第十一話 マーリル、ギルドに興奮しました
大変申し訳ないです!
10話分抜かして投稿してました!先に11話読まれた方すいません!
明日も予定通り投稿します。
これからもよろしくです!
「スタンガートさん」
「あんだ……」
マーリルの手の中には大銀貨が二枚握られていた。
「それはお前が持っている知識を売ったものだ」
「ですが」
「お前は渡り人を……」
「え?」
マーリルはヒヤリとした。ヴィアーナにあれほど気を付けるように言われていたのに、速効でバレたかと肝を冷やした。
「渡り人に知り合いでもいるのか?」
「あ、はい!」
少し元気よく返事をしすぎただろうか。しかしそれに気にした様子のないスタンガートは、マーリルに硬貨をしまうように言った。
「ま、何はともあれそれはお前が自分で稼いだ金だ。俺はあのぱすたも売れたし、これで無駄遣いだとは言わせねぇよ」
にやり、とスタンガートは笑った。金に汚いものは他人の金にも厳しいらしい。そして最終的には自分の矜持を守ったようだ。
「わかりました」
僅かに口を尖らせて、それでもマーリルは嬉しそうに笑った。
「今日はこの街で泊まりだ。後は好きにしろ」
「わかりました」
マーリルは裏道には近付かないように言い含められて、知らない人には着いていかないように約束させられてから漸く街を散策にでた。子供扱いしすぎである。
「やっぱりギルドかな」
真亜莉は今まで双子のために生きてきたと言っても過言ではない。子離れはとても寂しいが、二人が元気に成長してくれたならそれ以上に嬉しい気持ちになる。
十莉は魔法師団というところで働いているのだろう。もう労働が出来る歳なのだ。上手くやっていることがすぐに想像できた。
悠莉は結婚するという。そう言えば結婚式はいつなのだろう、と今更ながら気がついてしまった。
(悠莉の花嫁姿……綺麗だろうな)
間に合うならこの目で見たかった。
どちらにせよすぐにストロバリヤに行くことは出来ない。もしも入国の目処がたったとき間に合うならば、
(おめでとうと直接言いたいな)
知らず空を見上げていた。
何とか人に訪ねながら互助組合の建物の前にやって来た。
ラノベでは大概互助組合には酒場が併設されていたが、ここではどうだろうか。
マーリルは好きにしていいと言われて一度宿の部屋に入ったのだが、せっかく来た――ファンタジーな世界の――街だ、と思い直し少し観光してみる事にしたのだ。
スクラムでは商会と八百屋とヴィアーナたちのログハウスの往復で、特に見てまわっていない。カイティスという獣人だけでも世界を渡った実感は感じたが、どうせなら『荒くれ者が集うギルド』をこの目で見たかった。
身体強化も相変わらず発動はしっぱなしだ。アボロスバスティもあるので大丈夫だろう。
久々にラノベ大好きっ子の血が騒いだことを優先してしまった。この辺りがマーリルに危機感が足りない所以だろう。
マーリルはギルドカードを持っている。それはこの世界の身分証明になり、大きな街に出入りするときには提示を求められるため、領主であるジョイルが特別に用意してくれたものだ。
提示するときには名前とランク位しか表示されないので、『マーリルFランク』としか表示されていない。
互助組合は扉が開け放たれた状態でマーリルを出迎えた。想像していたよりも小綺麗な建物で、夕方近いこの時間帯の人の出入りは多い。依頼から帰還報告に来ているものと思われる。
マーリルは恐る恐る入っていった。ざわり、と周りがざわついたような気がしたが、しかりほども自分が起こしたとは思っていないマーリルは、受付をしているカウンターを一瞥してからキョロキョロと見回してみた。
長蛇とは言わないまでもそれなりに混雑している列と、イメージ通りの壁に張られた依頼書の数々。それなりの広さがある互助組合内は、やはり酒場が併設されており、依頼完遂の祝杯かそれなりに騒いでいた。
辺りを見渡しながら何人かと目があったが、興奮したマーリルは全く気にしていない。
(本物のギルドだぁぁぁあ!冒険者!)
既に冒険者――イオシュネ商会の護衛二人――に会っているのだが、『ギルド内の荒くれ者』というのが重要なのだ。
しかも自らも身体強化という魔法を発動中にも拘わらず、魔術師らしき外套の人にも興奮しているのである。
(いやぁ、マジもんのファンタジーだわぁ)
ほっこりと笑んだマーリルにまたしても衆目が集まる。そこで漸く自分が注目を浴びていることに気が付いたマーリルは、自分の服装を確かめた。
今着ている服は一般的な市民が着ているなんの変鉄もないシャツにズボンだ。黒髪黒目を渡り人だと認識しているこの世界の人々に、初見で渡り人だと見抜けるものはいないはずだ。
何故自分は見られているのかと首を傾げたが、考えても解らないのでさっさと考えることを放棄した。見渡したいところはまだまだあるのだ。
例え女だと分からないながらもすらりとした体格の、大人になりかけの色気が漂う十分衆目を集める容姿だということに本人ばかりが気付かない。
スタンガートも言っていたではないか。「どこの貴族の坊っちゃんだよ」と。
市井ではとんと見掛けないような美しいプラチナの髪の毛に、エメラルドグリーンの眸は宝石のように煌めいている。
男でも女でも大人でも子供でも、どうでもいいと思う輩がいることをやはり危機感が薄いマーリルは気付かなかった。
「何か探しているのかい?」
特に意味もなく依頼書を眺めていたマーリルに声がかかった。混雑しているのはカウンター辺りで、依頼書周辺はこの時間帯から依頼を受けるものがあまりいないらしく空いている。マーリルはここぞとばかりにキラキラした瞳を壁に向けていた。
ランク別に張られた依頼書は、三段階に分けられる。
下位――E・F――向けのお使い程度の依頼から植物採取、調査や弱い魔物の討伐など。中位――C・D――向けはパーティー依頼や平民からの討伐依頼が多い。上位――A・B――向けは主に貴族からの依頼が多く、褒賞金も跳ね上がっている。それ以上のランクの依頼はここには張られていない。
(うわぁ上は魔物討伐ばっかりだな。私、やれるかな?)
危険な世界だと頭ではわかっていても、なかなか自らが危険に晒されなければ実感はわかないものだ。
まだ何となくラノベの世界にいるような、地に足がついていないようなふわふわとした感覚でいたのかもしれない。そんな時に声を掛けられたものだから、思わず肩が跳ねてしまった。
「あ、いえ。どんな依頼があるのか見ていただけです」
「君は冒険者なのかい?」
そもそも装備も何もつけず、市民が着ているような服を着ている時点で冒険者だとは思われてはいないだろう。間違っていない。
顔をあげたマーリルの前にいたのは真っ赤な頭をした女冒険者だった。革鎧をつけていることから、彼女は冒険者で間違いないのだろう。
「いえ……」
いきなり知らない人に話し掛けられてマーリルの危機探知が漸く反応した。
ニコニコと人の良さそうな笑顔の女性だが、腹の中で何を考えているのかはわからない。
「そうなの。ちょっとこっちにいらっしゃいな。おねぇさんが一杯奢ってあげるわ」
そう言って強引に腕を引き互助組合に隣接している酒場に引っ張って行かれる。
身体強化をしたマーリルにとってこの腕を振り払うことは簡単だ。しかしその後にどうなるのか想像がつかないためなるべくならば穏便にことを済ませたい。
この女冒険者はマーリルをどうしたいのだろうか。何も知らない子供を騙して連れて行きたいのか、それとも―――――
真亜莉は日本にいるときに普通の対応というものをされたことがあまりない。
びくびくとなにをそんなに怯える必要があるのか、というほどに怯えられながら話を――どうにか――するか、不遜な態度でお前とは話しさえもしたくはない、と言わんばかりに不機嫌な態度で話をするかのどちらかが多い。
前者は震え過ぎていて顔を赤くした女子が多く、後者は何もしていないのに睨みつけてくる男子が多かった。
そのためなるべく笑顔を向けて柔らかく感じるられるように相手に接してきた。そうすると相手の方も話しやすくなったのか会話が出来るようにはなんとかなった。所詮はそのレベルだが。
ただ他に強引に話し掛けてくる女子が増えた気もした。そう、目の前の未だに腕に手を絡ませている女性のように。
そんななかば現実逃避のように思案していたマーリルには聞こえていなかったのは幸いか。
「将来が楽しみだわぁ」という女冒険者の呟きを。
元々注目を集めていたマーリルが酒場の方に足を向けるとざわり、と空気が動いた気がした。
そんな空気を気にせず既に飲み始めているテーブルに近づき、女冒険者は空いた席に腰を下ろした。
「座りなさいな」
「やだぁ、何連れてきちゃってんのよぉ」
「あら可愛い」
「え、あの」
どうやら女冒険者のパーティーメンバーらしく、みな笑顔でマーリルに視線を寄越してきた。
ひきつる口角を無視して困惑の声をあげる。日本に生息していた肉食女子を思い出したのだ。
「わた、ぼ、僕お酒飲んだことないんですが、」
これで諦めてくれればいいのだが、と内心遠い目をしながらマーリルは言ったのだが、女子はどこの世界でも強いのだ。
「やだぁ!かーわーいーいー」
「おねぇさんがお酒の飲み方教えてあげるわ」
「おっちゃん!エール四つ!」
話が噛み合っていない。女三人で姦しいとはよく言ったもんだ。このテーブル、実際にいるのは女四人だが(蛇足)。
そんなきゃあきゃあ楽しそうに騒いでいれば物凄く目立つ。目立つ上に一見女三人と男一人のハーレム状態だ。この後の展開は嫌でも想像がついてしまった。
「にいちゃん楽しそうだな」
こんなところにまでテンプレ展開持ってこなくていいのだが、と今度こそマーリルは遠い目をした。荒くれ者を見たい――但し傍観者的立場で――と思っていたことが悪い方向にいってしまったらしい。
「そんなに女侍らせて、こっちにも少しわけてくれよ」
「そうだ!そうだ!」
「ねぇちゃん一発ヤらせてくれぇ!」
隣のテーブルに座っている『ザ・荒くれ者』たちは、下卑た視線をこちらに向けている。大分飲んでいるのか顔を赤らめて舌舐めずりをして、こちらを見た。
(こっちを、見た……?)
ぞわりとマーリルの背筋を通り抜ける。一人だけ違う趣向の人間が混じっているようだ。
しかし女冒険者たちも慣れているのだろう。特に気にした様子もなく、運ばれてきたエールを飲んでいる。
「ほらほら君も飲みなさいな。あ、そう言えば名前聞いて、」
「無視すんじゃねぇ!」
「うるさいなぁ」
無視された男の一人が激昂した。それにわかりやすく顔を歪めた女冒険者は面倒くさそうに嘆息した。
「んだと、このアマが!」
周りもこんな風景は日常茶飯事なのだろう。特に騒ぎになるどころか、「やれやれぇ!」と囃し立てる。
マーリルは「はぁ」と盛大な溜め息を吐き出して席を立った。
「ちょっとぼっちゃ、」
名前を名乗りあっていないので坊っちゃんと呼ばれ掛けたのを笑顔で黙殺した。黙らされた女冒険者の頬が赤い気がするのは気のせいだと思いたい。
「あん?てめぇがやるのか」
「今なら金貨一枚で許してやるぞ」
「いやいやちょいと足りないんじゃないか」
「いいですよ、貴方たちに金貨差し上げますよ」
その瞬間見えたにやりと笑った顔をマーリルは見逃すほど甘くはない。本当にただの荒くれ者らしい。このままただ金をあげれば、更に持っていると思い集ろうとしてくるだろう。だから―――――
マーリルは徐に胸元からナイフを取り出した。
「但し、」
ざわり。此方を静観していたのだろうまわりのギャラリーたちから何事か声が漏れ始める。
「一つゲームをしましょう。それに勝てば持っているだけの金貨を差し上げます」
こんなことはこれからいくらでもあるのだろう。なら自分の力で払っていくことが出来なければ、無事に悠莉と十莉に会いにいくことが出来ない。
マーリルは嗤っていた。




