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第十話 マーリル、旅に出ました

大変申し訳ないです!

10話分抜かして投稿してました!先に11話読まれた方すいません!

明日も予定通り投稿します。

これからもよろしくです!




 一日目の朝食のみ持参。朝早くに出発するため弁当(朝食)がいるようだ。

 あとは保存食を食べつつ、町があればそこで夕飯を、なければ野宿――販路が出来ているので宿場場所(石が積んでいるだけ)で簡単な夕飯を取る。合計往復約一ヶ月の旅程だ。


 早朝も早朝、スクラムを出発するのが早朝なためログハウスを出るのは更に速くなるまだ薄暗い朝、マーリルは湖の前に居た。その身体から湯気を発していることから早朝トレーニングをした、かと思えば、


「いい湯だった」


 朝風呂をしていた。マーリルの顔は酷く満足気だった。


(暫くお風呂入れないからなぁ)


 マーリルは昨夜のうちに作っておいた朝食がマジックボックスに収納されていることを確認して、ログハウスを出た。


「十分気を付けるのよ!」

「はい」

「アボロスバスティがあれば滅多なことにはなりはしまい」

「…………」


 マヌアーサが心配性のヴィアーナに突っ込みを入れたが、黙殺されていた。笑顔で。ただし目は笑っていない。怖い。


「本当の本当に気を付けるのよ!」

「はい」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫です」

「わかったわ。ここで待ってるからちゃんと帰ってくるのよ」

「はい」


 マーリルはこうしてログハウスを出発したのだった。


 実は昨夜も同じやり取りをしている。マーリルが帰ってからヴィアーナに報告したため、すぐに行商に出ることを知ったのだ。


 それを思い出してマーリルはくすりと笑った。ヴィアーナは心配性だな、と思いながらも擽ったい気持ちになった。


 そして、ファルファッレの正しい使い方を売り付ける(・・・・・)ために朝食も用意したのだった。





「おはようございます」

「おう坊主おはよう」

「おはよう」

「おす」


 まだ閑散としている街並みを歩きながら、一ヶ所だけ既に賑わっている店――イオシュア商会に辿り着く。建物に入りながら挨拶を交わすとそれぞれ返ってきた。


 今回行商に行くのはマーリルと二人の商人、そして護衛の冒険者が二人だ。



 この世界の人々は紙ほど軽い命を守って生きている。それは強者に守って貰ったり、自衛だったり様々な手段があるが、どこに行くにも命の危険があるということだ。

 そのため互助組合ギルドから冒険者を雇い、護衛して貰いながら行商することは常識と言える。


「おう来たか」

「スタンガートさんおはようございます」

「おう」


 奥から出てきたのは既に外套を着込んでいるスタンガートだ。朝は弱くないのか既に目はぱっちりと開いている。


「今日護衛して貰う冒険者だ」


 顔馴染みなのか二人の冒険者はスタンガートと気安そうに挨拶を交わしていた。


「昔っからの付き合いなんだ。スレイ、ミールこいつはマーリル。雑用で雇ったが水魔術が使える。まだ16だ」

「マーリルくんよろしくね」

「よろしく頼む」


 一人はニコニコした笑顔の眩しい細身ながら大剣を背負ったスレイと、無表情ながらもきちんと会釈して挨拶してくれたガタイのいいミールは腰に細剣を差している。イメージが逆だ。


「二人ともBランク冒険者だ」

「よろしくお願いします」


 命を預ける相手だ。礼儀は欠かせない。



 冒険者にはランクがある。それは単純な戦闘能力だったり、依頼人の評価だったりで上がっていく。下はGランクから上はSXランクまであり、Bまで行けば上位冒険者、Aランク以上だと国から直接依頼があったりするそうだ。SXランクは話に聞くだけで実在するのかは誰も知らなかった。


 そんな二人のBランク冒険者が護衛するとは結構な物々しさなのかと問えば、二人が買い物をするときにいろいろ優遇することで空いていれば優先的に護衛についてくれるそうだ。繋がりって大事。


 そんな二人とスタンガート、そして交渉が一番得意だという犬の半獣人であるカイティスという商人の五人で出発する。


 半獣人はその名の通り半分だけ獣人である。見た目は人のそれと変わりなく獣耳と尻尾を有している。しかし人の中には人間至上主義を掲げている者もいるため、人と同じ――耳や尻尾を隠せて獣人だと気付かれない――見た目になることも出来る半獣人が行商に出ることが多いようだ。

 膂力りょりょくで言えば全獣人――動物が二足歩行しているような獣人――のほうがあるのだが、こちらが変身できるのは獣型らしく行商に行くことは稀らしい。


 初めての獣人を前にマーリルは興奮を隠しながらカイティスを凝視していた。


 カイティスは後に語る。あの時は意味のわからない熱視線を感じたと。熱い筈なのに背中には冷たい何かが滑り落ちると言う矛盾した何かを感じた。主に頭部みみに―――――


 目指すはサティア国王都サンドイだ。


 




  ▽


 がたんごとん、と音を立てながら馬車は進む。販路はある程度の舗装はされているが、それでも踏み固められた道でしかない。割りと揺れる。もっと酔ったり尻が痛くなるかと思っていたが、全身身体強化しているお陰でどちらも然程気にならなかった。

 因みに護衛の二人は馬に乗っており並走している。


 飼い葉などの餌が結構な場所を取るため馬はあまり使わないと聞いていたのだが、この馬――一見唯の動物の馬なのだが額に巻かれた布を取ると目があるらしく――は三眸馬(アイテール)という魔獣だそうだ。主食は肉で、途中で狩るそうだ。因みに馬車に繋がれている馬も三眸馬で、この世界の移動手段に多く用いられる魔獣だ。


 今御者台にいるのはスタンガートとマーリルである。カイティスは後ろで朝食中だ。


「飯持ってきたんなら食ってもいいぞ」

「はい」

「後ろで食いたいならカイティス終わってからにしろよ」

「大丈夫です」


 幌付きの立派な馬車はそれなりの大きさを持つ。しかし積めるだけ積み込んできた積載率99パーセント(当社比)。後ろには一人分ほどの隙間しかない。しかも驚くことにマジックバックに詰め込んだ物も多く、見た目よりも三倍は荷物があるのだと言う。


 マジックバックはマーリルが持つマジックボックスを似せて作った魔道具だ。勿論似せている、というだけありその性能は一段も二段も下がってしまう。


 マジックバックは時間の停止もしない――真空状態ではあるので劣化はしにくい――し、鞄の口に入る大きさでなければ入れることはできない。大きな物は収納出来ないということだ。



 御者台はとても不安定だった。座るだけならいいが、食事まではしにくいため一人ずつ後ろの荷物の隙間で取っているそうだ。しかしマーリルは平気である。それに目的があるため、スタンガートの隣で食べるのは願ってもないことだった。


「いただきます」

「おー食え食え、て何だそれ」


 昨日頂いたファルファッレ。昨夜作ったラザニア風でも良かったのだが、持ち運びに向いていないため断念した。


 お弁当と言えばこれである。サンドイッチ。

 マカロニサラダパン、もといファルファッレサラダパン。炭水化物オンザ炭水化物の栄養素大丈夫かと聞きたくなるサンドイッチである。


 渡り人である日本人がそれなりに食文化に貢献しているため、あれはあるだろうとヴィアーナに尋ねたところ。当然のごとくあったマヨネーズ!

 塩と卵と油で出来るため比較的早く出てきた調味料らしいが、塩も卵も植物性の油も安くはない。そのためあまり浸透はしていないらしい。簡単なのに。


 胡瓜もどき――クーリーとオニィを千切りにして、オニィは水にさらす。一角兎(ホーンラビット)の肉を湯がいて手で割き塩をさっと振っておく。ファルファッレを塩をいれたお湯で茹でてから、水をきった全ての材料とマヨネーズを和えるだけある。それをパンに挟んで完成。パンが固いので少し位水分が残っているほうがいいかもしれない。


(うまうま)


 移動の時はサンドイッチがとても便利だ。そもそもサンドイッチ(食べ物)を開発したサンドイッチ(人名)は、片手で食べられるものをということで作ったのだ。手軽に食べられてこそだ。


「昨日のファルふぁ、ぱすた(・・・)ですよ」

「なんか旨そうだな。もうないのか?」

「ありますよ」


 かかった!内心ニヤリと笑ってやる。


「一個く、」

「銅貨二枚ですが、昨日ぱすた(・・・)を頂いているので銅貨一枚でいいです」

「ケチ臭せぇな」

「スタンガートさんに言われたくありません」

「ふ、嫌いじゃないぜ、そういうの。商売には大事なことだ」

「ありがとうございます」


 どうやら嫌味ではないようだ。銅貨一枚とサンドイッチを交換した。

 銅貨一枚日本円で百円くらいだろう。その下には十円ほどの価値がある小銅貨と、千円ほどの銀貨がある。更に銀貨十枚で大銀貨、更に大銀貨十枚で金貨になる。金貨一枚で十万円の価値があるとか怖すぎる。更に白金貨なるものは怖すぎて考えないようにした。



「お、旨めぇな!てかこれ昨日のぐらたん(・・・・)に入ってたやつとちげぇな」

「調理方法が違いますので」

「どう作るんだ?」


 無言で手を出してやった。

 ちっと舌打ちして渋々銅貨を出してきた。ケチ臭いのはどっちだ!


ぱすた(・・・)は茹でてから料理に使うんですよ。昨日のは茹でずにベシャメルソースに入れたので芯が大分残っていましたが……どんなレシピ買ったんですか?」

「あ?一番安いやつだな。材料とだいたいの作り方だよ」


 ドヤ顔に苛ついたので、爆弾を落としてみた。


「調理方法が正しくないので無駄遣い(・・・・)でしたね」


 ピシリ。空気が固まった気がした。

 そうドケチな性分の商人にとって『無駄』という言葉は忌避すべきものだ。特に『無駄遣い』など金を棄てたと言っているような言葉は、


「俺……が、無駄遣い……だと」


 憤怒に値する。


 スタンガートがぴるぴると震えているのは何も凍えているからではない。寧ろ隣にいるマーリルの方がぴるぴると震えていた。恐怖で。


(言い過ぎたぁぁぁあああ)


 あんな冒涜のようなグラタンを出されたことへの意趣返しだったのだが、ここまで怒らせるつもりはなかった。


 この世界は生きることが第一の目的なために娯楽と言ってもいい『食事』は日本ほど発展してはいないのだ。特に飽食大国と呼ばれる日本と比べるなど怠慢も甚だしい。

 マーリルは申し訳なくなった。


「坊主はあのぐらたん(・・・・)の作り方を知っているのか?」

「は、はい……」


 怒りを堪えながらスタンガートはマーリルに問い掛けた。それに震えながら答えを返すと、にんまりと人の悪そうな笑顔が返ってきた。

 ひくり。マーリルの口の端が歪んだ。嫌な予感がする。


「次の街に着いたらちょっと付き合え」

「はい」


 マーリルに拒否権はなかった。



  ▽



 ファルファッレは先に茹でて水を切っておく。

 火の通りははやいため料理によっては先に茹でる必要もない場合もあるが。


 鍋にオニィ(玉ねぎ)を炒めてしなっとなったら、一口大のガルッズ――野生の鶏のような動物――の肉も一緒に炒める。嵩増しにこれまた一口大に切った皮を剥いたルテト(いも)も火を通し別の容器に入れておく。


 鍋にバターと小麦粉を同量入れて混ぜたら弱火で玉にならないようにミルクを少しずつ入れていく。混ぜ終わったら塩胡椒で味を整えてファルファッレと炒めた具材を全て、出来上がったベシャメルソースに加えて耐熱容器に入れる。パン粉とチーズをかけて釜にいれれば、完成である。


「具材はかわんねぇのに、調理の順番が全然ちげぇ」


 ここはスクラムから王都までの途中にある第一の街『スチマ』である。余程悔しかったのか宿について直ぐに調理室に入れられた。どうやら馴染みの宿らしく、少額で厨房を貸してくれたようだ。


「熱いうちに食べてください。中の具は一度火を通しているのでチーズが溶けてパン粉が焦げればすぐ食べられます」

「おう」


 そう言ってスタンガートはさっそく食べ始めた。はふはふ言っているのはあつあつ出来立てだからだ。やはりグラタンは出来立てがいい!


「うお!めっちゃうめぇ!」

「ありがとうございます」


 街の中で材料が揃ったので大量につくってある。みんなの分もあるはずだ。厨房で食べるわけにはいかない――スタンガートは味見という名目で一皿食べているが――ので、護衛二人とカイティス、それに自分の分を宿の食事スペースに運ぶ。


 今は昼には遅く、夜には早い時間なため食事スペースには誰もいない。昼食は簡単な保存食だったので、腹の空きもだろう。


「せっかくなのでどうぞ」

「これぐらたん(・・・・)すか?こないだとちょっと違うような……」


 あのぐらたんを本物だと思わないで欲しい。ファルファッレを固い食べ物だと思わないで欲しい。そんな気持ちを笑顔で隠し、どうぞと進めておいた。

 冒険者の二人は不思議そうな顔で見ていたが、旨そうな匂いに釣られて木製のスプーンを手に取った。


「っ!」

「なんだこれ!」

「これは、べしゃめるそうす(・・・・・・・・)、か?」


 三者三様に反応しながらもはふはふと熱そうに手を止めない。それに満足げに笑ってマーリルも食べ始めた。


「おい坊主ちょっと来い」


 ふぅっと満足しながら感嘆したマーリルは、食べ終わったのを見計らったスタンガートに呼ばれた。


 食べ終わった食器を持って呼ばれた厨房にいくと、この宿の主人兼料理人の男が立っていた。


「このぐらたんのレシピを売ってくれ!」


 そう言って大の男に頭を下げられてしまった。マーリルは困惑するしかなく、隣にいるスタンガートをちらりと見た。

 スタンガートは「さっき味見して貰ったんだよ」とにやりと笑った。どうやら大量に買ったファルファッレも持ってきたらしく、レシピと一緒なら買ってもいいと宿の主人と交渉したらしい。唯では転ばないらしい。或いは絶対に無駄遣い(・・・・)とは言わせたくないのか。


「俺は明日の準備してるから、あとは任せたぞ。マーリル(・・・・)

「――――っ」


 はじめて名前を呼ばれしまった。それは子供の手伝いではなく対価を払って仕事をする一人のとして認めてくれたと言うことなのだろうか。


 ヴィアーナやマヌアーサと一緒に居るときのような気持ちが沸き出てくる。嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちだ。

 マーリルは勝手に上がる口角を無理矢理歪めて、目の前に未だ頭を下げたままの男に声をかけた。





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