空の下
彼女の職場そばへの近道を辿る。運命の出会いを期待して過す日常。
君に会いたい。君を見たい。君の声を聞いて、君に触れたい。君の鼓動。音楽に膝を打つその振動。愛しさは、欲望はどこまでも尽きない。
君が愛しい。そう思う。距離をとり、君への想いを募らせる。
その独りの時間、想いは薄らぐどころかただ執着が強まったような気すらする。
そんな僕の様に友人は呆れて笑う。
「振られるぞ」
言われて苦笑する。
重いのかもしれない。きつすぎる束縛なのかもしれない。
それでもお前にはわからないよ。
『お付き合いごっこ』を提案されたこの喜びと嬉しさを。
彼女の心はまだ僕に寄っていてくれてるコトを知った僕の心の興奮を。
でも、友人は心配して、気を配ってくれていた。そのコトには確かに感謝してるんだ。
「それでも確認できたんだ。僕は彼女しか愛せないって」
「困った奴だな」
そう言われても、僕がキスしたいのも抱きしめたいのも彼女ただ一人なんだよ。
「あ。せっかく買ったのにまだ贈れてないな」
君のために買ったヘアクリップ。
「指輪か?」
からかうような友人の言葉に動きが止まる。
ゆびわ?
指輪。
結婚指輪。
約束指輪。
君と僕をつなぐ絆。
「そうか、指輪か!」
「あ?」
僕はわかってない表情を浮かべる友人の手をとって上下に振り回した。
「ありがとう! そうだよな! それがいいよな!」
「ぉ、おい? ぼ、暴走しすぎたら引かれるぞ?」
ああ、もちろんだ。
「わかってる! ちゃんと外堀から埋めていく! 協力してくれるよな!?」
彼女じゃなくて友人がドン引きしている。
それでも良いじゃないか。
だって、どうしてこんなコトすら思いつかなかったんだろうと思う。
僕は空を見上げる。
君と繋がるこの空。
君は今この同じ空の下、まだ、何も知らない。