伝わらない
先輩が気を使ってくれている。
それはとても居心地が悪い。
感情的になってしまった私が悪いんだけど。
揺れるコスモスを見ながらどうしたものかと考える。
それでも面白くなくて、心が納得できない。優しいからって先輩に甘えるのはなんだか嫌だ。
他の誰かに甘えるのはなんだか釈然としないんだ。
着信音。携帯のメール。送信者は母。
新しい住居の保証人は伯父に頼んだから、話を聞いて事情と報告くらいしなさいと言う内容だった。
適当に心のこもらない返信内容。『引っ越しました。転職しました』あとは住所を記載した。
両親が嫌いなわけじゃないけど、帰省するたびに『貴方』との進展を嬉々として聞き出されたり、私以上に貴方を我が子のように扱う様は見ていて少し、ううん。……かなり、複雑だと思うの……。
急かされると迷ってしまうの。決め付けられるとつい、反抗してしまうの。そう、嫉妬して見えたこたえ。
私、貴方を自分のものだと思ってたみたい。
きっと私はそれをきちんと自覚したかったの。
僕が望む運命の風はどこかに散歩中らしい。
どん!
そんな、なんてことないコトを考えてぼぅっとしていたら、横からの衝撃音。デスクと仕切りが大きく揺れ、積んだ書類が絶妙なバランスを崩して雪崩れる。
仕事中にぼんやりしてたのも悪かったんだが。デスクの上は、……衝撃さえなければ僕の管理下だったんだ。
そろりと発生源の様子をうかがえば、仕切りむこうの同僚がいらだったように髪をかきむしっていた。
「おい?」
同じ歳同性、職場に入って来たのは一年後輩のそいつはチャラく見えて真面目というキャラだった。普段はチャラい発言以外仕事とかは真面目だ。そんなヤツが壁ドンするなんて驚きだった。
「あーわりぃ、恋愛うまくいってなくってさぁ」
フレンドリーに口にする壁ドンの理由はすごく身につまされる。するりと椅子から立ち上がった後輩は手際よく僕の机から滑り落ちた書類を集めて差し出してくる。
「ちょ、先輩、もーちょっと整理しましょうよ」
雪崩れて崩壊したデスクの様子にヤツは明るく笑う。
「お前の壁ドン衝撃の結果だろ?」
「えー。絶対、それだけじゃないですって」
しばらくゆるい会話をし、退社後、飲みに行った。
「相手がフリーならとにもかくにも行動しないと駄目だろう?」
「本気だからこそ、拒否られるのが怖いっすねぇ。先輩は彼女いるんでしょー?」
「いるぞー」
距離とられてるとこだけど、彼女しか俺の伴侶はないね。