おかえりなさい
「おかえりなさい」
プライベートでこの言葉を使わなくなってそれなりになる。
そのことに込み上げる思いが何処かある。
新しくダウンロードした歌を再生させながら、自分が望んでいるものに思いを馳せる。
それなのに、流れる想いは未来ではなく、過去で。
私は貴方がそばにいるということを当たり前にしすぎてたんだと思う。
だから特別感がなくなった。ううん、最初からあったかどうかもわからない。
思えばひどい話だと思う。
なんとなく付き合っていながら、貴方が私の中心かどうか疑い続けてたのだから。
当たり前過ぎて近過ぎて、貴方への想いは……自己愛にとても近い。
寂しいとは思う。
恋しいと思えない。
今、貴方へ馳せる想いは不明。
そう、貴方が他の女性と話しているのを見て何かを感じることはなかった。
貴方が私に嫉妬して欲しいと思っているって言って来たのは貴方の部活のマネージャー。
『誤解しないでね』
そう言って笑う彼女の目は笑ってなくて薄気味悪く感じた。
言いそうだった。『欲しいんだったらあげる』って。
そんなことをつらつら思いながら出たはじめの答えは『私は誰かに恋をしたことがない』という至極、単純なそして寂しい答えだった。
なんだか人としての欠陥を指摘されたかのような自覚で不愉快さを多分に含んでいた。
成長出来ない質の人間だったのか、貴方に阻害されていたのか僅か悩む。
新しい貴方の影のない部屋。
一人分の料理を作ることにも馴れてきた。
ディスカウントで買ってきたチューハイを缶のまま煽る。
安っぽいベランダの手すりから眺める世界はどこまでも蒼くあおく私の心の奥の迷いを沈めるように蒼かった。
イヤホンから聞こえるノリのよいシニカルな歌詞がなんだか孤独を感じさせた。
それでも、きっと一人にかえるってこういうことなんだと思う。
「おかえりなさい」
私は私に今かえってきたの。