来ちゃったのかなぁ……。
そして4年前を思い出す。
そう、ラヴィアンは転生者だった。
日本の普通の家庭に育ち大学を卒業後就職して四年目のある日、この世界に突如転生した。――ラヴィアン八歳の体へ――。
そのきっかけを覚えてないんだよなぁ……死んだのかなぁ……?
思い出せないなぁ、相変わらずその辺がぼやっとしてる。
最初はパニクったなぁ。中身26ですよ、体8歳ですよ。
てゆうかラヴィアンの意識の上に私【岬 玲】が覆いかぶさった感じ?
ラヴィアンの知識も残ってる。
てことは過去のどこかの自分の魂に戻ったって感じかなぁ?
不自然な違和感が無いっていう違和感……なんのこっちゃ。
いやいやここは過去じゃないのよ、なんせ魔法があるんだから。
その事実を知った時は驚いたのなんの。
裏の雑木林でごろごろどすんと滑り落ちてる時に【岬 玲】が浸透したんだよね~。
それから意識不明になって更に一週間熱出して寝込んで、
背がちぢんだ~? 手がちぢんだ~? 髪の毛が黒くない~?
鼻がちょっと高い~ 両親がいるけど知ってる両親とちがーう
違うんだけど両親だ~ 兄も2人いる~ 知らないけどなんか知ってる~。
家族超美形~ うさんくさい~(経験値による個人的感想)
熱にうなされながら現状を確認していた。
夢かな~、夢だな~、夢だ~。と、うつらうつら考えながら、熱が引いた頃やっと現実が見えてきた。
――これが所謂、異世界転生というやつか――
どうせなら生まれるとこからにしてほしかった。
まぁ昔から適応能力は高かった気がする。悩んでもしかたない、受け入れよう。
受け入れるしかないともいう。
いいのか?こんな能天気で。ま、いっか、しょうがない。
家族と暮らしてみればうさんくささも無くとても良くできた両親と兄たちだった。
そして当然目覚めた後は黙って出歩いた事をこんこんと叱られた訳だが……。
「~~様」
「お嬢様」
「ラヴィアン様?」
……ん? 「はい?」
「またぼーっとしてましたけど、お疲れですか?」
「あー大丈夫。それより、ちょっと館内を歩いてくるわ」
「え? 今からですか? このお取決めによりますと後数刻でお夕食のようですけれど」
「そう、それよそれ。食事事情を知りたいなーー。ここにも台所があるけど、自分達で調理とかしていいのかしら?」
「そうみたいですね、高貴な方々の集まりですので何かと物騒なこともありえますよね……、毒とか、毒とか、毒とか」
「な、何度も言わなくてもいいわよ……」
この世界の命は軽い。市井の人々に対しては特に……。
王制、貴族社会での身分制度は強く根付いている。不敬罪で処罰なんてのも聞いた事ある。
悪政を敷く貴族もいるだろうし。家はそんなことしてないみたいだけどね。
暗殺、毒殺、人攫い、奴隷(犯罪者のみ)etc
「いえ、気を付けていただきませんと……心配です」
「えー?大丈夫よぅ、辺境伯よ? それに私よ? 誰のじゃまになるというのよ。ふふふーん」
「いえ、何が起こるかわかりませんから用心に越したことはございません。それからなんですか?その笑い方は!」
「あーはいはい、ごめんなさい。外ではねこ か ぶ る し」
「……ねこかぶるの意味がわかりませんが、わかりました。それでどちらにいかれるのですか?」
「厨房とかあるわよね?」
「えーと、――見取り図によりますと、通路を渡った向こう側にあるようですね」
「そう、じゃ行ってみるわ。 カリサは荷物を片付けておいて?」
「え?厨房? お一人で行かれるのですか?」
「館内なら安全だし、男性もいないみたいだし、平気でしょ?」
「…………仕方ありません。お荷物もこのままという訳にもいきませんし……。よろしいですか?危ない事はやめてくださいね?」
「歩くだけで危なくなるわけないでしょう? 心配性ねぇ」
といいながらラヴィアンは部屋を後にした。
そしてなぜ貴族のご令嬢が厨房へいく……。