赤い糸
心を決めようと思った。
迷いはまだある。
それでもきっと、私は彼が好きで、他を望む時に彼を思い出す。
卑怯でみっともない。
それでもいいかな?
そう考えるのはきっとずるい。
私の心の奥には貴方がいる。
それを知ることが出来た。
金木犀の匂い。庭先に咲く菊。秋の黄色。
心を決めてしまえばなんだか気持ちよかった。
近所のベーカリーでパンと野菜ジュース。
パリッとしたデニッシュ。心のように空も晴れていて気持ちいい。
公園でブランチ。
デニッシュの風味と食感。つかえの取れた心に笑顔がこぼれる。
それなのに、ふと思ったこと。
新しい彼女が居たらどうする?
視界が濁る。
考えたくない思考に脳内の鍋がぽこりと音をたてて泡立つ。そんなことはないと思う。
ちゃりんと音がする。それはキーホルダー。
貴方との部屋の鍵のついたキーホルダー。もう、この鍵は使えないのかしら?
デニッシュを口に運びながら噴水を見つめる。パリッとした食感も味も何も変わっていないのに、変わりようもないのに、急速に味が失われたそれを機械的に口に運ぶ。こぼれた欠片に気がついた蟻や鳩が獲物を狙って寄ってくる。
こないだの貴方はまだ私を見ていた。短期間できりかえれるタイプではないと思う。何も考えずに心が決まったとメールすべきか、様子を確認すべきか。それとも……。
目の前をこぼれたデニッシュなぞ興味がないとばかりに特定の一羽を追う鳩。邪険にされてるように見えるのに諦めの色はなく、首を振りふり追いかける。
緩んだ心がそこにある。きっと私、今笑ってる。
ねぇ、少しぐらい、駆け引きしてみてもいいかなぁ?
真剣な横顔を眺める。
駆け引きを楽しんじゃおうと思って、メールで恋人ごっこをしようと提案した。
ねぇ、私、酷いよね。
それでも自分の心をきちんと確かめたいと告げれば貴方は了承してくれた。
そー言うところがよくわからないんだけど。
「赤い糸、信じてる?」
ベンチに座って唐突に乙女じみたことを言うのは貴方。
貴方が特殊なのか、男の人はどこかロマンを信じてるのか。
それでもどこかで信じてる私は貴方を笑えない。それに、現実も大事だけど、やっぱりね、うん、認めるのはなぜだか癪だけど、夢を抱き続けてる姿は素敵だと思うから。夢を持つことを、夢を追うことをやめて欲しくない。私の拒否感激しいのはやめて欲しいけどね。私にだって貴方に反対されても、『それでも、やめられない』といいたい何かは当然あるし。というか少なくないわ。
でも、それを素直に頷けない私は意地っ張り。
今日はお弁当を持って公園ピクニックデート。
本当は貴方と一緒で嬉しいの。どこか安心してる。
久々に自分以外が食べるのが嬉しくて、
「はい、あーん」
張り切っちゃったんだよ?
希望はあった。焦らされる。「それでも、やめられない」僕の世界は君で構成されている。
無防備に無邪気。君は自分の行動がもたらす効果をわかっていない。
君は、小悪魔だ。