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一話、再会と嫌悪

 僕とリツは保育器からの仲だ。

 偶々、僕とリツは同じ日、同じ時間帯、同じ病院で産まれた。しかも、母達は同室という偶然というべきか、運命というべきか不思議な出会いを交わした。


 僕らは、ちょうど昨日十七歳の誕生日を迎えた。……なら、十七年の付き合いになるのか。約二十年と考えると、壮大な気がしてきた。

 リツは僕の家の三つお隣さんで、暇さえあれば互いの家に遊びに行っていた。

 あの頃は仲良かったな。お互い下の名前で、リツ、ユキ、と呼び合っていたのが懐かしい。今や、名字にさん付けだもの。

 同じ保育園、同じ小学校、同じ中学校と障害なく"同じ"に進んで来れた僕らだが、高校だけは同じになれなかった。

 僕がバカだったからだ。頭の良いリツは市内でトップスリーにも入る高校へ、僕は平凡な普通科高校へ進学した。


 それをきっかけに活動する時間枠がズレ、顔を合わす事が滅多になくなった。

 今までずっと同じで居続けたまさに半身の様なヤツがいなくなったことで、小さな喪失感を味わったが、それも一瞬。リツのいない高校生活というのもそこそこに充実して楽しかった。

 けれど、最近なってからは妙にリツと会う機会が増えた。



 ――七月一日。


「ぐげぇ」


 近所のスーパーマーケットで夕飯の買い物をしていた時だった。

 蛙が潰れた様な奇妙な声に振り返ると、後ろにエコバッグを片手に逃げ腰のリツがいた。

 そんなあからさまに嫌な顔されたらいくら僕だって、傷つくよ。

 大体、約二年振りに会った友人との再会の言葉として、それは適切ではないと思うのだけど。


「買い物?」


 取り合えず、社交辞令程度に聞いてみればリツは端正な顔を歪めた。


「じゃなきゃ、ここにいないだろ」


「そりゃそうだよね」


 当たり前の事を聞くなよ、とリツはぼやいていた。

 久し振りに会ったというのに、僕を嫌悪する態度は変わらない。寧ろ、悪化した。

 理由は分からない。思春期特有の父親を嫌悪するあの感情と似ているのか? と考えた事もあったが、どう思い起こしても父親扱いされてないから、違うと判断した。


「リツ」


「何だ、山田くん」


「イヤ、何でもない」


 幼い頃無垢な笑顔で僕をユキ、と呼んでいたリツは何処へ行ったのか。

 他人行儀に山田くんと僕を呼ぶリツは、僕が返答すると苛立ちを隠せずに舌打ちをした。


「なら呼ぶなよ。煩わしい」


「はは、ごめんね。邪魔して悪かった」


「ボク、山田くんのそういう所が大っ嫌いだ。じゃあな」


 美しく端正なその顔を歪ませ、僕にとっては衝撃的な事を言い残してリツは背中を見せた。

 じゃあね、と返そうにも背中はそれを拒否している様に感じられた。

 リツの言う僕の、『そういう所』というのは一体全体どんな所なのか。謝罪する所なんて言われたのだとしたら、今後どうやって反省の意を示せば良いのか分からなくなるね。


「じゃあね」


 今更ながらに、聞こえない様に返事して僕も背を向けた。

 そう言えば、リツの一人称が変わったな。僕の記憶の中で最古のリツは舌ったらずに『リツね』と自身を呼んでいた。

 別に、ボクという一人称に不満がある訳じゃない。第一僕も使ってるし。

 ただ、あの頃のリツがいなくなったのかと思うと、胸に穴が開いた様に寂しい気持ちが生まれるのだ。


 風呂敷をちょいと仕舞おうか。


 リツとは幼馴染みでお互い、親友かつ一心同体な存在として育ってきた筈だ。

 家族としての繋がりはないが、兄弟の様な愛情がある。ましてや、嫌悪だなんて抱いた事はない。

 それは、僕だけの話だったのだろうか。

 リツは、僕と離れて過ごした二年と少しの時間で何か僕を嫌いになる様な事でも知ったのか?

 背が低い事? 足が短い事? 足が遅い事? 頭が悪い事?

 そんな事は生まれた時からずっと側にいるのだから、知ってた筈だ。

 なら、何故――とリツへの疑問は堂々巡りし、答えは出ない。


「僕が、男だから?」


 一人呟きながら玉葱を篭に入れた。

 今日はカレーにしよう。リツが大好きだったチキンカレー。なんて考えながら。

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