プロミス
貴方と買物に行かないわけじゃなかった。
貴方はいつだってすぐ、となりにいてくれて。さりげないスキンシップを好む貴方は商品を選ぶ私のジャマばかり。そりゃ荷物は持ってくれたけど。
他の子に贈り物をした。そんな些細なこと、どうだっていいことだった。意味なんてないのかもしれないし。それなのに心が揺れる。それはどうしようもなくもどかしい。
小さな模造パールののったペンダントトップ。貝殻の内側って虹のように光ってる。それは海の思い出。
貝殻の髪飾り。華やかな印象は私には似合わないのに彼がくれた海の記念。
私は海が好き。青が好き。
貴方は私に綺麗な青を見せてくれる。
これを私は大事にしていていいんだろうか?
ねぇ、どうしてこんなに迷ってしまうの?
あの子に贈ったことを知って、それで貴方との距離を広げてしまったの。
マグカップにいれたインスタントコーヒーに牛乳たっぷり。自分ひとりじゃ朝ごはんの支度も億劫で。りんご一個は多すぎる。
休みの日のブランチ。
理由がなければ部屋で眠っていたいのかもしれない。
道をゆく君の腕をとらえる。
「離して!」
拒絶の言葉にかっとなったんだ。
待ってたつもりだった。僕が好きなのは君だけなんだ。それをわかってくれていると思っていた。
近づいたと思った距離がふいに広げられた。
その理由はわからなかった。
僕と君の両親に君の迷いと僕の決意を告げて、もちろん、僕が暴走気味なのはちゃんと言った。
『わかってる』って苦笑はどういうことかと思うけれど、納得してもらえるなら構わなかった。そのあとで友人にまた呆れられたけど、『犯罪だけは』とか失礼な呟き付きで応援してくれた。
外堀はそっと埋めた。
後は僕の行動だけなんだ。
だから、腕は離さない。逃がさない。その瞳を覗き込む。
「寝言はダメだって、好き、だよ」
言葉を綴る。
落とすキスで塞ぐ唇。苦情も不満も聞きたくない。
抵抗がなくなるまで堪能し、そっと唇を離す。
「僕には君だけだ。手放すことは出来ない」
「でも」
言葉が解ける。君の心も解ければいいのに。
「ねぇ。ご両親から了解は得てるんだしさ、結婚しようよ」
すとんと君の視線に凍度が含まれた。まさに急速冷凍。
「……最低っ!」
そのきれいな瞳を見開いて僕を見る君。
「今すぐ、とは言わないから。ゆっくり準備を進めようよ。やっぱり六月?」
「バカじゃないの。梅雨時はごめんだわ」
僕は君の髪にひらりとしたクリップをつける。歪むことなくつけるのは難しい。
「ありがとう」
求婚を受けてくれて。
梅雨時は外そうね。
だからこっちも受け取ってくれるかな?
これからも僕は君を追い続ける。
だからこれは誓いの約束。
ここで終結となります。