番外
「真純、待ったか?」
俺は待たせていた彼女に声をかける。
低めの身長。タレぎみの目は気弱そう。少しポテリとした唇はキスを強請るかのよう。
「なな君、遅いんだからぁ」
甘えた声で駆け寄ってきた真純を躱して、階段を踏み外さないよう支える。勢いの良さについいつもの問いかけをしてしまう。これはそう、お約束という奴だろう。
「真純、俺を落とす気か?」
「だって真潮ちゃんや光未ちゃんにばっかり構ってズルいよぅ」
左右非対称のロングワンピレースにショールを合わせたふんわりスタイル。
子供っぽい口調、子供っぽい、いや、ロリくさい年上女。友人、真潮の二学年上の姉だ。あいつは俺と真純が付き合っていることに気がついていない。
そして、この女。真潮も粘着質のやばい性格だが姉である真純も少し、アレだ。
ちょっと俺が好きが病んでる。
それでも俺達が付き合っていることが彼女の弟であり、俺の友人である真潮に伝わっていないのは俺ではなく真純の意思だ。
最初、友人の姉と付き合うのは気恥ずかしかったがイヤだなんて思っていない。と、言うか、バレたくないという真純の思考回路が理解できないんだが、女なんて別の生物だと思えば、気にならない。
真純は俺をわからないと責める。
わからないからどこまで許されるのか試してくる。
束縛はキツくてウザい。
そう思うけれど、抱き寄せて、覗きこんだ時の真純の瞳の煌めきですべてまぁいいかと思うんだ。
「真純は、俺を好き?」
「キライよ。好きじゃないわ。ひとりじめできないなな君なんて」
言葉とは裏腹にぎゅぅっと抱き着いてくる真純。
「絶対、ひとりじめはできねーよ。ダチだっているし、仕事だってあんだから」
フッと頬を膨らませた真純の頬にキスを落とす。押し付けを強めれば、ぶふっと空気が漏れる。もちろん周囲にひと気がないのは確認してる。非常階段を好んで使うよりエスカレーターの使用率の方が高いのが今時だ。
真純がぽかぽかと殴ってくるのをそのままにしながら、そっと耳元に囁く。
「そろそろ、付き合ってんの公表しねぇ?」
「え?」
「指輪、買ってやるからさ」
「え……。ねぇ」
拗ねたように見上げてくる真純。
「ん?」と聞き返す。
「ロマンティックじゃないし、ムードが足りないわ!」
ひどいと真純はぽかぽかを止めない。
「いらねぇ?」
「酷いわ!!」
こんなところを可愛いと思う。
暴力をふるうことに飽きた真純と食いにいく飯は何がいいかと話し合う。ついでに指輪の石はどんなのがいいかとか。二人でそんな風に歩く。
俺も大概慣らされているなぁと思う。
仕方ねぇよな。
惚れてんだから。
ま、いつかは友人と義兄弟。
未来は長いってな。