変化の朝
起きれば、君は居なかった。
しばらく気がつかなかったんだ。
荷物が減っていたコトに。いなくなったということに。
君がゆっくり準備を進めていたコトに。いきなり行動を決行したことに。
君は帰る気のない部屋から君の痕跡をキレイに消していった。それが君の痕跡。
僕は耐えきれずに部屋から飛び出した。
君がいない部屋から……。
近所の公園。木陰下のベンチに体をもたせて空を見るとはなしに仰ぎ見る。
どこまでも高くて青くて泣けてきそうだ。
「あれー?」
それは懐かしい声。
「お久しぶりですね。先輩。横でお弁当食べていいですか?」
学生時代の後輩。
ニコニコ笑いながら彼女は横に滑り込んで来た。
二人の関係が変わっても、世界は変わらない。
食事をして、眠って、仕事をして生きていく。生活していく。
新しい住所。
新しい職場。
新しい人間関係。
私は新しい世界で生きている。
貴方だけを置きざりにして。
「先輩、おはようございます」
学生時代の後輩。途中まで一緒に歩く。
「先輩達、やっぱり結婚したんですか?」
うきうきと明るく聞いてくる。
「そう見えてた?」
「はい!」
後輩は手を口元にもっていって明るく笑う。
「リア充滅べって思ってました」
笑顔できっぱり迷いなく。
その迷いなさと思い切りの良さに苦笑がこぼれる。少しだけ額をつついて『駄目よ』と言っておく。
でも、はっきり言う子を嫌えない。
眠れない。食欲がない。意欲が湧かない。
僕の何が悪かったのか?
君が去って僕の世界は変わる。
変わらないものはやっぱり僕は君が好きなんだ。
メールを送ったら返事をくれるだろうか?
僕は送信ボタンをなかなか押せない。
「先輩、おはようございます。大丈夫ですか?」
公園で会った後輩は朝の通勤時に遭遇する。そっと心配そうに見上げられる。
「おはよう。みっともないとこ見せたな」
「いいえ〜、気にしないで下さい」
駅そばの交差点で別れる。
朗らか無邪気に笑う彼女が居てくれたから、まだ強がってられるんだと思う。