第十六話 マーリル、逃げ出しました
お久しぶりです。久しぶり(ええ、一年ぶりです)すぎて、マーリルと一緒にジャンピング土下座をしたいと思います。
一年経っていてもしおり数がそれほど減っていないことに驚愕とともに、嬉しさでいっぱいです。ありがとうございます。
今までのあらすじ(↓)を掲載します。ちなみに本日は2話更新しております。
●今までのあらすじ
主人公真亜莉の双子の弟妹が行方不明になって1年が経った頃不思議な手紙を受け取った。そこには弟妹たちが異世界トリップしてしまったことが書かれていた。真亜莉はそれを元に異世界に行くことを決意する。どうにか辿り着いた先で真亜莉が本来はこの世界の人間であること。『ウル』という王族が持つ力を有していること。そのウルを持つことにより死亡フラグが立ったことを知る。真亜莉は弟妹たちがいる『ストロバリヤ』という国を目指すとともに、死亡フラグを折る手段を知るためにマーリルという男(の子)冒険者になって王都を目指す。
危機感の足りないマーリルは、王都サンドイへいく途中に大小様々な事件に巻き込まれる。そこで出会ったのは『ディスト』と名乗る見た目厳つい、中身おかんな『混じり』と呼ばれる渡り人の血を持つ男であった。
ディストとともに漸く王都へついたと思えば『始祖種』と呼ばれる化け物の襲来と、今まで見たことのない『カンジ』が彫られた透明な魔物との遭遇であった。前線で戦っていたマーリルだったのだが、何かを発見しその場にいた魔術騎士団団長センルター・サツキリアを置き去りに戦線離脱するのだった。
戦場に残された使い魔であるディアは、溜め息だかエールだかを送っていた。クルルー。
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マーリルは歪む地面を見ながら走っていた。
魔物を撃退するために目に魔力を纏わせたままにしていたため、魔眼を発動しっぱなしにしていた。結果、再び発見してしまった。
――透明な蟲型の魔物
ここは王都から徒歩で一日ほど離れている場所だ。魔物たちはここを通り王都方面へ向かっている。しかし途中に人がいれば襲わずにはいられないらしく、騎士団や軍が王都とは違う方に誘導しながら戦っている最中だった。
そんな中誘導に引っ掛からず、呑気にもマイペースに王都方面へ向かっている蟲型の魔物――今度はカブトムシのような角の生えた蟲だ――は酷く目立っていた。タメーニ兄妹と話している最中にそれが見えて、咄嗟に追ってきてしまったのだ。
ただ遅い。とてつもなく鈍足だ。身体強化した足だとすぐに追い付いてしまった。横に並んでいても、此方を気にした様子もなくマイペースにしゃかしゃか歩いている。殺気が感じられないのは街中にいた団子蟲と同じだ。
この蟲がひいてはこの蟲を透明にした奴が何をしたいのかがわからないが、とてつもなく嫌な予感はする。普段危機管理能力の乏しいマーリルは、そんな本能的な勘が発動したときは疑わない。
(絶対なんかある!)
このままこの蟲に着いていこうか、それとも王都へ飛んでしまおうか。そう悩んでいたときだ。
『お前、見えるのか?』
そんな声が後方から聞こえてきた。
日本語で。
ビクッと勝手に肩が震え背筋が粟立つ。これは警鐘だ。嫌な予感の正体は確実にマーリルに声をかけてきた男――蟲に漢字を施しただろう『日本人』だ。
マーリルは本能に従うまま、飛んだ。
▽
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
眼下に王都を見下ろせる位置に飛んだマーリルは、呼吸を落ち着かせようと荒く息を吐き出した。
「な、に、あれ…………」
得たいの知れない恐怖を感じたのは初めてだった。殺気が合ったわけではない。もしもあのまま攻撃を仕掛けられたら『全ての邪気を祓うモノ』は発動しなかっただろう稀薄な存在。
確かに日本語であったし、渡り人なのだろう。しかし何かが違う。何かわからないが、マーリルと、人間とは決定的に何かが違う。マーリルはそう感じた。
だからこそ恐怖した。何かがわからないからこその未知への恐怖だ。
転移は失われた魔法らしいので、そうそうここまで追ってくることはないだろうと思い直し、眼下にある王都を魔眼で見渡した。
「1、2、3……全部で5体」
マーリルが見付けただけで歪んだ箇所は見渡した限りは五ヵ所だ。ただ、やはり何を目的としているかがわからないのでそのまま進んでみることにした。
「行ってみよう」
今王都では厳戒体勢が敷かれ結界が張られているため直接転移は出来ない。無理矢理――力任せともいう――しようと思えば出来そうだが、結界が壊れてしまっては困るのでとりあえずマーリルは走って向かってみることにした。
透明な蟲は三ヶ所が王都の外に、二ヶ所が既に中へ入っている。時間がないので外の蟲は放置した。
「止まれ!」
門の前で止められたマーリルは、門番に誰何されたので素早く首からかけたギルドカードを取りだし冒険者だと示す。しかしいつも以上に厳しい審査をしているのか、質問や視線が厳しい。
(ああもう!!時間がないって言うのに)
誰かいないものか、と辺りを見渡す。
既に大規模討伐のために総司令官も騎士団長や将軍、Sランク冒険者も街にはいない。
「あ!!」
漸く見付けたのは騎士団の詰所にいた、明らかにマーリルを目の敵にしていた副隊長である。
「貴様!こんなところで何をしている!!」
「副隊長さん!!」
マーリルが総司令官や王族と既知の仲である冒険者だと言うことが証明できれば、ここを通してもらえるだろうとマーリルは目を輝かせた。
「副隊長、お知り合いですか?」
「知らん!」
どう考えても今マーリルを知っているように話をしていたはずなのだが、どういうわけか知らん振りをしている。
本来兵士が門番をしているはずが、氾濫のために兵士は出払っているようだ。その代わり貴族の出が多い騎士――たぶん下っ端なのだろう――が王都の防衛を担っているようだ。
(だがそれは想定内だ!!)
「この間の蟲が何か判明したんですよ」
「…………」
「ファンダル様とも検証しましたし、」
「…………」
「副隊長様が協力してくれて、ファンダル様も感謝して、」
「何!?」
(く、い、つ、い、た!!!)
マーリルは日頃しないだろう悪どい顔をした。
「ですが、早くしないとファンダル様もこの忙しい日で忘れてしまうかもしれないですし」
「―――――っ」
「話をしておかなければならないので、通して貰ってもいいですか?」
「……う、うむ」
もう少し、もう一押しでいけるはず。そんなことを内心思いながら、副隊長の耳許に顔を寄せた。
「ナイティル様もクルディル様も、覚えてくれているは、」
「通れ!!」
「ふ、副隊長!?」
「大丈夫だ。こいつは毒にも薬にもならん、どこにでもいる冒険者だ」
(こ、こいつ)
「それでは、ご苦労様です」
許可が出たのでマーリルは何気ない顔で門を通っていく。
(言質は取られていない)
ふふふ、と悪どい顔を隠しながら漸くサンドイに足を踏み入れることに成功した。
副隊長がせっかちなお陰で言葉を遮られたため、肝心なことは何も言ってない。そのことに副隊長は気が付いていないようで、もう一度ふふふ、と笑ってからマーリルは身体強化で再び爆走していった。
サンドイの街中を歩きながらマーリルは探索を発動させた。
(一度視認してるから探せるかな?)
そんな割と適当ではあったが、マーリルの魔力はすかさず発動してくれる。
サンドイに侵入している二体の魔物は、そこまで速度があるわけではないがどうやら同じ場所に向かっているようだ。
「王、城?」
マーリルの嫌な予感は加速する。とにかく急がなければと王城へ向かった。
一体はすぐにみつかった。マーリルが居た場所から王城への行く道の途中にいたために、魔眼で確認して今は後をつけている状態だ。魔術騎士団とともにいた平原の近くに居たカブトムシのような蟲の魔物で、近づいても逃げる様子も殺気も感じられない。さらに近付くと、小さく『無』という字も確認した。
この間はすぐに倒してしまったために、消えかけていた漢字を今ははっきりと確認できる。直接蟲の身体に彫っているものに魔力を流し込んでいるようだ。捕まえて観察で見た方が確実だが、カブトムシであれば飛ぶことが出来るため今は単純に観察している状態だ。
(どうしよう)
誰にも相談できないのが辛い状況である。このまま倒してしまってもいいものか、それとも目的まで確認するべきか迷う。
「あでっ!」
「何をしている!!」
下を見ながら蟲を追ってきてしまったため、誰かにぶつかってしまったようだ。誰にぶつかったのだろうと顔を上げると、
「怪しい奴!!」
サンドイの門にいた門番に似た制服の騎士が憤怒の表情で立っていた。元々王城の近くでカブトムシ(仮)をみつけたために、すぐに王城にたどり着いてしまったようだ。
「あ!」
マーリルが王城の門兵に捕まっている間にカブトムシ(仮)は、何食わぬ顔で王城の中へと侵入していってしまった。
「あ、あの!ふぁ、ファンダル様はいらっしゃいませんか!?」
「誰だお前は!」
「あ、ああ、あの、冒険者のマーリルと申します」
「そんなことは聞いていない!一冒険者が何をしに王城に来ているのか聞いているのだ」
(ああもう!!誰だって聞いたじゃないか!!時間がないっていうのに!!)
そんなやりとりをしている間にカブトムシ(仮)はずんずんと中へ歩いていく。
「ああああ!!」
途中でもう一体と無事(?)合流出来たらしく、二体で仲良く歩いていく。因みにもう一体はこの間と同じ団子蟲だった。
「何事だ!!」
マーリルの叫び声を聞いて門兵が更に増えていき、マーリルの不審者具合もどんどんと上がっていく。
「誰だお前!!」
(同じこと聞かないでよ!!)
マーリルは焦るあまり思考が纏まらず、どうしたらこの状況を打開できるのか思いつくことが出来ない。門兵が増えたせいで二体の蟲の魔物の姿がとうとう見えなくなってしまい、更に焦る。
(どうしようどうしようどうしよう)
こんなくだらないやりとりをしている間にも、蟲の魔物はどんどんと王城へ侵入しているのだ。それに呼応するように門兵は更に数を増やしていく。
こんな時こそ冷静にならなければいけないのだが、マーリルの思考は停止寸前だ。
――助けて!!青狸!!今にも叫びだしてしまいそうだ。
誰でもいいから知っている人は通らないものかと王城を上に見上げると、まさに二階のところで見知った姿を見付けてしまった。
(確か……クルマリオ様!!)
国王陛下の隣に居た宰相を発見した。このまま叫んでも声は届かないことは愚か、ぴーちくぱーちく各々でしゃべっている門兵に不敬罪で捕まってしまうほうが先だろう。
(し、仕方ない。今は緊急事態だ!!)
マーリルはこの後するだろう自分の行動の理由を無理矢理作り出した。あながちはずれてはいないのだが、一歩間違えると本格的に不敬罪で捕まってしまうかもしれない。ただ、魔物が王城へ侵入したのはまぎれもない事実なのだ。それさえ後でわかればなんとかなるだろう。
最後はまさに神頼みだった。
(後でいっぱい怒られるから、どうか)
懺悔しながらマーリルはクルマリオ目掛けて、跳んだ。
「は!?」
そんなすっとんきょうな声を出したのは、今マーリルの眼前にせまるクルマリオだ。
「宰相様、すいません!!どーけーてー!!!」
身体強化で脚力をあげて、二階にいたクルマリオにむかって単純にジャンプしたのだ。下に居る門兵は静まり返っているので呆気に取られているのだろう。しかしそこは熟練の騎士である。
「侵入者だ!!」
「宰相様を人質にとったぞ!!」
すぐに思考を取り戻すと自分のすべき仕事を始めてしまった。
(騎士様って優秀だ)
勿論そんな暢気な思考は、額に青筋を作り頭にたんこぶを作ったクルマリオの顔を見たために現実逃避してしまったからだ。
マーリルが次にしなければいけないのはまずは土下座である。脳内でジャンピング土下座を決める自分を想像しながら、マーリルは口を開くのだった。
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