やきもち嫉妬
オフィス街のそのスペースにはお昼限定の販売所が立ち並び、冷たい風すら涼しいと感じられる活気に溢れている。
そこにふっと冷たい風がふく。
ランチを買いに来た広場で空を仰ぐ。
見上げた空は高く青い。まばら散る雲は白さが陰っていた。
「あ! 先輩!」
嬉しげに声をかけてきたのは学生時代の後輩。大きく手を振るサマが幼く見えて周囲に苦笑されている。
視線に気がついたのか、恥ずかし気に一瞬顔を隠す。あんまり、意味はないと思う。
「ちょっと出向中なんですー」
照れ臭そうにごまかす動き。髪をまとめているウッドスティックの先についた緑の組紐が揺れる。
私には似合わない、シンプルだけど可愛い簪。
「かわいいわね」
褒めたの。
「これですか?」
捻りあげた髪を突き通す簪。学生時代はよくボールペンやらを挿してたと思うけど、おしゃれになったものだ。今でも筆記具を挿してるのを忘れて、とか言ったらちょっとアレだけど。
「そう。似合ってるわよ」
組紐の先についた金属は月と星を模り、風に揺れる。
私の言葉に後輩は花開くように笑う。恋でもしたのかしらと微笑ましい。
「先輩に買ってもらったんですよぉ。優しいですよね。先輩。あ、お弁当買えたみたいです。それじゃあ」
彼女は軽く頭を下げて同僚らしい女性の下へ駆けていく。
ランチボックスを買ってぶらりと空いてる場所を探す。
ぽつり
ロールサンドのラップを濡らす水滴。
どうして?
可愛かったわ。あの子に似合ってた。
どうして、ねぇ、どうして貴方が彼女の身を飾るものを買ってあげるの?
思考がどこかゆるい。
どうしてだか心に雨が降る。
天気予報は晴れを歌っていた。
「濡れてるじゃないか!」
そう声をかけて引っ張ってくれたのは先輩だった。
「ひどい夕立だったね。大丈夫?」
ゆうだち?
知らない。本当に雨が降っていたの?
屋根の下。先輩の声が遠い。
「大丈夫?」
繰り返される言葉。笑いがこみ上げる。
それでも先輩の前で笑うのはよくないから抑えなきゃ。
やわらかく笑う。笑えてる?
「驚きましたね。急だったから」
ポンッと先輩の胸元がなぜか近い。
「無理、しなくていいから」
肩を叩く手。ゆっくりとふってくる声。
泣くようなことじゃない。きっと、些細なコト。いつもならたいして気にしないのに。
ああ、
きっと私はあの子に嫉妬したんだ。